第8話 もとより出口は探すつもりだったんだ。

 コーザの決意に応えるかのようにして、黒色のハンドガンがちらりと赤く光る。


「はやるのは結構だが、俺様の力はまだ一発分しか戻ってねえぞ。人探しができるような状態じゃねえ」

「な~に、心配ない。まだ、しなきゃならねえことがあるさ。うちの知る限り、ペルミテースなんていう人物は、ここらにゃいないからな……。遠くまで足を運ばなくちゃいけねえんだ。おっとり・・・・刀で、どうにかなるようなものでもねえだろう」


 そのためにも必要なのは、未踏破領域に向かうための準備である。

 コーザたちが拠点としているのは、セーフティという安全圏であり、特にここをコーラリネットと呼んでいることは、すでに見ている。いったい、ダンジョン全体で、いくつのセーフティがあるのかはわからないが、コーラリネットの近辺に、別のものが存在しないことだけは確かである。なにゆえ明らかなのかと言えば、実際に人が行って確かめたからだ。

 しかし、それも探索が完了した部分は、コーラリネットの近くという、極めて限られた範囲でしかない。それはつまり、裏を返せば、いまだにダンジョンの大部分については、人の手が入っていないということを意味した。

 未踏破領域。

 ダンジョンで暮らす者たちが、マッピングをおえていない区域のことだ。嫌がらせが目的か、あるいは、本当に脱出させないつもり・・・・・・・・・でいるのか。ダンジョンにあまねく施された仕掛けのため、その探索は困難を極める。居場所のわからぬ人探しなぞ、未踏破領域に入らねば行えるはずがない。いつ、別の交換所に巡りあえるのかは、だれにもわらかないのだ。それなりの準備があるのも当然のことだろう。


(今までに貯めて来た金がある。これを全部、糧食に変えれば、ふた月分くらいにはなるはずだ)


 ゆえに、二か月が期限だ。それまでに、運よく戻って来られるか、少なくとも別のセーフティを見つけなければ、道中での死は免れない。

 だが、コーザには何ら不安はなかった。


(いつかは、このクソッタレから這いだすつもりでいたんだ。それが少しだけ早まっただけのこと。出口を探すついでだと思えば、なんてことはない)


「そうだろう、相棒?」

「もちろんだ。俺様とお前がいるんだ。できねえことは何もねえ」


 頼もしい言葉にコーザは笑みを浮かべる。

 思えば、なんだかんだ言っても、自分はいまだに死んでいない。いつだって、このルーチカが妖精の力で、自分を守ってくれていたのだろう。それは、たとえ未踏破領域であったとしても、変わりはないはずだ。

 まずは無事にコーラリネットに戻る。話はそれからだ。

 一新された世界をコーザは歩きだす。

 はたと思いなおして後ろを振り返ってみたが、そこに妖精王の姿はすでになかった。


「……」

「どうかしたのか、相棒?」

「いや……。見覚えは……ねえはずだよな」

「そりゃそうだろ。あの方と俺様たちは、初めて会ったんだからな」


 自分にはどこか、懐かしさを覚えるような姿であったのだが、やがてはコーザも、首を横に振って気にしないこととした。

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