第19話 情報屋

 歩きながら、コーザは思いついたように、ニシーシへと尋ねるのだった。


「もしかしなくとも、お前がやたらと警戒していたのは、バトルエリアが初めてだからか?」

「ええ……まあ」


 歯切れの悪い返事に、コーザはやや不信感を抱いたものの、興味本位からセーフティの外を、覗いてみることくらいしていたとしても、おかしくはないだろう。ニシーシのように、気軽にダンジョン内を出歩けないようならば、なおさらである。怖いもの見たさから、迂闊なことをしてしまったとしても、この年齢なら不思議ではない。


(……冷静になって考えれば、イトロミカールから出られないニシーシが、コーラリネットまで迷いこんで来たのも、ひょっとしたら、この好奇心が原因なのかもしれないな。おおかた、うっかり奥へ行きすぎて――なんていう形なのだろう。ならば、なおさらニシーシは、正確なルートなんて覚えているまい)


 仮に覚えていたとしても、それは真っ当なルートではない。直接、道なりに沿って歩けば、通じるようなものなぞではなく、どう考えてもワープゲート、あるいは二重にじゅうマップの結果だ。素直に来た道を帰る、なんていう方法は取れない。


(まあ、この様子じゃ、イトロミカールから、コーラリネットに戻って来ることなんか、二度とないだろうからな。覚えていたところで役に立たんか)


「心配するな。この辺りは、まだ人の手が入っている。場所はある程度うちにもわかるし、モンスターだって強敵が、いきなり飛びだして来るわけじゃないんだ」

「そうなんですね……。では、逆にコーザさんから見て、強いと呼べるモンスターというのは、いったいどういうものなのでしょう?」

「あのな、ニシーシ。いくら、うちらが攻撃系のスキルを使えるからって、モンスターっていうのは大概つええものなの。まっ、それでも強いてあげろっつうなら、出会ったら最期系のやつらかな。AとSの連中……執行者や飛ばし屋ジャンパーとかになるのか? 飛ばし屋ジャンパーはともかく、執行者については、うちもうまく説明できないからな……」

「そう……ですか」


 心なしか、ニシーシが怯えたように首を引っこめる。それを見るにつき、慌ててコーザは励ますのだった。


「悪い、脅かしたか。だが、心配せずとも大丈夫だ。どっちも、そうそうお目にかなっちまうような、よくいるモンスターじゃない」


 話しながら、黒緑色の通路を横に曲がれば、やたらと背の高い人間が、二人の前に姿を現すではないか。ニシーシの目から見ても、その人物が武闘派であるとわかったのは、立ち姿からの印象ではなく、相棒となる妖精がいかにも、好戦的な恰好をしていたからであった。


「見つかってよかった。ちょうどいいから、うちに代わって、執行者の説明もしてもらおう」

「説明も……。ほかにも何かあるんですね」

「鋭いな。やつは情報屋。うちらの本命は、ワープゲートまでの道筋だよ」


 そう言って、コーザが挨拶がてらに手をあげれば、向こうも二人に気がついたようで、ぶっきらぼうに近づいて来るのだった。

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