第50話 死霊ダンジョンを探索しよう

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 050_死霊ダンジョンを探索しよう

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 知多市の海沿いにあるCランクダンジョン、通称死霊ダンジョンに一人で入った。

 ミドリさんたちとパーティーを組んでいるけど、八級の三人は死霊ダンジョンに入れない。


 洞窟型の広くてうす暗い通路を、『魔眼』を発動させながら進んでいると魔物の力場を見つけた。肉眼で見てみると、何か居るように見えない。かなり見分けにくい魔物か、僕の見間違えなのか。

 再度『魔眼』を発動させると、魔物の力場がちゃんと見える。間違いなく魔物は居る。


「あれが噂に聞く、ゴーストか」


 うす暗い通路の先の空中に浮いている。

 黒く蠢く霞のようなもので向こう側が見える。あれがゴーストなんだと認識した。


「情報に聞いていた通りの姿なんだ」


 通路がうす暗いから、肉眼でゴーストは発見しづらい。

 あれではかなり近づかないと発見できないし、空中に浮いているから気づかないこともあるだろう。

 僕のように『魔眼』がないシーカーは、気配を感じるしかない。そういったスキルを持っていたらいいけど、気配を感じるスキルを持っている人は多くない。


 僕はカラドボルグを抜いて、黒い不定形の霞のようなゴーストに飛びかかった。


「はっ」

「キェェェェェェェェッ」

「うっ」


 切った瞬間、ゴーストは耳障りな声を発した。

 アオイさんが死霊ダンジョンについて調べてくれたから、事前にゴーストの対策はできている。

 このテラーシャウトという声の対策として、僕は耳栓をしている。完全に音をシャットアウトするものではなく、ある程度音を遮るものだ。

 ダンジョンの中で音を完全にシャットアウトするわけにはいかないので、ある程度は聞こえてしまう。だけど、耳栓があるおかげでテラーシャウトに耐えることができた。


「うるさい!」


 再びカラドボルグで切ると、ゴーストは消えて魔石を残した。

 ゴーストの攻撃手段は今のテラーシャウトで恐慌状態にするのと、ドレインタッチという生命力を奪うものがある。


「ふー。剣による攻撃があまり効かないと聞いていたけど、カラドボルグなら問題ないようで良かった」


 ゴーストはほとんど物理攻撃が効かない魔物だけど、伝説級のアイテムであり光属性のカラドボルグなら効果がある。


「次は『空間操作』を試すか」


 次に発見したゴーストにドリル弾を試すつもりでいたら、スケルトンが出て来た。

 スケルトンは棍棒を持っているだけで、装備は何もない。

 今度もカラドボルグを振る。骨を絶つ感触があり、切った後にスケルトンが粉々になった。


「ゴーストと違って、スケルトンは一撃か」


 ゴーストは手応えがなかったけど、スケルトンは骨という物理的に切れるものがある。

 スケルトンは骨を絶ってもすぐに再生する魔物だけど、光属性のカラドボルグで切れば再生できなかったようだ。


 さて、次は何が出てくるかな。


「うっ……臭い」


 僕の前に現れたのはゾンビだった。腐肉が異臭を放っていて、鼻がひん曲がりそうなくらい臭い。


「あれに近づくなんて無理!」


『結晶』を発動させて、ゾンビの生命力を結晶に封印する。

 ゾンビはすでに死んでいるから生命力はあるのかと疑問に思っていたんだけど、問題なくゾンビを倒すことができた。

 もしかしたら、生命力ではなく個体を動かすエネルギーなのかもしれない。考えても分からないけど、死霊系魔物にも有効そうなので良かった。


「しかし、ゾンビは臭かったな。ゾンビは即結晶にしよう」


 第一エリアを探索している、パーティーを数組見かけた。

 前衛だと思うけど、顔を覆うタイプのガスマスクをぶら下げて歩いていた。ゾンビの臭い対策だ。

 僕もアオイさんに勧められたので、一応持っている。ただ、僕は『結晶』のおかげでゾンビの臭いが漂ってくるギリギリのところで倒せるから、今のところ使ってない。


「しかし、二〇〇メートル離れていても臭いがするとか、信じられないよね」


 再生能力を持つスケルトンがとても可愛く思えてしまうほど、極悪な臭いだ。


 第一エリアのボスは居なかった。第二エリアに入っても変わり映えしないうす暗い洞窟だ。

 この死霊ダンジョンは全エリアが洞窟で、うす暗い。


 第二エリアもゴースト、スケルトン、ゾンビが出てくる。でも、数が一気に多くなる。

 ゾンビの群れが現れたら最悪で、臭くて鼻を切り落としたくなる。

 僕としてはゴーストやスケルトンよりも、ゾンビが一番嫌な魔物だ。


「あ……あった……」


 第二エリアを進んでいると、隠し通路を発見してしまった。


「これは行くべきだよね」


『結晶』で壁の力場を封じると、壁が崩れて通路が現れた。


「げっ……臭い……」


 この臭いから、奥に居る魔物の種族が分かってしまった。

 今更だけど、行きたくない。


「はあ……」


 収納からガスマスクを取り出して被る。顔全体を覆うタイプのマスクだ。

 臭いはこれで大丈夫になったけど、激しい動きはしづらくなった。


 宝箱が二つあった。一つは罠があるけど、もう一つにはない。

 罠がないほうを開けると、レヴォリューションブックがあった。僕が持つ特殊能力に対応したものだと嬉しい。鑑定に出そう。

 さて、罠があるほうの後方に回り、距離を取って空間壁を操作して蓋を開けた。空間壁を動かすのは相変わらず大変だ。


 ドッカーンッ。

 宝箱が爆発した。距離を取っていたからダメージは少ないけど、吹き飛ばされて壁にぶち当たった。


「痛っ……げっ、ガスマスクにヒビが入ってしまった」


 僕自身は結晶を使って回復するけど、ガスマスクの予備は持ってきてない。

 臭いを我慢すれば、ガスマスクがなくても……無理だ。

 ちょっとガスマスクを外しただけで、鼻だけじゃなく目にもきた。

 ヒビが入っているけど、ガスマスクはまだ大丈夫。使える。このまま進もう。


 あれだけの爆発があったのに、宝箱は傷一つついてない。

 中にはポーションと思われる液体が入った瓶が一本。

 下級ポーションではないと思うけど、ショボイと思ってしまった。


 隠し通路をさらに奥に進むと、ドーム状の広間に一体のゾンビが居た。


「デカいな」


 通常のゾンビは僕とそれほど変わらないけど、あのゾンビは四メートルくらいある。まるでトロルのゾンビのようにあちこち太い。

 顔や体の半分が原形を留めておらず、動いてないのにだらだらと地面に腐肉が落ちていく。


 激しい動きをするとガスマスクが割れそうだから、ここは『結晶』を発動させることにした。

『結晶』を発動させると激しく嫌がって暴れるが、僕は離れたところから攻撃を仕掛けているから被害はない。


「あっ!?」


 巨大ゾンビの周囲に、普通より少し大きめのゾンビが現れた。こいつも眷属を召喚するロードタイプか。

 僕自身は動かず、空間壁で臭いをシャットアウトする。ヒビで視界が悪くなったガスマスクを外せる。空間壁を出したまま動ければいいんだけど、そう都合よくはいかないのが辛いところだ。


「うわー、臭そう……」


 広間はゾンビで埋め尽くされていく。

 ゾンビロードは苦しみ藻掻くが、すでに七割程の生命力を奪っている。

 ゾンビが広間から溢れて僕がいる通路へと出て来る。

 僕を視認したゾンビが群がってくる。空間壁の外は酷い臭いなんだと思う。最悪の隠し通路だ。絶対に嫌がらせだよね、これ。


 ゾンビロードが倒れた。それによってゾンビの召喚は止まったけど、軽く一〇〇体を超えるゾンビが蠢いている。

 全部『結晶』で処分するしかないか。ため息が出る。


「ん?」


『結晶』でゾンビを倒していると、ゾンビたちが一カ所に固まっていく。


「あれは……合体!?」


 ゾンビたちが合体していき、巨大化していく。


「うわー、勘弁してよ」


 ゾンビロードよりも巨大なゾンビになっていく。

 合体していくと人型ではなく、丸くなっていく。ただし、顔や手足があっちこっちに見えて気持ち悪い。

 でも、複数を『結晶』するより、一体のほうが手っ取り早いからありがたい。

 合体ゾンビは転がりながら通路に出てきて、僕へ体当たりしてきた。


「きもっ!」


 空間壁にべちゃりと顔や手足がへばりつき、壊そうとしている。

 それを間近で見る僕は、精神にダメージを受けている感じ。

 この光景は夢に出てきそうだ。早く結晶に封じようと、『結晶』に集中する。


「……なんか疲れた」


 合体ゾンビは消えて巨大な魔石とアイテムを残した。

 魔石はともかく、アイテムが肉なのはどんな嫌がらせ?


 ゾンビロードも魔石とアイテムを残していた。こっちのアイテムは指輪だった。


「てか、呪われそうだな、この指輪」


 髑髏の指輪とか、趣味が悪すぎる。


 ●宝箱からレヴォリューションブック(一冊)

 ●宝箱からポーション(一本)

 ●ゾンビロードの魔石(一個)

 ●髑髏の指輪(一個)

 ●合体ゾンビの魔石(一個)

 ●ゾンビの肉?(一〇〇グラム)

 ●眷属ゾンビの魔石(三〇個)


 今回の隠し通路の収穫はこんな感じ。

 隠し通路以外では、魔物の魔石を回収している。


 ●ゴースト、ゾンビ、スケルトンの魔石(一二六個)


 ここで探索を終了し、転移ゲートを使って地上へ戻った。

 シーカー協会で隠し通路の報告をし、アイテムの鑑定をしてもらった。



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