第18話 交換所を思い出せば理解はたやすい。
耳慣れない言葉に、ニシーシは首をかしげた。
「
「ああ。決められた手順で道を進んじまうと、同じ場所であるはずなのに、違うところへ出る。……違う場所っつっても、全く異なるものじゃねえ。ほんの少しだけ造りが変わるだけだ。例えば、あるはずもねえ道が現れたり、逆に行く手を塞ぐ壁にぶつかったりな。裏表みたいに、少しだけ本来のものとずれた世界だと思え。ちょうど、今のお前みたいにな」
「えっ、わかるんですか?」
「まあ、目を凝らしてみればな。ラグが生じているのがわかる。気がつかなかったか? 交易人もベータの世界の住人だから、ちょっとずれて――。そうだ、交換所だ! おい、ニシーシ。ひょっとすると、同じくベータにいるお前なら、あそこから外に出られるんじゃないのか!?」
興奮したように、コーザは言葉をまくし立てるが、相棒のルーチカがそれをたしなめた。
「落ち着けよ、相棒。交易人と同じベータの世界にいるなら、ここに戻って来られねえだろ。あっちからすれば、交換所に通じる道の先は壁だぞ」
「……クソっ、それもそうか。出口の手前で、一時的にアルファに切り替わったわけかよ。つくづく、このダンジョンは、うちらを
そうしてニシーシは、再びダンジョンの深くに進んだ段階で、またもベータの住人となった。おおかた、そういう理屈なのだろう。これならば、ニシーシが今もベータにいることや、そうであるにもかかわらず、平然と出口に向かえた説明もつく。そして、これこそ、地表の世界が人間を、ダンジョンに捨てられる構造にほかならない。ダンジョンへ侵入すること、それを原因として切り替わる
事情に納得したのか、チャールティンはしきりにうなずいている。一方のニシーシは、肩を落としてうなだれるコーザを見るにつき、慌てたように、慰めるための明るい声を出すのだった。
「僕の知る限りでは、イトロミカールの近くに出入口はありません。一度、地上に出てから戻って来るという方法は、どちらにせよ、使えなかったことでしょう」
こんなどうしようもない世界なのだから、出られればそれでおしまいではないのか。コーザは、なおも自分のセーフティに、頑なに戻ろうとするニシーシに対し、苦笑いを浮かべざるをえなかった。
「……ふっ。あくまでも、イトロミカールに帰りたいんだな」
「ええ、もちろんです。それに……仮に出られたとしても、外の世界に、僕の居場所があるとは思えませんから」
それは正論だが、コーザにとっては耳が痛い発言だ。そのことにいち早く気づいたチャールティンは、ニシーシに対し、たしなめるような視線をそっと送るのだった。
「ニシーシ。その言いぐさは……」
それを聞き、ニシーシも思わずはっとした。目の前にいるコーザは、今さっき外へ出るのが夢だと、話していたのではなかったか。それを思いっきり否定する自身の発言は、聞いていて快いものであったはずがない。
「ごめんなさい! そんなつもりじゃ」
「いや……子供じみた夢だと言われれば、それまでさ。だが、それでもうちの夢だ。うちがここから出てやることを、変えるつもりはないよ」
言って、二人はまた歩きだした。目的地は無論、未踏破領域。そこへとつづくワープゲートだ。
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