第90話 ただ、ニシーシのために……。
ミージヒトは儀礼的に手を差し出したが、対するチャールティンは、小さく肩をすくめただけだった。
「話ができてよかった。約束は果たそう」
「それなら、ありがたいですわ。わたくしからのプレゼントと、ニシーシが
思わず、ミージヒトは笑ってしまった。チャールティンが言わんとしているのは、ニシーシが敵でないことの証明に、ほかならないからである。もとより、マーマタロに
チャールティンがその場で反転し、セーフティへと戻っていく仕草を見せる。言いたいことはすべて話したのだろうが、フレデージアとしては、まだ聞いておかなければならないものが、明確に残っていた。
「待ってください。そなたは肝心なことを語っていません。どうして、
立ち止まったチャールティンは、試すようにミージヒトを見あげた。
「ああ、心配ない。ちゃんと、わかっている。そちらは戻ってもかまわないよ」
「そうですの、お見事ですわ。では、ついでにわたくしからも一つ、おまけをあげましょう。あなた方も、さっさとこの場を離れるといいですの。コーザが、タオンシャーネの仲介人を雇わないうちに、ね」
その言葉に、ミージヒトは心底肝を冷やした。チャールティンの暴露が示しているのは、いつでも勝たせようと思えば、コーザに軍配をあげることも可能だった、ということにほかならないからである。
「……そちらであっても、コーザが自力で雇おうとする場合には、さすがに怪しまれるので止められない、というわけか。忠告、感謝しよう」
離れていくチャールティンの、後ろ姿を睨みつけながら、フレデージアは相棒に言葉を求めていた。それを受け、ミージヒトが申し訳なさそうに口を開く。
「すまなかった。どうして、
本当にそうなのだろうかと、フレデージアは不信感を抱いたのだが、やがては頭を横に振って考えを改めた。すでに、マーマタロが無力なことは、妖精を使って確かめているのだ。このうえ、コーザが頼みとしているニシーシも、とてもではないが、戦力には数えられないだろう。今の状況は、盤石と言ってもさしつかえないはずだ。
だが、どうして――。
なぜ、自分はこんなに不安を覚えるのだろうかと、フレデージアは、甘えるようにミージヒトに身を寄せた。
その遠くで、チャールティンは大きなため息とともに、小さく独り言ちていた。
「あとは、コーザの機転にかけるしかないですの」
「ニシーシ……。できれば、わたくしはあなたに、妖精の運命について、知ってほしくはないですの……」
もはや記憶の片隅にしか存在しない、カタレーイナのことを、少しばかりチャールティンは思い出していた。
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