第48話 ここまでだって、あてずっぽうで来ただろう?
ルーチカはコーザの顔を覗きこんでいた。暗に、これから先の行動をどうするのかと、そう問うているのだった。
「うちがここまで来たのは……イトロミカールで暮らしていくためじゃない。先に進もう。今までだって、道しるべに頼っていたわけじゃないんだ。それが、もう少しつづくだけのこと。……相棒、コーラリネットに戻るぞ」
「おう。俺様はお前との旅が長くなるのなら、何でもかまわねえよ」
妙な言い方をするものだと、コーザはルーチカの発言に、軽い引っかかりを覚えるが、口に出して尋ねるまではなしない。自分だって、糧食などの心配をしなくてもよいのなら、別の場所へ行って違う景色を見たいと、そう思うからだ。雑に言えば、ルーチカも旅が楽しいのだろう。
(しばらくは、イトロミカールに厄介になるしかない……か)
そうして、その間にできるだけ稼ぐ。コーラリネットとは違い、ここには競合相手がいないのだから、問題なくモンスターを狩れることだろう。
何が売れるのかはわからないが、ある程度まではえり好みをせず、仲介人も引き取ってくれるはずだ。
※
それから数日、コーザは戦闘に明け暮れた。ゆえに、タオンシャーネの商人がやって来たときも、ようやくおわったのかという、気だるげな疲労感があるばかりで、あまり感動は覚えなかった。
それは考えてもみれば、当たり前のことだったのだが、コーラリネットの交易人とは異なり、仲介人は一人ではなかった。集団でやって来たのである。
(でなきゃ、大量の物資を守りながら運ぶなんて、できっこないか)
一団に目をやりながら、コーザはそんなことをぼんやりと思う。おのずと、ナップザックを握る力も強まっていた。
これまでに獲得できた物資は多くない。期待したほどには獲物がいなかったからだ。
コーザが仲介人たちに近づいていけば、彼らは心底驚いたような顔をしていた。
「見ない顔だな……びっくりしたぜ」
「な~に、冒険中にうっかり迷いこんじまってね。ちょいと世話になっている感じだ。……どれか買い取ってくれねえか?」
「割り増しでいいなら、なんでも買い取るさ。八番出口で売ればいいからな。……旅ができるあたり、お前さんは攻撃系だろう? なんなら、俺たちと共に来て自分で売るか?」
言いながら、仲介人は、コーザの差し出したナップザックを覗くと、感心したように息を吐いた。
「そうしたいのはやまやまなんだが、一度、自分のセーフティに戻る用事ができたのさ。次の機会にでもお願いするよ」
「そうかい」
「……ところで、あんたたちはなんで、人をイトロミカールに置いておかないんだ? ここにはライバルがいないんだ、うちみたいに稼げるだろうよ」
「ふっ、冗談だろう? それはお前さんだって理解しているはずだ。ここは思いのほか獲物がいないし……何より、こんなところに長居をしていたら、こっちの頭がおかしくなっちまう。まあ、商売相手としては悪くないんだがね」
そうして、目を細めながら仲介人は辺りを見回した。そこには、妖精の瞳を持ち、隠すこともなく相棒と楽しそうに会話する、住人たちの姿が無数にあった。
瞳を持たない人間にしてみれば、ここは狂気的なセーフティだ。共に暮らすことなぞできまい。
「なるほどな……」
「そうさね。だから、たまに来て、そのときにお土産程度に狩って帰るのが、俺達にはちょうどいいのさ」
受け取った食料をしまうと、コーザは礼を言ってその場をあとにする。そうしてニシーシのもとへと向かえば、簡単に別れの挨拶をするのだった。
「心配するな、必ずまた来る」
「別に、来なくてもいいのですのよ?」
相変わらずなチャールティンの態度に、コーザは一度ほほ笑んでから、ついにイトロミカールのセーフティを出発した。
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