第13話 純石

 黙々と歩くコーザに対し、不安を覚えたニシーシは、まもなく我慢できなくなり、行き先を尋ねるべく口を開いていた。


「僕たちはどこへ向かっているのでしょう?」

「……。交換所だよ」


 当たり前のことをどうして聞くのかと、コーザはやや奇妙さを覚える。


「交換所……。なるほど。それもそうですね。それは、どちらにあるのですか?」

「あん? ――んなもん、出口に決まっているだろうが」


 言いながら、コーザたち二人は通路を折れ曲がった。黒緑色の先に見えたのは、奇しくも前回と同じ交易人である。運よく手にいれた純石じゅんせきを交換していると、横からチャールティンが何気なく口を挟んだ。無論、この交易人がその声を聞くことはない。


純石じゅんせきのレートがずいぶんと低いようですが、これがコーラリネットでの正規価格ですの?」


 危うくコーザはその声に、チャールティンのほうへと顔を向けそうになる。だが、なんとか寸前で堪えると、いかにも何でもないふうを装って口を開いた。


「……。おやじ、ちょいと尋ねたいんだが……この辺りで、純石じゅんせきを高く買い取ってくれそうなところは、どこかにあるかい?」

「ないな。……そういや話したこともなかったか。純石じゅんせきっていうのは、ふつう戦争に使われるものさね。だから、まあぶっちゃけ、どこでも売れる。地上の世界はどこも戦ってばっかだからな。……ほかにすることがないんだろうさ。あんたにしちゃ酷な話だろうが、一部の農作業を除けば、労働はダンジョンの住人に任せきりだろう? 思う存分、戦争にマンパワーをつぎ込めるってわけよ」


 自分が稼げるならば、いつどこで人が死のうともかまわない。そう言わんばかりに、交易人は冷たい笑みを浮かべてみせる。だが、たとえ地上が戦火で覆われていようとも、ここよりは――地下の世界よりはいくぶんましであろう。

 コーザは憎むように、嫉妬のこもった視線を交易人に返した。


「それでも、この鬱屈した世界よりはいいだろうに。……広いんだ、好きなところへ行けるだろうよ」

「たしかにな。……話がそれちまったか。純石じゅんせきを高く売りたいんだったな?」

「ああ……まあ、そうなるかな」

「それなら、盛んにドンパチやっているところだな。この上がちょうどそうさね。ここは、あんたらでなんと言ったか? コ、コ……」

「コーラリネット」

「そうだ、コーラリネットだ。俺の知る限りじゃ、この二番出口よりも、高く買っているところはねえよ。……勘違いしないでくんな。別に、あんたたちからぼろうって腹づもりじゃねえさ。そんなことをしたら、たちまち俺が、ほかの者に所場ショバを奪われちまうよ」

「はいよ」


(地上の世界で戦争が盛んなら、周辺でも純石じゅんせきを高く買っていそうだが……そうではない、と。近くにそれらしきセーフティはないのか? つまり、イトロミカールってところは、そんなにも離れた場所にあるわけか……)


「いきなり、どうしてそんなことを聞くんだ? 拠点でも移すつもりでいるのか?」


 未踏破領域があるために、ダンジョンの中を移動するというのは難しい。ダンジョンと、何の関係もない人間であればともかく、交易人ほどの付き合いがあるならば、このくらい知っていそうなところだが、うっかり失念しているのか、悪気なくコーザに尋ねて来る。


「まあ……ちょっとな」


 それに対し、コーザは歯切れの悪い返事をしたが、交易人には特に害された様子がなく、あきれたように肩をすくめただけだった。

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