第32話 それじゃあ、ワープゲートを潜るとするかね。

 親しくお喋りするわけでもなく、淡々と案内についていけば、やがては渦巻き状の光が、三人の前に姿を現す。


(……こういうのは、紫色が相場じゃないのか? 知らんけど)


 コーザの期待に反し、その色は気味が悪いほどに赤黒かった。

 ゆっくりと、観察するように少しずつ近づいていけば、コーザの背中を急かすようにギルメンが押す。不愉快な言動にむっとしたが、ためらっていてもはじまらない。意を決して、コーザは光の中へと足をいれた。

 その瞬間、コーザは別の空間へと飛ばされていた。

 一瞬の出来事だ。

 いや、それはもっと短い時間であったかもしれない。踏みこんだ先は、もうこれまでとは違う景色だったのである。ワープの途中にあたる何かは、そこには存在していない。

 ただし、違う景色と言っても、通路の配置がわずかに異なるだけで、残念ながら、ベースとなる黒緑の世界に変化はなかった。


「さすがに、ワープゲートの先が地表だった――ってのは、無理があったか」

「当たり前ですの。そんなことが起こりうるのは、地上にもダンジョンきのワープゲートが、ある場合だけですの。まあ、それも地表の世界が、巨大なダンジョンでなければ、いたるところにワープゲートが存在するなんて、考えられないことですわ。もしも、そんな救いようのない現実であってほしいと、心の底から願うのでしたら、いつまでもそんな下らない夢を、楽しげに見ているといいですの。きっと、幸せな気持ちになれるのでしょうね」


 いつの間に来ていたのか、コーザの横からチャールティンが毒づく。ニシーシが無事に来られたことは、コーザとしても喜ばしかったのだが、この妖精は、一々自分に憎まれ口を叩かなければ、気が済まないのだろうか?

 苦虫を噛み潰したような顔で、コーザがチャールティンを見下ろせば、慌ててニシーシが話題を変える。


「こ、このあとはいったい、どうするのでしょう?」

「……そうさな。偶然、人に出会えたならば話を聞く。それまでは、ひたすらワープゲートを探し、そこへ飛びこむってのをくり返す感じだろうな」

「それでしたら、ワープゲートを探すだけで十分ですの。大体、どこもコーラリネットと一緒でしょう。別のセーフティと接触したいのでしたら、わたくしたちのような、放浪者を捕まえるのが確実ですの。どう考えても、ワープゲートをまたいで旅をするのですから、氷結たちと同様、先方も渦を見つけていれば、事前に占拠しているはずですの」

「ああ……。なるほどな。氷結たちがワープゲートを占拠していたのは、そういう理由なのか」


 迂闊だった。

 思わず、感心の声が口から漏れていた。それ見たことか、チャールティンが自慢げに、コーザのことを見下ろして・・・・・来る。わざわざ、天井まで舞いあがるあたり、子供っぽいというか……以前にルーチカが語っていた、精神が未熟だと、スキルが二つしかないという話も、あながち嘘とも言いきれない。


「はは~ん、さてはお前。ニシーシがうちに懐いているから、妬いてんのか?」


 コーザの核心をく一言に、チャールティンは憚らずに悔しがった。


「むきーっ! ルーチカ、ちょっと莢の炎カートリッジを寄越すといいですの。わたくし、とっても効果的な使い方を、唐突に思いつきましたわ」

「おい、コラ。殺す気が満々じゃねえか」

「ダメだよ、チャールティン。落ち着いて」

「や~い、ニシーシに言われてやんの!」

「あの……言いにくいんですが、コーザさんも十分に大人げないです」

「やっぱ最高だな、お前ら」


 それらはきっと、努めて明るくふるまうための、茶番であったのだろう。


(……初回の移動には成功した。だが、あとどれだけ、同じことをくり返せばいいのかはわからねえ。そしていつ外れを引くのかも……)


 そうなったとき、自分たちはいったいどうなってしまうのかなぞ、言うまでもないことだった。

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