第47話 ミドリたちと
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047_ミドリたちと
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「「「カカミさん。お願いします!」」」
「えぇぇ……」
深々と頭を下げているのは、ミドリさん、アサミさん、アズサさんのご両親だ。僕は困惑しかない。
ご両親たちは三人にシーカーを辞めさせたいが、三人は辞めるつもりはない。その話し合いが何度も行われたが、平行線を辿った。
そこでなぜか僕に話が回ってきた。
「シーカーを辞めてくれるのが一番なのですが、ミドリは私たちの言うことを聞きません。カカミさんには本当に申しわけないのですが、三人が一人前のシーカーになるようにご指導いただけないでしょうか」
ご両親たちは三人がシーカーを辞めないのなら、僕にシーカーのいろはを習えと言うのだ。
三人は両親に心配をかけている自覚はあるものの、だからと言って夢を諦めたくないと言う。
僕は皆にバカにされてシーカーを辞めろと何度も言われた。それでもシーカーを続けたのは意地もあったけど、納得してなかったからだ。
夢を諦めたくないというのは、立派な理由になる。
「「「リオンさん、お願いします! 私たちを鍛えてください!」」」
三人も僕に頭を下げる。
おかしいよね。なんで僕なの? 世の中には僕なんか足元にも及ばないシーカーが居るじゃないか。
とは言え、三人には親しくしてもらっている。放置するわけにもいかないか。
「僕が何かを教えることなんて、烏滸がましいです。でも、三人がシーカーとして飛躍できる手助けができるのなら、出来る限りのことはしたいです」
「「「ありがとうございます!」」」
どうなったら一人前なのか分からない。それでも彼女たちより少しだけ多い経験があるから、その経験を三人に教えてあげられればと思う。
「ソロで五級になったカカミさんの実力は間違いないものだと思っています。どうか、娘たちをよろしくお願いいたします」
ミドリさんの父のタカオさんが、僕の手をとって何度も頭を下げる。
報酬はちゃんと出すと言うが、僕はそれを断った。彼女たちは数少ない友達だ。友達が困っている時に、力を貸さないなんてことはできない。
そんなわけで、僕はしばらく三人とパーティーを組むことにしたから、しばらくC級ダンジョンには入れない。
三人を連れていくわけにいかないからだ。
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E級ダンジョン、通称枇杷島ダンジョン。
三人の実力を見るために第五エリア、通称ゴブリン城へ僕たちは転移した。転移は三人を助けた時に使ったので、今更隠す必要はない。
「僕が言うまでもなく、ここにはゴブリン系のモンスターばかりが出て来る。剣と盾を使うゴブリンナイト、魔法を使うゴブリンメイジ、総合力のゴブリンジェネラル、そしてゴブリンたちを率いるゴブリンキングがボスだね。まずは三人で戦ってもらう。僕は手も口も出さない。いいね」
「「「はい!」」」
三人で斥候をするのは、赤茶色の髪をポニーテールにしているアズサさん。装備は革鎧と二本の短剣で、特殊能力は『短剣二刀流』だ。
アズサさんは警戒しながら、通路を進む。足音はせず、気配はかなり消せている。
アズサさんから五メートル程後方を歩くのは、金髪をショートヘアにしたアサミさん。彼女は金属鎧と大きめの盾、そして片手剣を装備している。フルフェイスの兜も装備しているから染めた金髪は見えない。
フェイスガードを上げた状態で通路を歩き、戦闘になったらフェイスガードを下すんだね。
金属鎧同士が当たって音が鳴らないように、綿などを詰めているのが分かる。音でモンスターを呼ばないようにちゃんと配慮しているところは、熟練のシーカーのようだ。
さらに五メートル離れてストレートロングで艶やかな黒髪のミドリさん。
革鎧の上にローブを纏っていて、武器は槍を持っている。ただし彼女の特殊能力は『植物操作』だから、中・長距離攻撃を得意としている。
アズサさんが曲がり角で立ち止まり、ハンドサインを送って来る。
三人は以前からこのハンドサインを使っていると聞いている。
今回発見したモンスターはゴブリンナイトが二体、ゴブリンメイジが一体。
アサミさんとミドリさんが音を立てないようにして、アズサさんと合流。
角からゴブリンたちをちらりと確認する。
「ゴブリンナイト二体はアサミが引きつけて。私はメイジに取りつくわ。ミドリはゴブリンナイトから倒して」
「「了解」」
パーティーメンバーだから、年下のアズサさんでもミドリさんを呼び捨てにする。彼女たちがパーティーを組んだ時に最初に作ったルールらしい。
僕のこともリオンと呼んでと言ったら、それはダメと言われてしまった。なんでだろうか。
「三……二……一……ゴーッ」
アサミさんとアズサさんが駆け出した。
ゴブリンナイト二体は一五メートル程のところに並んで居て、その三メートル程向こう側にゴブリンメイジが居る。
アズサさんがアサミさんの真後ろにぴたりとつく。あれではゴブリンたちからアズサさんの姿は見えないだろう。
アサミさんの姿を見たゴブリンナイトたちは、戦闘態勢に入った。
アサミさんは盾を構えて、そのままゴブリンナイトに突っ込んだ。
二体のゴブリンナイトの盾と、アサミさんの盾が甲高い音を立てて激突した。
ゴブリンナイト二体とアサミさんの力比べが始まると思ったが、アサミさんを飛び越えてアズサさんがゴブリンナイトの一体の頭に蹴りを入れた。
なんの身構えもしていなかったゴブリンナイトは脳震盪を起こしたようで、ふらふらと後ずさって倒れた。
アサミさんともう一体のゴブリンナイトの一騎討ちの状態を作り、アズサさんは勢いを殺さずゴブリンメイジへと詰め寄った。
すでに詠唱していたゴブリンメイジだが、発動が間に合わずアズサさんの攻撃を受ける。その攻撃を躱したゴブリンメイジの詠唱が中断された。
「ちっ、外したか」
ゴブリンメイジへの攻撃が外れ、アズサさんは舌打ちした。今のはゴブリンメイジが慌てて避けたのが上手くいっただけで、避けられたのはマグレだと思う。
運が悪かったアズサさんだけど、すぐに気持ちを切り替えて攻撃を加える。
アサミさんと打ち合うゴブリンナイトの体から植物が生えてきた。随分と発動時間が早くなったと、感心する。
さらに二体目のゴブリンナイトからも植物が生えてきた。『植物操作』は同時に発動できるんだ。知らなかった。
二体のゴブリンナイトが蔦に絡まれて動けなくなったところで、アサミさんもゴブリンメイジに向かう。
二対一になってゴブリンメイジはすぐに倒れた。魔法が使えないゴブリンメイジに勝ち筋はない。
ゴブリンメイジが倒れると、二体のゴブリンナイトも干からびて動かない。もうすぐ全ての生命力が吸われつくされるだろう。
そんな二体にアズサさんとアサミさんがとどめを刺した。
「これ、僕が教えることある?」
戦闘時間は五分もかかってないし、被弾だってしていない。危ないと思ったところもないし、不満に思うこともない。
「リオンさん。私たちの戦い方はどうでしたか?」
ミドリさんがちょっと不安げな目をして聞いて来た。
「正直言って、何も問題ないと思うよ。僕が教えることは何もない感じかな」
「「「やったー!」」」
三人は若い女の子らしく、手を取り合いピョンピョン跳ねて喜んだ。
それからもゴブリン城のゴブリンたちを倒しながら進んだ。
僕に言えることは何もない。だから、あえて提案をした。
「僕がお世話になっている道場に通ってみないかな」
アズサさんとアサミさんは、塚原師範に教えてもらったほうが成長するんじゃないかと思ったんだ。
「塚原師範の下で我慢できたら、二人はもっと強くなれると思うんだ」
「「はい、お願いします!」」
二人は即答で塚原師範の道場に通うと返事した。
「ミドリさんは『植物操作』の可能性の模索かな」
「『植物操作』の可能性ですか?」
「うん。今のままでも『植物操作』は十分に強いと思う。だからあえて他の可能性を模索していいと思うんだ。たとえばだけど、植物で回復薬を作るとか、地中からいきなり根のようなものが現れてモンスターを突き刺すとか、植物が爆発する実をつけるとかね」
「なるほど……分かりました。やってみます!」
ミドリさんは独自の路線で可能性を広げてもらうしか思いつかない。
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