第6話 どうやら、王との約束は人探しのようだ。
中途半端に壊れた巡回車を、用心深く見つめながら、コーザはゆっくりと立ちあがる。
(まだ、死んでねえだろうが、これで当分は動けねえはずだ)
それは自分にも言えることだった。どこか休める場所を探し、体力を回復させなければならないだろう。
「クソが……
何か指標になりうるものはないのかと、しきりに周りを見てみるものの、黒緑色の世界が広がるばかりで、目先が変わる気配はない。
「どこだ、ここ?」
そう言いながら、コーザは壁に手をつきながら歩きはじめた。
※
しばらくして、元来た道を引き返すように進んでいれば、どこかで
「ここは……」
異質な空間だ。
それまでの雰囲気とは一線を画す、気味が悪いほどに黒一色の壁。
何かの目印だとでもいうのか? 中央には、炎のようにゆらゆらと揺れ動く、奇妙なオブジェが鎮座してある。
間違いない。ここは妖精王についての、うわさがある場所にほかならなかった。
『ただのエネルギー装置じゃねえか。珍しくも、面白くもねえぞ。別に、ここにいたって俺様のスキルストックが、増えるわけでもねえしな。……そんなに怯えてくれるなよ、相棒。ちょっと、憐れに思えて来るぞ?』
おそるおそるといった様子で、コーザが炎のオブジェへと近づいていく。すると、それに応えるかのようにして、いきなり
短い金色の髪。
病弱なほどに薄く白い肌。
それとは対照的な、燃え盛るような濃い赤色の瞳が、しっかりとコーザを射抜いている。
「……」
言葉にならなかった。
いつからいた? と言うより、こいつは何者だ。
かろうじて、それが人でないことがわかったのは、宙に浮いていたからにほかならない。まさか、本当に妖精の王がいるなんて、思いもしなかった。
「人を……ペルミテースという人物を私は探しています」
「……え? あ、はい」
『きょどってんじゃねえよ、ボケカス』
あまりの事態にコーザは我を忘れていたが、やがて正気に戻ると、眼前の妖精王をしげしげと見つめた。
「手伝ってもらえますか?」
「もう一度、言ってくれ」
「手伝ってもらえ――」
「そっちじゃない。……だれを探せって?」
「ペルミテースという人物です」
示された名前を、コーザは口の中で軽く独り言ちてみる。まるで覚えのない名前だが、どこかしっくり来る気もした。
「あいにくと、慈善事業をやれるほどに暇じゃない。ここは生活の糧を得るためには、喜んで身を差し出さなきゃいけないほど、大層素敵な世界みたいなんでな。ほかをあたってくれ」
「……」
断りの文句は、大部分がコーザのやつあたりであった。
ならばなぜ聞き返したのかと、そう言いたげな表情を妖精王はしていたが、コーザとしても心当たりがあれば、また違った対応になっていたことは疑いない。
「褒美は取らせましょう」
「成功した暁には……か? 悪いが、本当に余裕がないんでね」
「では、前払いならばしてくれるのですね。約束しましたよ」
「おい、ちょと待て――」
だが、それ以上には、コーザの言葉がつづくことはなかった。突如として、その目が強烈に痛んだからである。
「ぐぁあああ! クソ、テメ……何しやがった」
その目がふつうにものを見るようになったとき、コーザの世界は文字どおりに一変していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます