第67話 お守り
即応。
待っていたかのように、ヘーネベッタが発砲する。
連続した射撃だ。
トリガーは一度しか引かれていないはずだが、そういうスキルなのだろう。少しずつ銃口をずらしながら、複数の弾丸がコーザに向けて放たれる。
「しまっ――」
想定外だ。
違う技が来ることなぞ、まるで予期していなかった。
(ミージヒトを意識しすぎた……)
思えば、大概の人間は、妖精の瞳を持っていないのだから、狙ってスキルを出せるはずがない。再び、同じ空砲が放たれる保証なんて、初めからなかったのだ。
(どうする……?)
今更、悠長に対策を考えるような時間はない。
寸秒のうちに、自分はハチの巣にされるだろう。
(いや!)
不幸中の幸いか。
たとえ、実物の弾丸であっても、
それに気がついたコーザは、眼前で八の字を描くようにしながら、素早くスキルを放つ。
ぼうぼう。
熱の匂いが鼻孔を満たす。
庇いきれなかった体の端々を銃弾が掠め、鋭い痛みに苦悶の声が漏れた。
「ぐっ」
火が消えると同時に、今度はこちらが発砲。
案の定、銃口からは
即時の連射ならば、敵も勘定にいれていないと信じたかったが、あいにくと向こうに驚いた様子は見られない。
刹那――中空を走る弾丸が唐突に姿を消した。
(何!?)
間違いない。
銃で弾かれたのでもなければ、何かに払われたわけでもない。
それは唐突に、飛翔している途中で消滅したのである。
あまりの出来事に、一瞬、思考が止まりそうになるが、そこは積み重ねた戦闘の場数が違う。鈍重な頭とは反対に、コーザの体はすぐさま物陰のほうへと、機敏に移動していた。
(ここにも
これでは、ヘーネベッタに水系のスキルがあった場合、丸焼きは免れないだろう。
「相棒、ちょっといいか?」
「手短に頼む」
本当はお喋りするゆとりさえ、もう心には残っていないのだ。
「さっきのスキル、ちょっと変じゃなかったか?」
「どの辺りがだ?」
聞き返しながら、木箱の陰から顔を覗かせ、相手の動きに注意を払う。
「奴さんのレベルは九という話だ。しかも、おそらくは典型的な四種類。なのに、さっきの攻撃は、発砲してから、銃口を動かしはじめるまでの時間が、ほとんどなかった。こいつはおかしいぜ」
電流が走ったかのように、コーザはルーチカのほうを振り向いていた。
ルーチカの指摘は、ヘーネベッタがスキルを同定する以前から、銃をずらしていたことを意味するのだ。そんなことを、瞳のない人間が真似しようと思ったらば、おのずと実行の手段は限られて来る。
「――ッ! 攻撃系が一つしかなく、しかも律義に毎回同じことをしてなきゃ、ありえねえ動きってわけか」
「そういうことだ」
銃弾の向きを変えるのは大きな賭けだ。連射のスキル以外には使えまい。そして、撃発ごとのルーチンを作っていなこともまた、先ほどの空砲から明らかである。
「……見えているのはスキルを発動したかじゃなく、弾道のほうかよ!」
それも、引き金に力をいれる直前から、撃ったあとしばらくまでは効果が及ぶという、強力なものであろう。
(――ってことは、頼みの綱である
弾道が変化したところで、相手にはその予測があるのだから、まるで意味がない。現状はほぼ詰んでいる。
心を落ち着かせようと、祈るような気持ちで胸に手をあててみれば、硬い感触に眉をしかめていた。
懐を探って手触りの正体を確かめれば、それはいつかのお守りであった。
まさか、この状況を予知していたわけではないだろう。だが、たとえそうだったのだとしても、今のコーザは驚くことをしなかったはずだ。
「感謝するぜ……チャールティン先生!」
ひらめいた気がした。
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