第40話
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040_帰省
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シーカー協会清州支部の支部長室では、その部屋の主である大水と四人の幹部が重苦しい空気に包まれていた。
「また行方不明か……」
ダンジョンでシーカーが行方不明になるのは、珍しい話ではない。毎年、それなりの数のシーカーが行方不明になる。
だが、この一カ月の行方不明者数は、年間の行方不明者数を越えている。
「今月はこれで六パーティー、二九名のシーカーが行方不明になっています」
「しかも、その全てが枇杷島ダンジョンというのは、明らかに何かがあるのだと思われます」
「枇杷島ダンジョンに何かあるのか、それとも……」
枇杷島ダンジョンの魔物が増えているという報告はない。ハグレが出たという報告もない。それ以外の異常が起こってる可能性は否定できないが、一番可能性があるのはシーカーによる殺人である。
過去にもシーカーによる殺人が起きている。その時に状況が似ている。そこで問題になるのが、「誰が」ということだ。
大水は枇杷島ダンジョンに調査隊を送ることにした。自分たちが考えているようなことにならないことが、一番良いと思いながら。
調査隊にはそれなりの戦力が必要になる。幸いなことに、清州支部が管理するダンジョンにはB級の稲沢ダンジョンがある。B級ダンジョンに入れるのは、四級以上の猛者たちだ。
大水は四級パーティーに調査を依頼した。こういった依頼を引き受けるかは、シーカーに任せられている。依頼を受ければ実績となり、断ればそのことも記録される。
こういった実績を積み積み重ねることで、昇級試験が受けられるようになる。それは隠し通路を発見したことを報告することなどでも実績になる。
隠し通路を発見した時、秘匿した方が儲けになる場合もある。シーカー協会はそういった情報に、報奨金を出していないからだ。
だが、バカ正直と言われても、報告すれば実績になる。それは五級以上の昇級試験を受けるために必要なことだ。
もし、隠し通路を秘匿していて、他のシーカーに先に報告されたら実績は報告したシーカーのものになる。秘匿しても罪にはならないが、実績がないといつまで経っても五級以上の昇級試験は受けられない。
隠し通路などは簡単に発見できない。それをどう扱うかは、シーカー次第。目先の小さな利益を取るか、将来のための実績にするか。判断は別れることだろう。
隠し通路は発見されると、隠し通路ではなくなる。他のシーカーの目に触れる機会も増える。そんな隠し通路を秘匿し続けるのは、無理がある。
他のシーカーが先に報告してしまったら、しばらくはシーカー協会の管理下に置かれる。その後は情報が公開されてしまう。
それを考えれば、目先の利益を取るよりも実績にしたほうがいいと判断するシーカーは多いはずだ。
五級を目指す、または通過点だと考えているシーカーは多いことだろう。それを考えるなら、報告したほうが良いのだ。
そういった理由で、シーカー協会からの依頼は実績になる。四級シーカーにとっては三級に昇級するための実績だ。受けないと言われたら、他の四級に依頼を出すだけなので、すぐに調査隊のメンバーは決まった。
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僕はローカル線に乗っている。いつもは各駅停車に乗ってシーカー協会の最寄り駅で降りるけど、今回は快速に乗っている。
岐阜で別の路線に乗り換えて少し。目的の駅で降りた。ここは僕の故郷。
駅前に停まっていたタクシーで、実家へ向かう。シーカーになってから一度も帰省していないから、久しぶりの実家だ。
極貧の暮らしをしていた時は、なんとなく顔を出しにくかった。でも、今年は胸を張って帰ることができる。五級シーカーに昇級できて、自信が持てるようになったのが大きいと思う。
昔ながらの古い家。昔は武士だった各務家なので、武家屋敷の名残の門がある。立派な門だけど、古すぎて修繕が必要だと思うのは僕だけじゃないと思う。その門の前にタクシーを停めてもらい、運賃を払って降りた。
「久しぶりだけど、何も変わってない」
三年ぶりくらい。その程度の年月で大幅に変わることはないと思うけど、なんというか感慨深い。
「リオンか」
名前を呼ばれて振り向くと、お爺ちゃんが立っていた。薄くなった白髪と深いシワが目立つお爺ちゃん。
「お爺ちゃん、ただいま」
「ちょっと見ないうちに、逞しくなったな」
「まあ、シーカーだからね」
「ボーッと突っ立っていないで、家に入れ」
「うん」
お爺ちゃんは趣味のグランドゴルフの帰りのようだ。こんな寒いのに、よくやるよ。まあ、元気な証拠だから、いいことかもしれないね。
門を入るとガレージがある。これは近代的なガレージで、大小のトラクターが三台と色々な農機具が置いてある。
家は母屋と離れがあって、母屋は昔ながらの古い家で何度かリフォームされている。離れは僕が小さい時に父さんが建てた家で、近代的な外観だ。
母屋には祖父母が住み、離れには両親と妹が住んでいる。
「帰ったぞ。婆さん、リオンが帰って来たぞ」
「お婆ちゃん、ただいまー」
母屋の裏口から入っていく。裏口と言っても立派な玄関扉がある。本来の玄関を使うことは滅多にない。それこそお客さん用の入り口だ。
こういった裏口や勝手口をメインに使う家は、この辺りには多い。だから、近所の人が遊びに来ても、勝手口から入って来る。
「リオンーッ」
お婆ちゃんがリビングから飛び出してきた。両親が共働きなので、僕と妹はお婆ちゃんに育てられた。僕も妹もお婆ちゃん子だし、お婆ちゃんも親身に面倒を見てくれた。
「お婆ちゃん、久しぶり。元気だった?」
「リオンの顔を見れば、どんな病気も吹っ飛ぶよ。ほら、お入り。炬燵で温まりな」
お婆ちゃんに手を引かれてリビングへ。掘り炬燵に足を入れて温まると、ミカンの入った籠が出て来た。
「お食べ。三ケ日の甘い奴だよ」
産地に知り合いが居て、そこから直接買っているので甘いミカンばかりだとお婆ちゃんはいつも自慢していた。懐かしいそのミカンを剥いて食べると、やっぱり甘い。これを食べると、もう年の瀬なんだと実感する。
「美味しいよ、お婆ちゃん」
「そうかい、そりゃぁ良かった」
お婆ちゃんは白髪を茶色に染めて、エステに行ったり化粧品に気を使っているためか、年齢よりも若く見える。
背が低くちょこちょこ動く、とても可愛らしいお婆ちゃんだ。
「いつまで居られるんだい? ゆっくりしていけるんだろ?」
「うーん、五日くらいには帰ろうと思っているよ」
「もう少し居てもいいじゃないか」
「あまり休むと、体が鈍っちゃうからさ」
「そうかい……」
寂しそうな目をするお婆ちゃんを見ると、気が咎める。
これからは小まめに帰ってくるようにしようと思った。
「そうだ、今日はすき焼きにしようかね。買い物に行ってくるよ」
「それなら、僕も一緒に行くよ」
お婆ちゃんと一緒に近くのスーパーへ向かった。年末ということで、肉や総菜の値段はいつもより高かった。
あと、僕がカニが好きなのを覚えていてくれ、明日の大晦日はカニ鍋をすると言って買ってくれた。
家に帰ると、妹が帰っていた。ちょっと見ないうちに、髪の色が茶色になっていた妹は大学生で、岐阜の大学に通っている。もう大学は休みに入っているけど、今日は友達と遊びに行っていたらしい。
「お兄ちゃん、久しぶりね。彼女の一人くらいできた?」
「久しぶりに会った兄に向かって、何を聞くんだよ」
「お母さんが言っていたよ。リオンは奥手だから、結婚できるか不安だって」
ぐぅ……。母娘で何を話してるんだよ。
「お婆ちゃんも早くリオンのお嫁さんに会いたいよ。お迎えが来る前に曾孫の顔を見たいから、早く結婚してちょうだい」
「お婆ちゃんまで……」
これで母さんが帰ってきたら、大変だ。そして、その時はやってきた。
「リオンちゃん!」
いきなり抱きつかれてしまった。まったく困ったものだ。
女三人寄れば姦しいと言うが、各務家はそれが強い。お爺ちゃんと父さんは三人に何も言わない。言えないと言ったほうが、正しいかな。僕もそうなんだけどね。
とにかく、うちの女性三人が集まると、男性陣は影が薄くなる。
「で、本当に彼女はいないのかな、リオンちゃん」
「母さん。僕ももう二五なんだから、ちゃんづけは止めてよ」
「はいはい。で、どうなの?」
どうなのと聞かれても、答えは今も昔も変わらない。甘じょっぱく味がついた肉を口に放り込んで、誤魔化すことにした。
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