第62話 作戦会議もなしとは、やってらんねえよ。

 コーザがミージヒトを倒すにあたって、その補佐としてつけられたのは、入れ墨とナリナーヅメ、そして、鎖型の派手な耳飾りをした成員であった。

 入れ墨がおもむろに口を開く。


「作戦なんて高尚な何かは、あってないようなものだ。そこの耳飾りが火穂晶ひすいしょうに水をぶっかける。そうしてあらかたの通路を塞いだら、コーザ、お前はなんとしてもミージヒトを見つけろ。あとは俺たち三人で息の根を止める。それだけだ、簡単だろう?」

「肝心の捜索はうち任せか?」

「得意だろ、それとも趣味か」


 イトロミカールしかり、ペルミテースしかりということだろう。どちらにせよ、皮肉で応じて来るあたり、協力的な関係を築くことは、あまり期待できなさそうだ。


「まあまあ、二人とも。オレたちの相手はあくでもムッチョーダだよ? 味方同士で争ってどうすんのさ」


 ナリナーヅメの仲裁で二人が黙れば、代わりに耳飾りが退屈そうに口を開く。


「正味、あーしはど~でも。ただ、ナリーと違って、あーしは確実に、酸性雨トレンチャントを出せるわけじゃないことだけ、押さえといてほし~んですけど」


(……どういうことだ?)


 まるで、スキルを狙って出せるかのような口ぶりだ。ナリナーヅメは、妖精の瞳を持っているとでも言うのか? だが、その態度を見る限りでは、そこまで信心深くはなさそうなのだが……。

 コーザの言わんとすることは、視線から相棒にも伝わったのだろう。ナリナーヅメのそばまで移動したルーチカが、気さくに声をかけてみるが、予想どおりに反応はない。無論、これは仮に見えていたとしても、同じ結果であっただろうが、トライしただけの収穫は得られた。ナリナーヅメの妖精が首を横に振ったのだ。


(瞳を持っているわけではないのか……)


「その酸性雨トレンチャントってスキルが、出てくれればいいんだな?」

「そ~だけど……あんた、どこ見て言ってんの?」


 言葉は耳飾りに向けてのものだが、コーザの視線はその隣へと向けられている。言わずもがな、相棒である妖精のほうにだ。

 小さな舌打ち。


「そうか……君は見えているのか。しゃ~ね~な、やってやるよ」


 自分の技にだけでなく、仲間内のスキルにさえ干渉できるのだから、やはり妖精の瞳を持っているかどうかは、あらゆる面で雲泥の差だ。


(……同じことはミージヒトにも言える)


 ミージヒトが自分自身のことを、どれだけムッチョーダ側に公開しているかは、皆目見当もつかないが、少なくとも今みたいなやり方で、スキルの確率をいじって来ることは疑いない。

 これは想像以上に厳しい戦いになる。

 コーザは目先の激戦を見据え、心構えだけは固めておくのだった。

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