第89話 情報屋の拳銃
チャールティンは
「……ですので、もしもコーザが今、別の拳銃を所持しているのでしたら、そちらを切り札として使って来ることは、十分にありえますの」
チャールティンの言葉に、ミージヒトは大きくうなずいた。これまでに観察した、コーザの行動を振り返ったとき、確かに思いあたる節があったのだ。
「ふむ。ムッチョーダとの抗争に際し、情報屋の拳銃を形見として拾っているな」
「だとすれば、話は簡単ですわ。五発目を撃ったと見せかける一方で、手に持つ武器を
「……」
コーラリネットまでの道中で、ルーチカのレベルはあがっている。一度に妖精はどのくらい進化するのか、というルールに照らして考えるに、その度合いは二か三であろう。ミージヒトとしては、最初から八発のスキルを警戒しているのだ。その点については、そこまでの脅威ではない。気にするべきところは、ほかにある。
相棒と同じことを考えたフレデージアが、ミージヒトに代わって、チャールティンに尋ねていた。
「もしも、ルーチカに第四のスキルがあったとしら、それはどんな内容だと推測しますか?」
「
それはまさしく
「十分にありうるな……注意しておこう。それよりも、
どういうことなのかと言いたげに、チャールティンがミージヒトを一瞥した。
「妖精は、自由に相棒を選べるわけではない。その関係を築くにあたっては、必須になる条件が存在している。いわゆる、相性というやつだな。このことを知る人間はそれなりにいるが、実際のところ、歯に合う者同士の数というのは、かなりシビアだ。無作為に選んだペアが、だれでもかれでも、パートナーになれるわけじゃないんだ。……念のため、正確を期した表現をするならば、人間と妖精との間に、何か直接的な因子があるわけではない。これは、自分たちが身をもって確かめたことなので、誤りじゃないと見ていいだろう。相性のパラメーターは……拳銃を介しているんだ。文字どおり、拳銃が光るという事象には、固有の意味があったのさ。妖精は、己に適合した拳銃でしか、スキルを発動できないし、同様の指摘は人間側にもできる。己に見合った拳銃しか、持っていても使えないんだ。……もしも、興味があるなら試してみるといい。そちらも、今の相棒以外では、スキルを使うことが難しいはずだ」
ミージヒトの話を聞いたチャールティンが、胸の前で小さく手を握った。チャールティンにしてみれば、ニシーシとの間に、特別な要素があったことなぞ、知る由もない。当然である。今まで、多くの人間に避けられて来たのだから、そのようなことを知る機会には、すこぶる恵まれていなかった。
そんな様子のチャールティンを見るにつき、ミージヒトも大体の事情を察した。パートナーとの関係に、運命のようなものを感じているのだろうと、そう悟ったのである。
そうして自身もまた、おもむろに拳銃へと視線を落としていた。
「冷静になって考えてもみれば、これらの拳銃が、いったいどこからやって来るのかを、自分らは知らない。交易人から買ったなぞという人間には、自分も一度として会ったことがないんだ。ゆえに、まず間違いなく、これはダンジョンに由来するものなのだろう。見かけ以上に物をしまえる、ナップザックについても同様だ。……あまりに日常に溶けこんでいて、そのことに疑問を抱く者はいないのだろうが、どちらもこの世界の、立派な神秘の一つさ。だから、どの拳銃であっても放てるという
「そういう事情があったのでしたら、該当の説明は撤回しますの」
「いいや、その必要はない。おそらくは、そちらの言うとおりなのだろう。たまたま、ほかの拳銃でも発砲可能だった――なんていうふうには、こちらとしても期待はできない」
「そうですの」
そう応えるチャールティンは、一瞬、別のことに意識を割いていた。ミージヒトが携帯するナップザックに、目をやっていたのである。手にしていた数は、やはりコーザとは違った。少ないのではない、逆である。ミージヒトは複数のナップザックを、所持していたのだ。これが性能の差を反映したものであるのに、疑うべきところはない。
であれば、この袋がダンジョンの神秘と言うのであれば、本物を有していると思わしきコーザには、すばり特別な理由がある。
「……」
しかし、チャールティンはそれ以上、深く考えることをしなかった。ニシーシとは無関係だと、そう判断したからである。
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