第52話 コーラリネットに戻って来たぜ。

 それは自分のものに違いない。拾いあげながら、コーザはなんともなしにルーチカへ尋ねてみる。


「なあ、相棒。もしも、これを他人に奪われた場合って、どうなるんだ? やっぱ、逆用されちまうのか?」

「心配すんなよ。だれかに譲ったときも、撃つかどうかの決定権は俺様にあるんだ。いざとなれば、破棄することもできるしな」


 それなら安心だと、そう言わんばかりの笑みを見せ、コーザはまたダンジョンを進みはじめた。


「早く、コーラリネットにつかねえかな……」

「戻って何をすんだよ」

「そうさね……」


 言いながら歩いていけば、コーザたちの前に、再び野良の妖精が姿を見せた。それも三体もだ。顔色が悪く、消沈したようにうなだれている点は、どの妖精にも共通していた。人と行動をともにしていない妖精が、ダンジョンにはまだこんなに残っていたのかと、コーザがそう思って眺めていれば、ルーチカが否定するように首を横に振った。


「増えて来ているのかもな」

「あん? モンスターだけじゃなくて、この世界は妖精も増えてんのかよ。一体全体、どうなちまっているんだよ」

「いよいよ限界なんじゃないか、このダンジョンが」

「そりゃあいい。勝手に世界が滅ぶなら、うちも脱出できるじゃねえか」


 単に混ぜかえしているだけで、コーザとて本気で信じているわけではない。


「バカを言うなよ、相棒。そうなったらモンスターの数が、際限なく増えるだけに決まっているだろ」

「……大人しく出口を探すほかないってわけね」


 きびきびとした足取りで進んでいけば、ようやく新たなワープゲートが見えて来た。これまでの疲労感を噛みしめるように、コーザは伸びとため息をする。


「そういや、相棒。コーラリネットに戻ったら――って話だったがな、ゆっくりしたいよ。無理だとわかっていてもな。……あるいは、そうだな。妖精王にもう一度会うっていうのも、存外、悪くないんじゃないか?」


 喋りながら、コーザは赤黒い渦へと足を踏み入れていく。

 それには唐突に気がついた。


(あれ……? そういや、なんで妖精王は、年齢の指定をしなかったんだ?)


 ペルミテースとゲゾールとは、旧知の間柄であると言う。ならば、ペルミテース本人も相当な年齢のはずだ。ゲゾール同様、ペルミテースは老人だと考えられるのである。

 このときに思い起こされるのは、地下の世界と労働との関連性だろう。先述したように、ダンジョン内で暮らす年寄りの数というのは、高が知れているのだ。したがって、ペルミテースを探すというならば、思いきってこの一点に的を絞ったほうが、格段に見つけやすくなる。それこそ、ほかの特徴なぞ不要なくらいに……。

 だというのに、なぜ?


「……」


 コーザの意識が、再びダンジョンに向いたとき、そこはもうすでに、見慣れた景色へと変わっていた。コーラリネットに戻って来たのである。


(ここは……)


 思い出すよりも早くに理解できたのは、くだんの人員に出会ったからだろう。


「テメエは……コーザじゃねえか! こんなところで何してやがんだ!」


 間違いない。ここはムッチョーダのテリトリーだ。

 そして、完全に忘れていた。

 今、ムッチョーダと氷結とは、抗争の真っ最中だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る