第51話

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 051_ゾンビの呪い

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「出た……やったぞ!」


 僕は歓喜した。

 人目も憚らず、小躍りしてしまった。

 知多支部の長谷部支部長と二人の職員が呆れた顔をしていたが、そんなことは気にしない。


「カカミ君。落ちついてくれないかね」

「はい。すみません。ほしかったレヴォリューションブックが出たので嬉しくて、つい」

「それは良かった」


 今回、僕が持ち帰ったレヴォリューションブックは、『時空操作』用のものだった。

 これで僕の『時空操作』がパワーアップできる!


 ●レヴォリューションブック(一冊) ⇒ 『時空操作』用

 ●ボズガルド(一本) ⇒ 三〇歳若返らせる(不老薬の劣化薬)

 ●ゾンビロードの魔石(一個) ⇒ 黒色中五級(一三〇万円)

 ●ゾンビの支配者(指輪)(一個) ⇒ 装備者はゾンビを召喚できる

 ●ユニオンゾンビの魔石(一個) ⇒ 黒色中二級(六〇〇万円)

 ●ゾンビフード(肉)(一〇〇グラム) ⇒ 食べると特殊能力を得る

 ●眷属ゾンビの魔石 ⇒ 黒色小四級(一三万円×三〇個)

 ●ゴースト、ゾンビ、スケルトンの魔石 ⇒ 黒色小五級(七万円×一二六個)


 爆発の罠があった宝箱から得たポーションのような液体は、ボズガルドという三〇歳も若返らせる神薬だった。


「三〇年近くこの業界にいるが、ボズガルドの発見例は過去に五件あったかどうかだと思うよ。カカミ君」


 世界中で発見例が五件だと長谷部支部長が言う。

 ボズガルドは飲むと三〇歳若返らせるため、僕のような三〇歳になってない人だと存在が消えてしまうらしい。なんて恐ろしい神薬なんだ。

 でも、お年寄りのお金持ちにかなり人気のアイテムだ。


「これは入手後一年以内に飲まなければ効果が消えてしまう。オークションに出すなら早めに判断したほうがいい」


 一年しか効果がないらしいけど、僕の収納は時間経過を止めることができるからそこまで急がなくてもいいと思う。

 ただ、僕は若返りの神薬にあまり魅力を感じなかった。理由は分からない。そう感じたんだ。


「オークションに出そうと思います」


 職員の方が長谷部支部長にタブレットを渡した。


「前回は一〇〇億で落札されているね。その前が一一〇億。今回もそのくらいになると思うよ」


 一〇〇億円! 最近の僕は好景気だ。

 これでも不老薬の劣化薬なのが凄い。もし不老薬がドロップしたらどうなるんだろうか? 争奪戦が繰り広げられるんだろうな……。


 髑髏の指輪はゾンビの支配者というアイテムで、装備者がゾンビを召喚できるというアイテム。髑髏ならスケルトンじゃないのかと思ったが、それは言わないことにした。これもオークションに出す。


「少し前にゴブリンの支配者の証というアイテムが三億円で落札されているね。ただ、今回はゾンビだからねぇ……」

「臭いですからね」


 悪臭を放つゾンビを召喚したら、自分までダメージを受けてしまう。相当な変人か悪臭愛好家くらいしか買わないかも。

 安くても構わない。僕はゾンビなんか絶対に召喚しないからね。


「ああ、ゴブリンの支配者の証はカカミ君が出品者なんだね」

「運がいいのか、こういったアイテムを得てしまいます」

「運がいいと思うよ。長くシーカーをしていても、数億のアイテムを得られることなんて、そうそうないからね」


 僕の場合は隠し通路を何度も発見しているから、感覚が麻痺しているのかもしれない。


「さて、これだ。これ、どうするのかな?」


 見た目が牛肉のゾンビフード。

 長谷部支部長はこのゾンビフードに鋭い目を向ける。

 ゾンビフードは食べると特殊能力を得ることができるというアイテム。得られる特殊スキルはランダムだ。


「正直言って、こんなアイテムがあるなんて思いもしなかったよ。これをオークションに出したら、どれほどの額になるか想像もできないぞ。カカミ君」


 四〇後半のサラリーマン風の長谷部支部長は、メガネをクイッと人差し指で上げた。

 僕自身は『サハギン王』という特殊能力をアイテムから得ているけど、それは得られる特殊能力が固定だった。

 このゾンビフードは得られる特殊能力がランダムで決まるが、その分良い特殊能力を得る可能性もある。

 オークションに出品したら長谷部支部長が言うように、どれほどの金額で競り落とされるか想像もつかない。


「もしかしたらボズガルド以上の金額になりかねないと思うよ。特級シーカーが持つような特殊能力を得る可能性だってあるんだからね」


 問題はオークションに出すか、僕が自分で食べるかだ。

 長谷部支部長はオークションに出してほしそうだけど、特殊能力は多くて困ることはない。

 残念ながら『サハギン王』はあまり使ってないけど、その他の三種類は凄く使っている。

 ただ、ゾンビからドロップした肉なんだよ。あの合体ゾンビユニオンゾンビを見てしまうとさすがに食欲が湧かない。

 それに、この肉からも悪臭がしているんだよね。納豆やくさやのような臭い食べ物もあるけど、それ以上の臭いなんだ。


 ゾンビフードの扱いは保留して持ち帰ることにした。収納しておけば、時間経過はないからね。

 帰りは電車に乗らなくても転移ゲートで一瞬でマンションに帰れる。


「あ、お帰りなさい、リオンさん」

「来てたんだね、アオイさん」


 アオイさんはマンションのカギを持っている。


「うっ……臭いです」


 僕が近づくと、アオイさんは鼻を摘まんだ。


「え、臭い? マジ?」

「マフィでしゅ。おふゅりょふぁかしみゃしゅ」


 そう言うとアオイさんは浴室に向かった。ああ、風呂のお湯を沸かすと言ったのか。

 風呂のお湯が溜まるまでに、ベランダに出て装備を脱いだ。

 脱いだ装備の臭いを嗅いだけど、あのゾンビに比べれば全然臭くないと思う。


「リオンさんの鼻は腐ってるのですか!?」


 部屋の中からアオイさんが言った。

 僕に近づきたくないのがありありと分かる。ショックを受けるからそこまであからさまにしないでほしい。


「そんな臭いをさせて電車に乗ったら、悪臭テロって言われますよ」

「えー……」

「転移で帰ってきて良かったです。電車に乗っていたら、SNSで晒されてますよ」

「そ、そうか……気をつけるよ」


 風呂に入り、服は洗濯した。

 アオイさんに最低三回は体中を洗うように言われた。

 僕が風呂に入っている間、アオイさんはマスクを五枚重ねてつけてゴシゴシと装備を磨いてくれた。

 ジャージに着替えてリビングに行くと、アオイさんが物干しに装備を吊るしているところだった。


「全然臭いがとれませんでした。おかげでファ●リーズが一本なくなりましたよ!」


 えぇぇ……装備をファ●リーズするとか、マジか~。

 でも、そのおかげで装備から悪臭はしなくなった。


「死霊ダンジョンに通うのは考えものですね。毎回こんな臭くなったら、ファ●リーズの会社を潤すだけです!」


 僕が使うだけでそこまで売り上げは上がらないよね。

 考えるに、アオイさんは今回の悪臭がかなり嫌だったようだ。

 女の子だから、臭いには敏感なのかもしれないね。


「ゾンビの呪いを受けるダンジョンに、リオンさんを入れることはできません。他のC級ダンジョンを探します!」


 ゾンビの呪いって……まあ、いいけど。

 アオイさんはノートPCに向かってカタカタとキーボードを打つ。


「ここなんかいいですね!」


 伊豆半島にあるC級ダンジョンの画面を僕に見せてきた。


「伊豆半島じゃ、通えないよ」

「泊り込めばいいのです。宿泊費などは経費で落ちます。集中的に探索すれば期間も短くすみますし、何より温泉地のそばです!」

「温泉に入りたいんだね」

「はい!」


 満面の笑みを浮かべて、元気な返事が返って来た。

 温泉は日本人の心を癒す。僕はそう思っている。だから、前向きに考えようと思う。

 それから今日の収穫をアオイさんに報告して、僕はレヴォリューションブックを使おうと思った。


 ピンポーン。

 レヴォリューションブックを使おうと思ったら、誰か来た。

 アオイさんがインターホンで応答している。どうやらミドリさんたちが来たようだ。

 アオイさんがドアのカギを開けて、三人を入れた。


「あ、リオンさんも帰っていたんですね」

「リオンさん、死霊ダンジョンはどうでした?」

「参考に話が聞きたい」


 ミドリさん、アズサさん、アサミさんが詰め寄って来た。

 今日は三人の七級昇級試験の日だった。昇級試験に僕はつき添えないから、別行動していた。


「まずは三人の結果を聞こうか」


 三人は顔を見合って、にやにやした。それだけで結果は分かる。


「「「じゃーんっ!」」」


 三人がシーカー証を見せびらかした。これはシーカー専用の身分証で、顔写真もついている。

 三人の身分証の顔はこんな感じなんだね。とても表情が硬い。免許証もそうだけど、なんでこんな真面目腐った硬い表情にしなければいけないのか。

 硬い表情の三人も可愛いけど、笑っているほうがもっと可愛いと思う。


「ふむ、三人とも表情が硬いね」

「「「あっ!?」」」


 免許証もそうだけど、こういった写真を女の子はあまり見せたくないらしい。今まで見せてと頼んでも断られていた。今日初めて三人のシーカー証を見せてもらったよ。


「「「リオンさん。この写真のことは忘れて!」」」

「いや、見ちゃったし」

「「「忘れろ!」」」

「はい!」


 は、般若が居る。

 プリクラとかは見せてくれるのに……。


 

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