第16話 そこまで疑われていちゃしょうがない。
再び、コーザは沈黙した。
(ペルミテースの手がかりを得るためには、イトロミカールに行かなくちゃいけない。そこで長に会って話をする。そのためには、ニシーシの協力が必要不可欠だろう)
だが、今となっては、セーフティとしてのイトロミカールについて、多くの情報を得られた。曰く、仲介人から食料を買い取っている、と。
なれば、イトロミカールにたどり着きたいだけならば、ニシーシの協力は、ひょっとするといらないのではないか。運よく、仲介人と出会えれば、それで済む話だろう。
(……ん? というか、待て。うちはそもそも、ペルミテースに会う必要があるのか? 事態がこんなにややこしくなったのだから、イトロミカールのことはあきらめて、大人しく出口の捜索に専念するだけでも、いいんじゃないか? うちはなんで約束にこだわって――)
コーザの黙考を中断させたのは、相棒であるルーチカにほかならなかった。
「それで、どうするよ? 相棒」
「あ、ああ……。この話、降りよう」
「そんなっ!」
「うちらには危険だ。お前からイトロミカールの位置ついて、嘘を教えられる可能性もあるしな」
「僕はそんなこと――」
しないだろう。
コーザとて、己の発言がおかしいことは自覚していた。イトロミカールに行きたいニシーシが、どうして偽りの目的地に、コーザを導くというのか。加えて、イトロミカールの人間が、ダンジョン内を移動できない以上、自前でニシーシの捜索がなされることは、残念ながら決してない。コーザがニシーシを見捨てるともなれば、孤立無援の状態になることは、だれの目にも疑いなかった。
「お前がせずとも、こんだけうちのことを疑っているんだ。チャールティンがさせるかもしれないだろう。……所詮、うちらの生活は妖精だけが頼りだ。それは、いくらお前が、攻撃系統のスキルじゃないと言っても、変わらないことだ。チャールティンが頑なになれば、お前が折れざるをえなくなる」
半ば、これはコーザのはったりであったが、実際のところスキルの使用を、妖精側に断固として拒まれれば、ダンジョンの住人は干からびるしかない。スキルを使わずに、生活することなぞかなわないからだ。ゆえに、コーザたちの最終的な命綱は、ほかでもなく相棒となる妖精たちが、握っていると言ってよかった。
「それは……そうかもしれませんが……」
無礼を働いたのは自分たちのほうだ。大本に目を向ければ、最初に嘘をついたのは、コーザのように思えるが、それは置いておこう。不義理をした以上、ニシーシとしては、コーザに強くは言えなかったのである。
「行くぞ、ルーチカ」
「ふ~ん……。行く前に相棒、ちょいといいか。自分はあの方に前払いをさせたくせに、立場が変わっても、相棒は同じことをしないんだな?」
「……。嫌な言い方をするんだな」
「別に。ただ、普段から相棒が嫌っている地上の住人と、同じことをしようっていうなら、筋は通らねえべよ。俺様はそこが気になっただけさ。なんで交易人よろしく、自分だけよくしようとしてんだ?」
「チッ。やけに肩を持つじゃねえか」
「何、言ってやがんだ。俺様はいつもこんな感じだったさ。相棒が知らなかっただけでな」
妖精が意地をはれば、人間側はそれにつきあわざるをえない。まさしく、それを体現するかのような会話である。
「……はあ。わかったよ。乗りかかった船だ。相棒の好きなようにしてくれ」
半ば自棄になりながら、コーザはそう言わされるのだった。
「そうか。じゃあ、遠慮なく俺様の都合にあわせるぜ。相棒は、ニシーシに報酬をもらおうとしているんだから、成果のほうを前払いな」
「……なるほどな。イトロミカールまでの案内を、うちがニシーシに頼む。そういう形にしたいわけか」
「実際そうだろ?」
「……」
コーザとルーチカとの奇妙なやり取りを、静観していたニシーシだったが、会話の終了を見計らって口を開いた。
「よろしいんですか? チャールティンの無礼は――」
「大丈夫だ、もう気にしていない」
本当は自分が最初に無礼を働いたのだ。ニシーシがペルミテースについて、話を合わせられないようにするために……。それをルーチカに指摘されたら、コーザとしても決まりが悪くなる。そうなる前に対処できるなら、水に流してしまいたい――というのが、コーザの本心であった。
「しかし……」
なおも食いさがるニシーシに対し、コーザは苦笑いを浮かべながら、自分の目的を語るのだった。それはコーザ本来の夢である。
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