第9話 迷い子
先ほどの巡回車をどうするのかという、考えもないことはなかったのだが、もはや時間が経ちすぎている。自分のことなぞ、すでに忘れているに違いない。そう思ったコーザは特に気にすることもなく、コーラリネットに戻って来た。実際、コーザがこの巡回車と会うことは、二度となかった。
青白く光るエリア。
無事に戻って来られたことに、ひとまずコーザが安心していると、奥のほうがやけに騒がしい。いったい何事かと思って、不審げに中を覗いてみれば、カウンターの近くで、人がもめていることがわかった。
騒がしいのは何もそれだけの理由ではなく、与えられた瞳のために、様々な妖精の声を、聴きとれるようになったからでもあったのだが、確かに一人、見慣れぬ人間がいるではないか。まだ子供だろうか、背丈は自分よりもだいぶ低い。
「お願いします! 僕はどうしても、イトロミカールに戻りたいのです! 信じてください! 僕は、このセーフティに暮らす者ではありません!」
よほど切羽詰まっているのか、全体的に声が大きく、身振りを交えた姿は必死そのものだ。
「別に信じていないわけではないんだよ……弱ったな」
ちょうどそのとき、カウンターの中にいた大人と、コーザの視線とがぶつかった。
(やべ……)
さすがに、気がつかれていないと、期待するほうが無理である。
「おお、コーザ! ちょうどいいところに。助けてくれ」
それは、その子供をなのか。それとも自分自身をなのか。一瞬、コーザは嫌そうな顔を浮かべたが、カウンターの主人には、これまでにも何度か世話になっている。無下にするわけにもいくまい。
「……どうしたっていうんだ?」
「いやぁ……どうにもこの子は、コーラリネットに迷いこんでしまったと、そう話しているんだ」
「はあ?」
何を馬鹿なと思いながら、コーザもまじまじと、子供の体に視線を向けてみれば……なるほど。確かに、おかしな状態になっていることに気がつく。
(……マジだ。
「ちょうどよかったじゃねえか、相棒。どうせ未踏破領域に向かうんだ。ついでだろ? 連れてってやれよ」
ルーチカの言葉に、子供の視線が一瞬泳ぐ。この場にいるだれも、それを不自然に思うことはないが、ルーチカの声を聴けるコーザにだけは、その異常さが手に取るようにわかった。
(こいつ……! いったい何者だ。うちと同じ妖精の瞳を持ってやがる)
俄然興味が湧いたコーザは、子供の目をしっかりと見つめながら、質問をするのだった。
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