最終章 ペルミテース、そしてカタレーイナ 名無しのコーザ
第79話 決戦の火蓋
甲高い声で、チャールティンは、かまびすしいほどに騒ぎたてていた。
「何をしていますの、コーザ! 今すぐゲゾールを追いかけなさい」
「もちろん、そのつもりだが……ミージヒトの対策はどうなっている?」
「そんな悠長なことを、言っている場合ですの!? 冷静になって考えなさいな。直接的な手がかりが、コーザよりも少ししか、得られなかったはずのミージヒトは、あなたと同じ動機で、行動できているのですわ! 急がないと、手遅れになりますの! もはや、ミージヒトにとってのゲゾールは決定打。こちらにしてみれば、必ず先に確保しなければならないほど、恐ろしく重要な人物なんですの! 情報を奪われたうえで殺されてしまっては、元も子もないですわ」
「――ッ!」
弾かれたように外へと飛びだすコーザには、もはや幕引きの頃合いが、目前に迫って来ているのを肌で感じられた。
チャールティンの言うとおりである。
あの様子であれば、ゲゾールが、罪悪感のもとにすべてを語りはじめるのは、時間の問題であろう。なれば、次にゲゾールと接触することは、ペルミテースの情報に直結している。
ワープゲートを使わねば会えない相手。
ゲゾールがその道順を知らない、という可能性も十分にあったのだが、あの様子を見るにつき、考えは大きく変わった。もしも、ゲゾールが故郷をすっかりと忘れ、完全に第二の人生を生きる決意を、したような人間であったならば、きっとコーザのことを見ても、すぐに追い返していただろう。それどころか、タオンシャーネの人々に、本当の名前さえ伝えなかったはずだ。
だが、現実は異なる。
ゲゾールは今も、激しい後悔の中で生活しているのだ。それゆえの白状が、先ほどのあらましに違いない。当然、無量の慙愧は激甚な情熱となり、これまでは自分の故郷へと、その炎は向かっていたことだろう。
知っているのだ。
ペルミテースにコンタクトを取る術を、ゲゾールは知っている。あるいは、現に自ら会っているのかもしれない。
もはや、こうなっては現下が分水嶺だ。
これ以上、形ばかりの協力関係を、維持しておく必要はない。ミージヒトとの決着をつけようではないか。
本当であれば、綿密な作戦を練る時間を、もらいたかったところなのだが、あんな状態のゲゾールを一人にし、長々と放っておくわけにもいくまい。
(……ん?)
走りはじめたコーザは、すぐに立ち止まる。奇妙な考えが脳裏をよぎったからだ。
(たしかに、チャールティンの言うように、ゲゾールはミージヒトにとっての王手だろう)
だが、その事実を、セーフティに入って来なかったミージヒトは、決して知りえない。なぜ、チャールティンは、追い払うようにまくし立てたのだろう……。それとも、自分が気がついていないだけで、ミージヒトにはゲゾールの話を入手する、何か別の手段があると言うのだろうか?
(ゲゾールが決定打という主張に、疑いはないが……それと同じくらい、うちがチャールティンに急かされたことも、また事実だ。……まさか、裏切りか?)
ふと、そんな単語が頭に浮かぶ。
それは考えたくもない可能性だった。万が一にも、チャールティンが寝返っていた場合には、自分が勝利することは絶対にない。戦闘面でさえ、分が悪い状態であると言うのに、このうえさらに、強力無比な頭脳まで加わってしまえば、お手上げだ。なす術もなく、やられることだろう。
チャールティンにも話していない
(落ち着け……。それに、タオンシャーネに向かうと決定してからも、うちのためになることはしてくれている)
それを思えば、チャールティンが二心を抱いていると、そう断定するのは早計だろうか。
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