第63話 開戦の合図

 火穂晶ひすいしょうは地上の戦争において、主たる武器として用いられているものだ。これを爆弾と言い換えれば、想像もしやすかろう。

 攻撃の道具があるならば、当然に逆もある。それが純石じゅんせきだった。ふつう、これを盾などの防護用品に加工して、戦いに使うのである。ゆえに、ニシーシが短刀を作り慣れていなかったのも、ある意味では当然のことだろう。

 ムッチョーダ側に、こそこそと移動をはじめていたコーザは、その道中、ルーチカに小声で話しかけていた。


「スキルの発動に関しては、権限が最終的には妖精に委ねられている、そうだな? なら、お前たちには争わないっていう、選択肢があるんじゃねえのか。どうして抗争に参加している?」

「俺様たちはスキルを使いつづけることで、存在が保証されているきらいがあるからな。見ただろ? 野良の妖精たちがどういう状態だったのか」


 言われて思い出せば、出会った妖精たちはみな、意気消沈したようにうつむいていた。まさか、あれは長期にわたって、技を使用しなかったための、弊害だとでも言うのか?

 黙考するコーザをよそに、ルーチカは言葉をつづけた。


「まっ、実際は自分が何もしなければ、相棒が殺されちまうからだと思うぜ。たまにスキルを使わねえからって、早々には俺様たちも、死人みたいにはならねえからな。だが、それも自分の相棒が、いなくなっちまうってんなら話は変わって来る」

「次のパートナーがいつ見つかるのかは、本人にもわからない……か」

「そういうこった。悠長に待っていても、相手が襲って来るのだけは確実だからな。仕方ねえよ」


 やがて、工作地点にまで到着すると、コーザたちは耳飾りとそこで別れた。

 手持ちの火穂晶ひすいしょうだけではない。よく目を凝らして見れば、物資の陰に隠れるようにして、いたるところに、白い粉が置かれているのがわかる。かなり以前から、着々と作業を進めていたのだろう。用意周到なことだ。手当たり次第に、これだけの火穂晶ひすいしょうを燃えあがらせるならば、瞬く間にムッチョーダ側は、それこそ大混乱に陥ることだろう。


「この隙を狙う……耳飾り!」


 にわかに辺りが湿りだす。


(霧……か?)


 いな、それはすぐに雫となった。壁や人、場所を問わずして、その表面に水滴が付着しはじめたのだ。当然、それは火穂晶ひすいしょうにも影響が及ぶ。てんでばらばらに火をつけはじめ、それは独り歩きをしながら、次第に色んなものへと燃え移っていく。


「俺たちはミージヒトだ。行くぞ」


 短期決戦だ。

 氷結のメンバーは、ほかにも大勢がこの場に来ているとはいえ、成員の数には限りがある。拠点を守っておくための人員も、幾人かは残しておかなければならないだろう。その点を踏まえるのであれば、やはり敵の混乱が落ち着くまでの間に、ミージヒトを見つけだしてしまいたい。

 狙いは初動だ。

 入れ墨が走るのに合わせ、コーザとナリナーヅメとも足を速めた。

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