第17話

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 017_科学の発展

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 ヨリミツから連絡があったので、研修室に向かった。

 いつもそうだけど、いきなり呼び出される。僕もほいほい行ってしまうのがいけないと思いつつ、研究室に到着。

 挨拶もそこそこに研究室ではなく、ちょっと広い体育館のような場所に連れていかれた。そこには安住教授が居て、体長二メートルくらいのロボットがあって、学生と思われる人たちが忙しくしていた。

 よく見ると、それはロボットというよりはパワードアーマーって感じ。人が中に入って動きを補助するようなものかと思った。


「やあ、カカミ君。久しぶりだね」

「ご無沙汰してます。教授」


 パワードアーマーから僕のほうに視線を向けた安住教授は、とてもにこやかだった。


「今回リオンを呼んだのは、これを見せるためだ」


 ヨリミツがパワードアーマーをポンポンと叩いた。

 スマートな感じのパワードアーマーだけど、これを見せるために僕を呼んだの? なんで呼ばれたのか、全く理解できない。

 僕が怪訝な表情をしていたのが分かったのか、ヨリミツは黙って見ていろとパイプ椅子に僕を座らせた。


 黙って見ていること三〇分。本当に一言も喋らずに座っていたけど、何か?

 ヨリミツと安住教授、そして五人のアシスタントの学生が忙しなく動き回っている。でも、いい加減その光景を見ているのも飽きた。そこで安住教授が声を出す。


「よーし、準備はいいなー」


 ヨリミツとアシスタントたちが、問題ないと返事をしてテストパイロットがパワードアーマーの中に収まった。テストパイロットも学生で、可愛らしい女性だった。ただ、臙脂えんじ色に白のラインのジャージなので可愛らしさはよりも、田舎者っぽい。


 アシスタントの二人がカメラを構え、一人が何かの操作盤の前に陣取った。安住教授とヨリミツが四台のモニターの前で、腕組をして画面を睨めつけている。

 アシスタントが操作盤を操作すると、緊張が僕にも伝わってきた。そして、それは起きた。


「えっ?」


 パワードアーマーが少しだけ浮き上ったんだ。

 ホバークラフトのように空気を噴射している感じには見えない。ジェットエンジンやヘリコプターのプロペラも見当たらない。どうやって浮いているんだ?

 僕はそれを見ただけで驚いたけど、ヨリミツたちはまだまだといった感じ。


 パワードアーマーが足を動かして、一歩、二歩と進んだ。動きがスムーズに見えた。腕を動かし、ジャンプし、走って、滑って……えっ、前転!?

 実験は三〇分ほど行われた。なかなかスムーズに動いている。いい感じじゃないの?


「今回の実験は成功だ。良いデータも取れた。皆、よくやってくれた」


 なんか師弟の暑苦しいドラマが始まった。安住教授とヨリミツ、アシスタントたちが抱き合って喜んでいる。僕は蚊帳の外でポツン。

 科学の発展だとか口々に言っているけど、僕にはよくわからない。


「いい加減、説明してくれないかな。あのロボットのようなものが、スムーズに動いたのを見せたかったのか?」


 喜び合っていたヨリミツに、そう声をかけた。


「あの実験機を見て気づかないのか?」

「……何を気づけと?」

「面倒臭い奴だ」


 この野郎、温厚な僕でも怒るぞ。


「仕方がない。リオンに分かるように教えてやろう」


 溜息を吐き、説明を始めた。ぶっ飛ばすぞ、このー。


「あのスマートメタルは、人の動きを正確にトレースして動く」


 あのロボットはスマートメタルと言うようだ。まずそこから知らなかったよ。


「それで、そのスマートメタルがスムーズに動いたのが良かったの?」

「スムーズに動くのは、当然だ。そんなことはかなり以前に成功している」


 だったら、なんだよ?


「本当に気づかないのか?」

「悪かったな、頭が悪くて」

「そんなことは、以前から知っている」


 このぉっ! 拳を握って怒りを我慢。ヨリミツは以前からこうだ。だけど、いいところもある。だから、こいつと何年もつき合っている。


「あのスマートメタルの動力源は、お前の結晶だ。魔石の七倍ものエネルギーが内包されている結晶は、スマートメタルの稼働時間を大幅に上げてくれた」


 同じ魔物の魔石よりも、結晶のほうがエネルギー量が多い。それは、以前聞いている。

 そうか、魔石よりもエネルギー量が多いと、それだけパワーが出せたり稼働時間が延びるんだ。


 色々小難しい説明をされたけど、要はエネルギー量が多いこと、そして重力を封じた結晶によって重力場を発生させることができること。

 重力が何に影響を与えているんだろうと思ったが、スマートメタルが浮いたことを思い出した。でも、浮いたから何? どうも僕にはよく分からない。


「重力の結晶を制御すると、スマートメタルを浮かせることができる。これによって、各可動部にかかる負担が減る。これも大きなことだ」

「ふ、ふーん……」

「分かってない顔だな」


 うっ……。その通りですが、何か?


「分かっているぞ、可動部に負担が減るんだろ」

「可動部の負担が減ると、何がいいと思うんだ?」

「うぅ……」


 痛いところを突いてくるな。


「あ、そうだ! あのスマートメタルを見てもいいか?」

「構わないぞ」


 話を変える! 難しいことはヨリミツの担当。僕は能天気が担当。これでいいのだ。

 僕はスマートメタルを近くで見させてもらった。なかなか立派なものだ。

 その後、ヨリミツから生命結晶と重力結晶をもっと供給してほしいと頼まれた。魔物の生命を封じたから生命結晶、重力を封印したから重力結晶、そう呼ぶようにしたらしい。


 翌日、僕はマンションからそれほど遠くない河川敷にやってきた。ここなら重力を封印しても誰にも迷惑はかからないだろう。

 自分の周囲の重力を『魔眼』で確認し、できるだけ広範囲の重力を封印するようにイメージして『結晶』を発動させる。

 その瞬間、地面に落ちていた小石などが空中に浮き、そこが無重力だと実感する。

 かなり広い範囲の重力を封印したことから、重力結晶は前回の一〇倍近い三センチくらいになった。

 これを五個用意したら、生命結晶を手に入れに行く。ヨリミツと安住教授の要望は、できるだけ大きな魔石を残す魔物の生命結晶がほしいと言われている。

 今のところオークが一番大きな魔石を残すので、オークの生命結晶が一〇〇個ほしいらしい。


 レイド戦を控えていることから、持っていたオークの生命結晶は全部解放してしまった。だから取りに行かないといけない。ついでだから、オークキングの様子でも見ていこうかな。

 オークを『結晶』で倒しながら進み、四階層に上った。隠し通路を目指して進んでいると、隠し通路の前に四人のシーカーが居た。


「ここはシーカー協会の許可があるまで立ち入り禁止だ」


 どうやらシーカー協会から派遣されたシーカーパーティーのようだ。オークキングは諦めて、代わりにオークジェネラルでも見てこようかな。

 アイテムをドロップさせないことで有名なので結晶にできるか確認して、ダメなら倒してオーク狩りを続けようと思う。


 オークジェネラルは屋上のようなところで寝ていた。多分、誰も来ないので、気が緩んだんだろう。

 僕が近づいていくと、徐に目を開けて上半身を起こして欠伸をした。これはバカにされているのかな?

 まあいい。『結晶』を発動させる。抵抗が激しい。


 オークジェネラルは慌てて立ち上がって、巨大な盾を構えて僕に突進してきた。落ちついてオークジェネラルの突進を空間の壁で防ぐと、オークジェネラルは弾かれて後方に倒れた。バカだ。

 ここで再び『結晶』を発動させると、先ほどより抵抗は弱いように感じた。でも、まだ結晶にはなってくれない。


 立ち上がったオークジェネラルの顔が怒りに染まっている。かなり厳つい顔なので、見ないことにした。

 そのオークジェネラルを空間の壁で囲む。動けないので壁を叩いて暴れるオークジェネラルは、次第に動きが悪くなって息が荒くなってきた。酸欠状態になっているようだ。


 じっくりと弱るのを待つ。

 目が虚ろになったオークジェネラルに『結晶』を発動したらその場に倒れて、僕の手の中に結晶が現れた。

 さすがはオークジェネラルだ、トロルやオークキングの結晶に次いで力を感じる。


 ニコニコとしながら落ちていた魔石を拾おうとしたら、その横に剣があった。

 アイテムをドロップさせないケチなオークジェネラルが、僕のために剣を残してくれた! 感動だよ。バカとか思ってごめんよ。


 思わぬドロップアイテムに気分良くなった僕は、一〇〇体分の生命結晶を集めた。

 地上に戻ってシーカー協会で、オークジェネラルからドロップした剣を鑑定してもらう。


「これは呪いの剣でした」

「え?」

「装備すると全身の毛が抜け落ちる呪いがかかっています」


 なんと、装備したら全身の毛が抜け落ちる呪いがかかった剣だった。


「あのブタめぇっ!」


 あのオークジェネラルは、僕の毛根を全滅させるつもりだったようだ。次にオークジェネラルと戦うことがあったら、もっと苦しませて倒そうと思った。


 

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