第60話 きっと、初めから巻きこまれる運命だったんだ。
氷結は煙草を口から吐きだすと、乱暴に足で踏みつけて火を消す。
「はあ……種明かしが必要なのかい? あまり、あたいをがっかりさせないでほしいねぇ。
目が泳ぐ。
それこそ、ここの住人たちには、だれにも話していないことだ。ニシーシにでさえ、伝えたのはセーフティを離れてからである。聞いている者なぞ一人もいない。
そうだと言うのに、なぜそれを氷結が知っているのだ。
「お前は……いったい何なんだ」
コーザの怯えるような反応は、ずいぶんと氷結のお気に召したらしい。麗しい高笑いをあげながら、氷結がなぶるようにコーザの頬を撫でていく。
「いつもダンジョンを出たがっていたのはコーザ、お前自身だ。そんなお前が、ダンジョンの出口を見つけるためでもなく、いきなり貴重な貯金を崩して人探しなんて、嫌でも内容に想像がつく。よほど、衝撃的な出来事に直面したんだろうねぇ。お前の価値観を、根底から覆してしまうようなものと言えば、そんなのは妖精王しかない。……どうだい、実際に会ってみて。それは感動したのかい? それとも興奮したのかい? ああぁ、どうにもならない現実を目の前にして、無様にも打ちひしがれたのだとしたら、あたいにとっては最高だねぇ。だが……待ち人のほうがうまくいっているなら、保留していた支払いを済ませてもらおうか」
屈辱だった。
ほかの人に言いあてられたところで、コーザとしても見事という感想以外は、別段に抱かなかったことだろう。
だが、この者はどうか?
およそ、相手の神経を逆なですることだけが、生きがいであるかのような、極めて度しがたい奸物だ。そんな人間に、自分の動機を事細かに解説されるのは、この上なく、見くだされているような気がしてならない。
コーザは腕が振動するほどに、拳を固く握りしめると、相手が格上の存在であることも忘れ、氷結を思いきり睨みつけていた。
(落ち着け……まだ大丈夫だ)
氷結はムッチョーダと抗争中である。それに照らせば、自分にかまっているような余裕はないはずだ。間違っても、無茶な注文はされるまい。
しかしそこで、はたとコーザは気がつく。
「まさか……!」
にやりと氷結が唇を持ちあげ、悪趣味にほころぶ。
「そうさ、コーザ。つきあってもらうよ、あたいたちの抗争に」
考えられる限り、それは最悪の対価だった。
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