第45話 大胆な発想

 事情を察したニシーシは、喜んで首を縦に振る。


「そういうことでしたら、ぜひご一緒させてください」

「呆れましたの。数日もすれば仲介人が来るというのに、大人しくセーフティで待つという発想が、あなたにはないんですの?」

「仕方ねえだろう? 居座った場合、何が起こるか読めねえんだから。寝るときだけは戻って来るさ。それに……早く先の光景を見ておきたいっていうのは、本当のことだしな」


 長めのため息をつくと、チャールティンは手を小刻みに動かして、コーザたちをうっとうしそうに追い払う。


「わかりましたわ。こちらはニシーシと支度がありますので、セーフティの入り口付近で、待っているといいですの」


 コーザとしては、準備が必要なほどの距離を、ニシーシと見てまわるつもりはなかったのだが、故郷の人々に向けての、挨拶をする時間さえ与えないというのも、いささか急かしすぎている。特に深くは考えず、うなずいてその場を離れれば、ニシーシが不思議そうな表情のまま、チャールティンの顔を覗きこんだ。


「支度って何、チャールティン?」

「コーザはわたくしたちに、置き土産をしようとしているのですから、こちらもちょっとした贈り物をしてあげようと、そういう具合ですの」

「それなら、別に追い出さなくても……」

「あら、ニシーシは野暮ですのね。こういうのは秘密に用意するから、よいのじゃありませんこと?」


 いまひとつ、納得のいっていないニシーシであったが、自分はチャールティンと違って、変なこだわりがあるわけじゃない。ならば、自分のほうが融通を利かせ、相棒の都合にあわせるほうがよいのだろう。


「……う~ん、わかった。それで、何をあげるの? プレゼントって言っても、今からじゃ時間がなくて、大したものは準備できないよ」

「ちょっとしたお守りで十分ですの。純石じゅんせきで短刀を作りましょう。いいですの、ニシーシ? 本当に使うわけじゃないのですから、刀身はあくまでも懐に隠せる程度・・・・・・・に、短めでお願いしますわ」


 そうして作られた短剣を目にしたとき、コーザは苦笑いを隠せなかった。


純石じゅんせきってやつは、モンスター相手には使えなかったはずだが?」

「魔よけの代わりですの。使うことがないのを祈りますわ」


 現実的な考えをするチャールティンのことだ。まさか、字義どおりの道具ということはないだろう。祈るという言い方からして、使用する場面についても、一応は計算して作られているに違いない。

 ゆえに、なおも訝しげに、コーザが指で短剣を摘まんでいれば、ニシーシは少し恥ずかしそうに抗弁していた。


「出来が悪くてすみません……。これでも、何個か作ってみて、その中で一番いいものを選んで、持って来たつもりだったのですが、慣れない・・・・作業だったためか、うまく作れませんでした」

「いや、すまん。そういうわけじゃないんだ」


 自分が怪しんでいたのは、どんな場面ならばこれを手に取るのかという、使用する機会のほうだ。決して、ニシーシの腕を疑っていたわけではない。ゆえに、コーザが慌てて首を横に振れば、そちらについても、チャールティンがぴしゃりと否定した。


「この先、排他的なセーフティにあたってしまったら、どうするつもりですの?」


 なるほど。

 これは対人戦を想定してのものだったか。

 たしかに、いかに純石じゅんせきといえども、モンスターではない人に対してならば、十分に効果があるはずだ。実際、それを利用して戦争をやっていると、以前に交易人も話していた。

 だが、そんなことを言われても、残すところはタオンシャーネだけではないのか。そして、そのタオンシャーネについては、イトロミカールと交流をしている点からも、開放的であると予測できる。

 そこまで考えを巡らせると、ようやくコーザも思いなおした。ペルミテースの話は、あくまでも妖精王に会って、そこで初めて完結するものなのだ。端的に言えば、自分の旅は、タオンシャーネでおわらない可能性が高い。


「なんだ~? とどのつまり、お前もうちのことを、心配してくれているわけね」

「なっ! 調子に乗らないでほしいですの。わたくしはただ、ニシーシが悲しまないようにと思って、やっているだけですわ」

「素直じゃねえな」


 そのときコーザは、何かが切れる不穏な音を、聞いたような気がした。

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