第88話 なにゆえ、チャールティンはうちに死んでほしいのか。

 チャールティンがしずしずと語る。


「ご安心くださいまし。ニシーシさえ無事に、イトロミカールに帰してくれるのでしたら、わたくしが以降の旅に同伴してあげますの。あくまでも、あなたは保険ですわ。ニシーシを説得するため、タオンシャーネには、マーマタロにもついて来てもらいますから」


 それを聞いたミージヒトは、少しだけ口角を持ちあげた。チャールティンの目論見に、気がついたからである。

 ゲゾールが決定打であることは、自分も承知のうえだ。あえて、それをチャールティンが話さなかったのは、この取り引きが本命であることを、自分に悟らせないためだろう。確実に起きる争いに備えるのと、念のために行うものとでは、当然に意味合いは変わって来る。その最適解が、味方であるはずのコーザを、殺害することだと言うのだから、尋常ではない。ニシーシの説得が不可能であり、強引な手段を用いなければ、止められないことが明らかであるからこそ、そのようにチャールティンは判断したのだろう。そこまでしてでも遂げたい願いとは、言うまでもなく、相棒の平穏な生活を守ることだ。これまでの追跡で、そのことは十分に理解している。

 コーザを亡き者にすることでしか、ニシーシを止められない構図……なるほど。ニシーシが今、コーザに協力的であるのは、単純に頼まれからという理由だけではなく、本人の中にも、小さくない動機があるためなのか。目的は定かでないが、ニシーシも、妖精王かペルミテースに会いたいと見える。その一方で、チャールティンは、危険がいっぱいの未踏破領域に、相棒が踏み入ってしまうのを、なにがなんでも阻止したいのだろう。

 思えば、最初からニシーシは好奇心が強かった。そうでなければ、コーラリネットに迷いこんだ説明がつかない。出口に関心のない住人であれば、コーザとしても、喜んで連れて行くに決まっている。間違っても、最後の最後で仲間割れになる、なぞという事態にはならないからだ。それを力技で中断させるべく、こうして取り引きが行われたと仮定すれば、納得もしやすい。こたびのポイントは、コーザが自分に勝っては困る、という部分にあるのだ。

 だからこそ、先ほどチャールティンは、ニシーシを帰すならば、その代わりとして自分が旅に同伴すると、そう話していた。それが意味するものは明快だ。コーザとの戦闘後、ニシーシが、自分らについて行きたいと申し出た場合、それを断ったとしても、チャールティンだけは来てくれる、ということである。自分らとしても、余計なおりが増えるのは、できるだけ避けたいところだ。そして、これはチャールティンにも大きなメリットがある。同伴者がコーザでないならば、ニシーシも己の安全を考え、申し出を辞退するだろうと、そういう見込みがあるのだ。


「そちらが無理にでも止めたいのは、相棒がコーザにくっついて、ワープゲートを潜ってしまうことか」


 それを聞くにつき、チャールティンは、感心したような微笑を浮かべた。


「あら。あなたに頼んで正解だったようですわね」


 難しい話はあまりよくわからないが、ミージヒトとチャールティンとにおける、お互いを理解しているかのようなそぶりは、フレデージアとしては気に食わない。ゆえに、少しだけ顔をむっとさせた状態で、フレデージアは両者の間に割って入った。


「どちらにせよ、こなたたちにも、これ以上ルーチカがレベルアップする前に、倒してしまいたいという事情があります」

「それもそうだな。……取り引きは成立だ。聞かせてもらおう、コーザが持つ第三のスキルを」

「ええ、もちろん。初めから、そのつもりですの」


 チャールティンが一人、胸のうちでほくそ笑んだ。

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