第48話 実戦試験
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048_実戦試験
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枇杷島ダンジョンに入ってミドリさんたちの実力を確認したけど、僕に教えることはない。
剣の使い方を塚原道場に通って学んだら、僕なんてすぐに追い越されそうだ。
今日も枇杷島ダンジョンに入る。今日はいつものファイアボアの革鎧ではなく、スーツ姿。
安住製作所の執行役として、ビシッとスーツで決めている。
このスーツは、オーダーメイドで三五万円。目が飛び出るかと思ったけど、この程度はまだ安いほうだとアオイさんが言っていた。
ダンジョンの入り口前に横づけされたトレーラー。
その周囲に自衛隊のお偉い様や関連会社のお偉い様たち、そして安住製作所のお偉い様たちが集合。
「カカミ執行役。こちらは陸上自衛隊の源田陸将です」
「各務裏穏と申します。今日はよろしくお願いします」
初めて名刺を渡しちゃった。なんかサラリーマンになったような、新鮮な気分。
「
他の人たちとも名刺交換する。
「カカミ君か」
「あ、大水支部長」
枇杷島ダンジョンを管理している清洲支部のトップである大水支部長も一緒にダンジョンに入るようだ。
「参加者リストに君の名前もあったからまさかと思っていたが、本当に安住製作所の役員だったんだな」
「おかげ様でこんなこともやってます」
「シーカーしながら副業している者は珍しくもないから、構わんがね。ははは」
企業の重役を副業にしてる僕は、贅沢なシーカーだと思う。
入り口からサハギン砦までは、シーカー協会の指示に従うことになっている。
今回の試みはお偉い様が多いから、大水支部長は張り切っているようだ。
「今日は本部からも人が来ている」
小声でぼそっと教えてくれた大水支部長は、他のお偉い様に挨拶に向かった。
「目立たないようにということでしょう」
小声の意味を考えていると、アオイさんが教えてくれた。
僕の秘書だからアオイさんもダンジョンに入る予定だ。
「というと?」
「シーカー協会の中にも、権力欲に取り付かれた方がいるのではないでしょうか」
「……要注意人物ということかな」
「そう思って良いかと」
シーカー協会は国と民間の第三セクター。
色々な人が居るから、色々な考えがある。
専用トレーラーのウイングが開き、スマートメタルがリフトアップされる。
初見の人もいるのか、「おおお」と歓声があがった。
試作四号機は重厚なフォルム、試作五号機はスマートなフォルム。
遠巻きにするシーカー協会の職員やシーカー、そして一般人たちがスマホなどで映像を撮っている。
スマートメタルの開発は、最終段階に入っていて極秘ではない。国会でも答弁が行われているから、一般人も知っている。
安住社長も国会に呼ばれて答弁している。
スマートメタルは指向性重力制御システムによって浮いているから、音はかなり静かだ。足音はしても数トンの金属の塊のものではない。
そのことにお偉い様たちは驚いているようだ。
「指向性重力制御システムは、航空機などにも応用が決まったらしいです」
「航空機の墜落がなくなればいいね」
アオイさんの言葉に、短く返事する。
以前、安住社長からそういった話があると聞いたことがある。でも、指向性重力制御システムが量産されればされるほど重力結晶が必要になり、それだけ僕の負担が増える。
だから、航空機と言っても自衛隊の航空機にしか搭載しない。
安住製作所は自衛隊とずぶずぶな関係になっている。
僕たちはシーカー協会が用意したシーカーに守られて、第二エリアに向かう。
シーカーたちは徒歩だけど、僕たちは電気自動車に乗っての移動。二機のスマートメタルは、自力歩行している。
事前にシーカーがモンスターを狩ってくれたおかげで、僕たちは何事もなく第二エリアのサハギン砦に辿りついた。
護衛のシーカーたちは周辺のモンスターを警戒するように展開し、ヨリミツと安住製作所の技術者たちはモニターなどの機器を設置する。
僕や安住社長は自衛隊のお偉い様たちを囲んでお話。ダンジョンのことは僕でも分かるから話についていける。
アオイさんも水を配ったり、手伝いをしてくれる。助かるよ。
「お待たせしました。これより、スマートメタル試作四号機、及び五号機の実戦試験を行います」
オカザキ自動車の三橋主任、今は安住製作所の技術部担当執行役が進行を行う。
「試作五号機が先行し、それを試作四号機が支援します」
試作五号機がエネルギーソードを右手に持ち、サハギン砦へと歩いて行く。徐々に速度を上げて、走る姿をドローンが撮影する。
今回は五台のドローンによって空中から撮影が行われる。大規模な実戦試験だ。
それだけ安住社長も気合が入っていて、源田陸将の横にぴたりとついて説明を行っている。
試作五号機の後ろを試作四号機がついていく。こちらは普通に歩くこともできるが、腰をやや屈めた感じで足の裏にあるタイヤを駆動させているから、滑っているように見える。
試作五号機が砦の入り口に差しかかった。気づいたサハギンがわらわらと集まってくるのが、ドローンからの映像で分かる。
赤く発熱しているエネルギーソードを横に薙ぐと、三体のサハギンが撫で斬りにされた。
「「「おおおっ!」」」
お偉い様たちの歓声。最初の掴みはいい感じだ。
戦闘は次第に激しくなり、試作五号機の動きは人間に近い。エネルギーソードを縦横無尽に振り、サハギンを寄せつけない。
試作四号機が砦の入り口に陣取り、四門の真空砲から金属弾を発射する。金属弾は散弾になっていて、密集しているサハギン十数体をミンチにした。
「すごい威力ですね」
アオイさんが言うように、威力は申し分ない。
あれだけの威力があれば、この枇杷島ダンジョンに居るどんな魔物でも倒せると思う。
「あ、五号機が囲まれました」
アオイさんが胸の前で手を合わせ、祈るようにモニターを見つめる。
試作五号機は左手の甲から電磁ワイヤーを射出して三体のサハギンを絡め取ると、一気に加速してぐるりとサハギンの周りを移動した。それによって数十体のサハギンがワイヤーの輪の中に収められた。試作五号機がワイヤーを巻き取るモーター音をさせると、サハギンたちがブチブチッと引き切られていく。
「素晴らしい!」
源田陸将が拍手したのを見て、お偉いさんたちも拍手する。
実戦試験は順調に進み、試作五号機はその接近戦能力を遺憾なく見せつけた。
まったく危なっかしいところはなく、一〇〇体以上のサハギンを屠って見せたのだ。
「最後の仕上げを行います」
三橋執行役が最終フェイズに移行すると宣言すると、試作五号機と試作四号機がサハギン砦から出て来る。
その二機を追ってサハギンが追いかけて来て、わらわらと砦から出て来る。
「エネルギーチャージ完了。ターゲットロックオン」
パイロットの声がスピーカーから聞こえると同時に、試作四号機の左肩に装備されたレールに放電が見られた。
「
以前、僕がドリル弾を試し撃ちした時は砦の向こう側が見えたけど、
それでも数十体のサハギンを殲滅し砦に大穴をあけたことで、
実戦試験はこれ以上ないほどに良い結果で終わりを迎えた。
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