第49話 ハグレ対スマートメタル
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049_ハグレ対スマートメタル
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「ハグレだっ!」
「「「っ!?」」」
実戦試験が上手くいき撤収しようとしていたところに、シーカーの悲鳴のような声が聞こえた。
僕の周辺に居た全員が叫んだシーカーを探すように顔を動かす。
「あれはオーガかっ!?」
大水支部長の野太い声の後に、来賓の中から悲鳴のような声が聞こえた。
自衛官はさすがの胆力だけど、民間人はそういうわけではないから悲壮感がある声を出すのもしょうがないだろう。
オーガは体長二五〇センチほどの鬼だ。額に一本ないし二本の角があり、怪力と巧みな戦闘術を持っている。
たしか、Cランクダンジョンで出て来るような魔物だったはずだ。
今回のハグレは戦斧を持っている。かなり強そうに見える。
「シーカーはハグレを抑えろ! 安住さん、すぐに撤収を」
「そうですね。すぐに撤収させます」
「待ってください」
大水支部長に促されて安住社長が撤収を決断すると、源田陸将が待ったをかけた。
「安住社長。あのハグレをスマートメタルで倒せますか」
「スペック的には可能ですが、まさか……」
「せっかくなので、スマートメタルのスペックを確認させてください」
「しかし、オーガはサハギンとは違い、かなり厳しい戦いになりますよ。それに、スマートメタルのパイロットは今日が初めての実戦でした。オーガのような強力な魔物と戦えるでしょうか」
「ならば、パイロットの意思を確認しましょう」
無線で二機に呼びかけ、ハグレと戦えるかと源田陸将が問うた。
「やります。やらせてください!」
「
こうなってはやるしかないと、安住社長も覚悟を決めたようだ。
「試作機が破損するかもしれませんよ」
「責任は私が取る」
実戦配備されたら、普通だのハグレだのボスだの言っていられない。源田陸将の考えは僕でも多少は理解できる。
「危険になったら、シーカーの介入をお願いしたい」
どうなるか分からないが、源田陸将は大水支部長にパイロットの命だけは守りたいと言う。
「承知しました。黒田さんもよろしいですね」
黒田さんはシーカー協会の本部の人だ。大水支部長曰く、腹黒らしい。
「源田陸将が決めたことに、私がとやかく言う権限はありませんよ」
何かあったら源田陸将の責任だと、黒田さんは言った。
責任の所在は明確にするべきだけど、なんか感じが悪い。僕はああいう人は好きになれない。
スマートメタル対ハグレ。
期せずして実現した
体高三メートルちょっとの試作五号機と対峙しても、オーガは小さく見えない。試作五号機のようなスマートな機体と比較すると、逆に小さく見えてしまうほど逞しい体躯をしている。
民間人は電気自動車に退避させて、いつでも発進できるように準備する。
自衛隊員たちはさすがの胆力で、源田陸将を護るように取り囲んで戦いを見つめる。
シーカーは他の魔物の警戒と、スマートメタルが危なくなった時に割って入れるように準備している。
僕もいつでも空間壁を出せるように身構えておこう。
戦いはオーガが先に動いて始まった。
オーガの殺気がここまで飛んできている。間近で殺気を受けている試作五号機のパイロットは大丈夫だろうかと思っていたが、試作五号機はオーガの戦斧をしっかりと受け止めた。
戦斧の凶悪な一撃に見えたけど、試作五号機も負けていない。
「パワー負けはしてないようだな」
源田陸将は鍔迫り合いを見て、言葉をこぼした。
「ガァァァァァァァァァッ」
オーガが吠えてさらに力を込めると、ギギギッと試作五号機のボディが悲鳴をあげる。
「こんなものっ!」
スピーカーからパイロットの声が聞こえて来る。
同時に試作五号機がオーガの戦斧を押し返していく。
スマートメタルのボディからは、悲鳴のような音が聞こえてくる。
「「「おおおっ!」」」
オーガに力負けしないどころか、逆に押し込んでいくその姿を見て自衛官たちから感嘆の声があがる。
そのパワーに、甲高いモーター音が聞こえて来るようだ。
パワーは試作五号機のほうが上で、力負けしたオーガはたまらず後方へ飛んで引いた。
そこから試作五号機の怒涛の攻撃が始まり、オーガは防戦一方になる。
試作四号機の出る幕はないかと思ったその時、オーガが吠えた。
「ガァァァァァァァァァァッ」
二〇〇メートル以上離れている僕たちの鼓膜を破りそうな声だ。
オーガの体が青白いものから赤黒く変わっていく。
「バーサーカーモードだ。ここからが厄介だぞ」
大水支部長の言ったバーサーカーモードというのは、オーガ特有の特殊能力のようなものだ。発動条件は生命力が三割を切ることで、発動すると一度だけ生命力が全回復する。さらに、パワーが二倍になるという厄介な特殊能力だ。
情報が速やかに伝達されると、パイロットは了解とだけ短く答えた。
オーガが戦斧を無造作に振り回す。
試作五号機はそれを受けるのではなく、スピードを全開にして回避する。
あんな攻撃を受けたら、さすがの試作五号機でもヤバいと思う。
地面を抉る一撃。戦斧が地面にめり込んだ。
その隙を見逃さず、試作五号機のエネルギーソードが唸る。
「グアァァァァァァァァァァァッ」
戦斧を軸にして棒高跳びのようにジャンプしたオーガのケリが、試作五号機の胸部に炸裂した。
試作五号機は吹き飛び、地面を抉って止まる。胸部装甲が段ボールのように凹んでいる。パイロットは大丈夫なのか?
「倉橋一尉、大丈夫ですか!?」
ガッ。無線から返事はない。
無線が壊れたか、パイロットの倉橋一尉が気絶しているか、それとも……。
「グラァァァァァァァァァァァァッ」
やってやったぞと、オーガが吠える。
「やったな!」
試作四号機に乗り込んでいる大場三尉のがなるような声が聞こえてきた。
すでに準備完了している
衝撃波が地面を抉りながら飛翔した弾丸は、軽くマッハを超えている。その速度に反応するのはさすがのバーサーカーモードのオーガでも無理だった。
弾丸はオーガの腹部に大きな穴を開けた。
「グガッ」
赤黒い血を吐き、肌が青白いものに戻っていく。オーガは大の字に倒れ、やがて消えてなくなった。
試作四号機が居るのに、試作五号機を蹴り飛ばして呑気に悦に入っていたオーガの間抜けさが僕が受けた印象だった。
「倉橋一尉の救助を急げ!」
源田陸将の命令で、皆が試作五号機に群がる。
あれだけの戦闘をしたためか、試作五号機のボディはかなり熱を帯びていた。
さらにハッチがかなり変形していて、素手では開けられなかった。そこで試作四号機に開けてもらうことになった。
大場三尉は容赦なくハッチを壊した。元々変形が激しかったから、構わないだろう。
「生きています! 倉橋一尉存命!」
「「「おおおっ!」」」
倉橋一尉は気絶していただけだった。簡単なメディカルチェックを受けたが、打撲程度で他に問題は見受けられない。念のため脳波などを検査することになったけど、僕の『魔眼』で見ても異常は見られなかったので多分大丈夫だろう。
実戦試験は波乱もあったけど、死者を出すことなく終了した。
倉橋一尉が病院送りになったため、打ち上げは行われなかった。
ただ、源田陸将はかなり満足していた。
逆に安住社長と三橋執行役などは、試作五号機が中破したことに肩を落としていた。
「バーサーカーモードのオーガの攻撃は凄まじいな。装甲の材質を考え直さないといけないか?」
ヨリミツは一人でブツブツと言っている。今声をかけても反応しないだろう。
それから一カ月ほどして、スマートメタルが自衛隊の標準装備になると連絡があった。
安住社長は生産ラインを稼働させるべく、求人を含めて色々な整備に取りかかった。
さらにオカザキ自動車とその関連会社とも連携することになっている。
しばらくはスマートメタルの量産化に向けて、忙しい日々が続きそうだ。
それからヨリミツの依頼で、装甲の新素材をオカザキ自動車が研究している。
今すぐには無理だけど、将来はもっと強度のある装甲になる。そうなればBランクのダンジョンにだって入れるかもしれない。
これにも自衛隊の予算がついた。パイロットの安全は何よりも優先されることだと源田陸将が強弁したらしいと、安住社長に聞いた。
さらに数日後、国防省が今回の実戦試験映像を公開し、スマートメタルの正式採用が発表された。ハグレ戦の映像は出さず、サハギン砦の映像が良い感じに編集されている。なんだかロボット物の特撮のような映像だった。
そして来年度予算に数千億円の予算を計上し、スマートメタルを配備すると公表したのだ。
このことは外国にも影響を与えることになった。
同盟国はスマートメタルの配備を検討したいと政府に打診し、大陸の隣国や半島の国は日本が戦争の準備をしていると過剰に反応した。
スマートメタルは他国でも生産出来るものだが、問題はそのエネルギー源だ。
生命結晶と重力結晶。この二種類の結晶がないと普通の魔石を使うしかないが、魔石を生命結晶の代替えとして使うのは、効率が悪い。七倍のエネルギー量を誇る結晶はかなり優秀だ。
また、重力結晶は今のところ代替えがきかない。これがないと、指向性重力制御システムを動かせない。スマートメタルの動きをスムーズにしているシステムだから、かなり重要なものだ。
結晶を巡って国際的な渦が起こることを、僕は覚悟しなければいけないんだろうな……。
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