第6話 どうやら、王との約束は人探しのようだ。

 中途半端に壊れた巡回車を、用心深く見つめながら、コーザはゆっくりと立ちあがる。


(まだ、死んでねえだろうが、これで当分は動けねえはずだ)


 それは自分にも言えることだった。どこか休める場所を探し、体力を回復させなければならないだろう。


「クソが……てえ。……いくら生きるためとはいえ、毎回命を賭けなきゃいけねえこの世界は、やっぱゴミカスだわ」


 何か指標になりうるものはないのかと、しきりに周りを見てみるものの、黒緑色の世界が広がるばかりで、目先が変わる気配はない。


「どこだ、ここ?」


 そう言いながら、コーザは壁に手をつきながら歩きはじめた。







 しばらくして、元来た道を引き返すように進んでいれば、どこかで右左折うさせつを誤ったらしく、思いもよらない場所へとたどり着いていた。


「ここは……」


 異質な空間だ。

 それまでの雰囲気とは一線を画す、気味が悪いほどに黒一色の壁。

 何かの目印だとでもいうのか? 中央には、炎のようにゆらゆらと揺れ動く、奇妙なオブジェが鎮座してある。

 間違いない。ここは妖精王についての、うわさがある場所にほかならなかった。


『ただのエネルギー装置じゃねえか。珍しくも、面白くもねえぞ。別に、ここにいたって俺様のスキルストックが、増えるわけでもねえしな。……そんなに怯えてくれるなよ、相棒。ちょっと、憐れに思えて来るぞ?』


 おそるおそるといった様子で、コーザが炎のオブジェへと近づいていく。すると、それに応えるかのようにして、いきなりそれ・・は現れた。

 短い金色の髪。

 病弱なほどに薄く白い肌。

 それとは対照的な、燃え盛るような濃い赤色の瞳が、しっかりとコーザを射抜いている。


「……」


 言葉にならなかった。

 いつからいた? と言うより、こいつは何者だ。

 かろうじて、それが人でないことがわかったのは、宙に浮いていたからにほかならない。まさか、本当に妖精の王がいるなんて、思いもしなかった。


「人を……ペルミテースという人物を私は探しています」

「……え? あ、はい」

『きょどってんじゃねえよ、ボケカス』


 あまりの事態にコーザは我を忘れていたが、やがて正気に戻ると、眼前の妖精王をしげしげと見つめた。


「手伝ってもらえますか?」

「もう一度、言ってくれ」

「手伝ってもらえ――」

「そっちじゃない。……だれを探せって?」

「ペルミテースという人物です」


 示された名前を、コーザは口の中で軽く独り言ちてみる。まるで覚えのない名前だが、どこかしっくり来る気もした。


「あいにくと、慈善事業をやれるほどに暇じゃない。ここは生活の糧を得るためには、喜んで身を差し出さなきゃいけないほど、大層素敵な世界みたいなんでな。ほかをあたってくれ」

「……」


 断りの文句は、大部分がコーザのやつあたりであった。

 ならばなぜ聞き返したのかと、そう言いたげな表情を妖精王はしていたが、コーザとしても心当たりがあれば、また違った対応になっていたことは疑いない。


「褒美は取らせましょう」

「成功した暁には……か? 悪いが、本当に余裕がないんでね」

「では、前払いならばしてくれるのですね。約束しましたよ」

「おい、ちょと待て――」


 だが、それ以上には、コーザの言葉がつづくことはなかった。突如として、その目が強烈に痛んだからである。


「ぐぁあああ! クソ、テメ……何しやがった」


 その目がふつうにものを見るようになったとき、コーザの世界は文字どおりに一変していた。

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