第7話 ルーチカ
ちらちらと、光る小さな玉のようなものが、視界の端でいくつも瞬いている。自分が暮らす地下の世界は、こんなにも明るかっただろうか?
そう不思議に思いながら、なんともなしに横を見てみれば、そこにはちょうど片腕くらいの何かがいた。
妖精だ。
これまた浮いていたので、すぐにわかった。いや、今度のはサイズ的にも、直感で理解できたと言えるだろう。
身長よりも明らかに長い桃色の髪。どのようにして留めているのか、まるでわからないが、それは途中でくっきり二股に分かれていた。
「うっ!」
驚きの連続に耐えられなくなったコーザは、ついには悲鳴をあげてしまう。ずいぶんと下品な声だったが、悲鳴なぞあげ慣れていないのだ。それも仕方のないことだろう。無論、相棒がそれに気遣うことはない。小さな妖精は遠慮なくコーザを馬鹿にした。
「ハッハハ! ようやく、俺様の姿が見えるようになりやがったか、相棒。すっかり待ちくたびれたぜ」
「あい……ぼう」
「おうよ。俺様はルーチカ。ずっと、クソみてえなところで、一緒に生きて来ただろ?」
まさか、妖精なんてものが、この世に実在しているとは思わなかった。いやしかし、それは妖精王を目撃した時点で、認識を改めねばならなかったのではないか? いないな、あれはあれで何かの間違いと、そう言いきることもできたであろう。現に、今までに妖精王を見かけた人間といえども、まさかルーチカまでもを、知っていたわけではないはずだ。そうでなければ、ルーチカなどのことも、話題にのぼらなくてはおかしいではないか。
こうしてコーザの思考は深まり、おのずと口を閉じてしまった。そんな沈黙を破ったのはほかでもなく、妖精王である。
「とても疑り深いあなたに授けたのは、妖精の瞳と呼ばれるものです。これであなたも、妖精を見られるようになったことでしょう。見事に、ペルミテースを連れて来てくれた際には、そのまま貸し与えてもかまいません。ですが、私が無条件に授けたわけでないことだけは、あなたも覚えていてください。それを持っている限り、もうあなたはセーフティに、長時間にわたって留まることはかないません。これが、あなたに捜索してもらうという、私なりの保証です。いいですね? 約束しましたよ」
呆然としていたコーザは、妖精王の話をほとんど聞いていなかった。だが、やがては驚きが、着実に興奮へと変わっていく。
(……
退屈な世界。
それゆえの代わり映えしない日常と、地表の人間たちに対する憎悪とで、いつもどうにかなってしまいそうだった。
だが、今日はどうだ? 妖精王に会い、ルーチカも見えるようになり、おまけにふざけた頼み事までされる始末だ。
だれが想像できただろう、こんなことが起きるなんて。存外、ダンジョンもまだまだ、捨てたものじゃないではないか。
コーザは不敵に笑う。
そうして、妖精王のことをしっかりと見返すと、おもむろに口を開くのだった。
「待ち人はペルミテースだったな……。いいぜ。その依頼、受けてやるよ」
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