第10話 わかった、一緒に行こう。
「どうやって来たのかは覚えているのか?」
そのように聞きながらも、コーザは自身の質問が、的外れであることに気がついていた。覚えていたところで、どうせ
「いえ……正確なところは、さっぱりです」
(……。やけに素直に答えるんだな)
「どうにかできないか、コーザ?」
「うちがか?」
「お前以外に頼める者がいない。それに……正直な話を言えば、できればこのセーフティに、これ以上人数を増やしたくない。今でさえ手いっぱいなのだ。モンスターを狩れない人間が出て来るのも、時間の問題だろう。そうしたら、そいつは食っていけなくなる。文字どおりの死だ……。まだ余裕のあるうちに、別のエリアに対し、人の移動を試みたいと考えるのは、自然なことだろう?」
「そりゃそうだが……」
だからと言って自分に頼まれても困る。
たしかに、部分的にはルーチカの言うとおりだ。コーザはこれから、未踏破領域に挑むつもりでいる。それに照らせば、ほかのだれでもなく、自分が連れて行ったほうがよいのだろう。しかしそれでは、コーザにどのようなメリットがあるというのか。
(……。あるいは、妖精の瞳についてはうちよりも詳しいか? うちは目をもらったばかりだしな)
最悪、それを理由にしてみてもよいが、この子は道中の糧食を持っていないだろう。自分のを半分も分け与えることになるのだ。おのずと移動の猶予も少なくなる。捜索の期間を短くする以上、もう少し旨みがほしいところだ。ゆえに、何気なくコーザは問うのだった。
「まあ、うちが引き取ってもいいが……。一つ、お前に尋ねたい。うちにも探している人がいてな。そいつについて何か知らないか?」
「どなたですか?」
「名前はなんつったかな……。ペ、ペ……ペルミ……」
「もしかして、ペルミテースですか?」
「ああ、それだ」
無論、コーザは本当に名前を失念したのではない。この子供が助かりたい一心で、自分に話を合わせるかもしれないと、そう危惧してのことであった。
「えっと……直接、僕が知っているわけではないのですが、イトロミカールの長であれば、存じあげているはずです」
名前を正確に知っているあたり、あながち嘘でもあるまい。あるいは、この子も妖精王と取り引きをしたと、そう考えられなくもないが、その場合には瞳の説明がつかなくなる。あくまでも、コーザが妖精の瞳を貸し与えられたのは、事前にごねたがための特例であろう。
(もちろん、こいつの周りに、妖精王と取り引きをした者がいれば、ペルミテースの名前を知っていたとしても、おかしくはないが……。だが、その取り引きをした人物と、捜索の情報を共有できるならば、結果的にうちの利益にはなる。まさか先方も、こいつを連れて行った恩人であるうちを、無下にはできないだろう)
「なるほどな……。いいぜ。ちょうど、うちも人探しに、コーラリネットを出るところだったからな。ついて来いよ」
「助かります!」
主人はにわかに沈黙する。
自分から頼んだこととはいえ、簡単に引き受けてもらえるとは、思っていなかったからだ。それゆえに、主人はコーザの発言が、嘘なのか本当なのか、見極めようとしていたが、やがて決意を悟ると寂しげにほほ笑んだ。
「あばよ、コーザ」
「バカやろう。死ぬつもりじゃねえっつうの」
だが、軽く笑い飛ばせるほどに現実は甘くない。
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