第30話 まったく、さすがはチャールティン大先生だよ。

 それは、コーザたちが氷結と会う少し前のことだった。不意にチャールティンが、コーザへと尋ねて来たのである。


「そろそろ、わたくしたちには、教えてくれてもいいんじゃありませんの? ルーチカの新技はなんだったんですの?」

「……かまわねえが、お前たちも話してくれるんだろうな?」

「ええ。大したものじゃないので、先にわたくしのほうから言いますの。もう一つのほうは純粋に、わたくしが休息を取るだけのものですわ」


 一つは純石を加工するスキルなのだから、チャールティンの言い方は不親切なだけで、誤りではない。

 しかし、チャールティンのレベルは五だったはずだ。それならば、一般にはスキルの種類が三つである。残りの一つは教えてくれないのかと、コーザが意識的にニシーシの顔を見やれば、行儀よくにこやかにうなずくだけであった。

 そのままじっと見つめあっていれば、ようやく言わんとすることを察したようで、慌ててニシーシは、チャールティンの補足をはじめる。


「……あっ、そういうことですか。すみません、チャールティンのスキルは二つだけなんです」

「マジ……か」

「あるあるだな。たまにいるぜ、そういうやつ。逆に、レベルが七のくせして、早熟なためにスキルが四つあるやつとかも、時折はいるしな」

「へえ、ふつうは九のときに四種類だもんな」

「ああ。精神が未熟・・・・・だと二つしかねえが、ひょっとすると大人な俺様なら、早くに新しいものを、使えるようになるかもしれねえな」

「あら、ルーチカ。何か言いまして?」

「ごめんなさい、何でもないです」


 馬鹿なことを話すルーチカは無視し、コーザはチャールティンに向きなおる。休息を取るというのは、いったいどういうことなのかと問えば、答えはそのままの意味らしい。


「わたくしはほかの妖精より、少しだけ燃費が悪いんですの。たまに、お休みが必要なんですわ。もちろん、全く活動しなくなるわけではありませんの。スキルを使えなくなったり、反応が鈍かったりと、その程度ですわ。ちょうど、わたくしたちが最初に会ったときが、そうだったでしょう?」


 たしかに、コーラリネットでニシーシを見かけた際、チャールティンの姿がかたわらになかった。あの過保護なチャールティンが、ニシーシの大事な場面で、いないなぞということはありえないだろう。この話は本当に違いない。そうだとすれば、ニシーシはチャールティンの目を盗んで、イトロミカールを出ていき、その結果として、コーラリネットに迷いこんだということになる。


「……」


 呆れたようにコーザが視線を送れば、図星だったようで、ニシーシは顔を明後日のほうにそむけた。


(無事だったからよかったものを……。ずいぶん、無茶なことをするんだな。まあ、そのおかげで警戒心が強くなったと思えば、よかったのか?)


 チャールティンに催促されるようにして、コーザが莢の炎カートリッジについての説明をしだす。曰く、初めに薬莢が出現し、それを銃口に吸いこませれば、今度はちゃんと弾が出る、と。それを聞くにつき、チャールティンは、片方の眉だけを器用に吊りあげてみせた。


「ん? 次弾を撃つ際にルーチカが、新しくスキルを使う必要がないのでしたら、その薬莢はニシーシの銃にも、譲れるんじゃありませんの?」

「――!」


 思ってもみない使用法に、コーザとルーチカとは驚愕を禁じえなかった。

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