第19話

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 019_祭りの後

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 サハギン砦攻略レイド戦が終わった。大きな怪我をした人は居ないようなので良かった。

 シーカー協会の大きな会議室に入った参加者たちは、これから成果を報告することになる。得たものが魔石だけだと報告は不要だけど、ある意味お祭りのようなものなのでシーカーが得たアイテムは全て公表されることが原則なんだ。


「アイテムを手に入れた奴は、前に出て来てくれ」


 河村さんがそう言うと、複数のシーカーが前に進み出る。僕もその一人だ。


「お、ソロの君もお宝をゲットしたんだな」

「ええ、運が良かったようです」


 ニカッと笑った河村さんは、良かったなと背中を叩いてきた。乱暴な叩き方だけど、素直に祝ってくれているのが分かった。


 いきなり皆の前でアイテムを出すのではなく、会議室の一角にパーテーションで隔離された場所でシーカー協会の人が鑑定してから公開される。

 最初は五人パーティーが得たアイテムを鑑定するため、パーテーションの中に入っていった。大水支部長も入っていく。

 しばらくして出て来た五人の一人が持ったアイテムは、サハギンの槍に似ている二又の槍だった。


「俺たちは、銅の宝箱からサハギンランスを得た。効果は水球を射出できるというものだ」


 それが最低でも五〇〇万円の価値があると続けると、大きな歓声が起きた。

 水球を射出するということは、サハギンリーダーが持っていた槍なんだろう。極稀に魔物が持っている武器や防具も発見されるんだ。


 次は三人パーティーがパーテーションの中に入って行った。

 出て来た三人はかなり嬉しそうだ。それだけ良いアイテムだったんだと僕も期待してしまう。見せてくれたのは、貝がついたイヤリングだった。


「俺たちが銀の宝箱から得たのは、俊敏上昇の効果があるイヤリングだ」


 効果がそれなりに高いため、彼らは売らずに自分で使うらしい。僕の持っている俊敏上昇のブーツよりも効果が高いらしいので羨ましい限りだ。


 次のパーティーは銀の宝箱から水流の剣を得たと言った。水圧で切れ味が上昇するし、火属性の魔物に効果絶大らしい。この水流の剣も彼らが使うらしい。


 最後に僕がパーテーションの中に入った。中には男性が一人と女性が三人、そこに大水支部長が加わって五人体制で鑑定するみたい。


「やっぱりカカミ君もアイテムを得たんだな」


 大水支部長が柔和な笑みを浮かべた。


「隠し通路を発見したので」

「ほう、サハギン砦に隠し通路があったのか。君の隠し通路発見件数は、これで四件目か。凄いものだな」


 その隠し通路の場所を聞かれたので、地図で場所を示した。大水支部長は地下かと唸った。

 隠し通路の話が終わったので、鉄の宝箱から得た一キロの金塊、銅の宝箱から得た革袋、銀の宝箱から得た鎧、金の宝箱から得た王冠、そしてヘビの魔物からドロップしたネックレスを出した。

 その五つのアイテム出すと、五人が息をのんだ。


「宝箱が五つもあったのか?」

「いえ、宝箱は四つです。そのネックレスはヘビの魔物からドロップしたものです」


 ヘビの魔物と聞いた大水支部長が、話を詳しく聞かせろと言うので隠さずに教えた。


「それはグレートサーペントではないか? 魔石は回収したかね」


 魔石を出すと、四〇代の女性がそれを鑑定した。どうやら、この人が鑑定士のようだ。


「間違いありません。グレートサーペントの魔石です。しかも、中四級です」

「何、中四級だと? グレートサーペントは中五級だったと思うが?」


 どうやらヘビはグレートサーペントで確定らしい。魔石の品質からかなり育ったグレートサーペントだというのが分かった。


「よく生きていたな。カカミ君」

「運だけは良いみたいです」


 グレートサーペントの魔石は中四級で、しかも珍しい紫色の魔石だったので換金額は五〇〇万円らしい。


「七級シーカーが、しかもソロでグレートサーペントを倒すなど前代未聞だぞ。カカミ君はハグレのトロルも倒しているし、実績は抜群だ」


 大水支部長は僕を褒め殺しにした。褒められて嫌な気分にはならないので、もっと褒めていいよ。


「だが、君はソロだから、しっかりと安全マージンを取って探索してくれよ」


 最後に釘を刺すところは、支部長になる人物なだけはあるね。


「では、アイテムの鑑定をしようか」


 鑑定士のオバ……お姉さんが順にアイテムを鑑定していく。金塊を鑑定してスラスラとペンを動かす。

 革袋を鑑定してスラスラ。鎧を鑑定して……あれ、ペンが止まっているよ?

 大水支部長が声をかけると、鑑定士はペンを走らせてそれを見せた。それを読んだ大水支部長が「ほう」と声を出す。


「とりあえず、鑑定を進めてくれ」


 そう促されて王冠を鑑定した鑑定士だったけど、またペンが動かない。眉間にかなりシワが寄っているのを見ると、呪われたアイテムなんだろうか? 金の宝箱から出たので、かなり期待していたんだけどな。

 気を取り直した鑑定士がペンを走らせ、最後にグレートサーペントからドロップしたネックレスを鑑定した。


 鑑定結果を見て、大水支部長の眉間にもシワが寄った。「ふーーー」と大きく息を吐いた大水支部長がその紙をコピーするように指示すると、三〇代の女性職員がコピー機でコピーした。


「なんと言っていいか……俺が知っている限り、こんなアイテムは見たことがない」


 女性職員から鑑定結果を受け取った僕も内容を確認する。


 鉄の宝箱から得た一キロの金塊は、純度が悪いため三五〇万円の価値しかない。


 銅の宝箱から得た革袋は収納袋で、一メートル×一メートル×一メートルで容量が小さいので、売っても二〇〇万円くらいにしかならないらしい。


 銀の宝箱から得た鎧は防具としては大した性能はないけど、装備するとサハギンのように水中でも活動できるサハギンメイルというアイテムだった。

 これは使い方次第でいいアイテムだと思う。


 金の宝箱から得た王冠はサハギン王の王冠というアイテムで、使用者・・・よりも弱いサハギンを使役できるというものだった。これは消費型なので使ったら特殊能力を覚えて、アイテムはなくなってしまうらしい。


 グレートサーペントからドロップしたネックレスは耐毒のネックレスで、その名の通り毒を防ぐものらしい。しかも、効果がそれなりに高いので、オークションに出せば数千万から一億越えもあり得るそうだ。


「サハギンメイルの効果と同じような効果のアイテムはある。だが、サハギン王の王冠は初めて聞くものだ。サハギン限定とは言え、魔物を使役するなど初めてのアイテムだ。しかも、これは特殊能力を我々人間に与えるアイテムだ。レヴォリューターだけでなく、普通の人間でも欲しがると思うぞ」


 大水支部長はかなり興奮している。なんだか大事になってしまった。多分、パーテーションの外に居るシーカーたちにもその声は聞こえていると思う。

 なにはともあれ、僕はシーカーたちに五つのアイテムを得たことを報告した。その内容も包み隠さずに教えた。


「隠し通路があるなんて、思ってもいなかったな。次のレイド戦ではその地下への競争になるかもしれないな」

「そのことだが、地下の奥にはグレートサーペントが居た。本来グレートサーペントは七級シーカーでは倒せない。しかも、扉を開けたら部屋から出て来たとカカミ君は言っているため、下手をすれば地下から出てくる可能性もある。よって、次のレイド戦は協会から人を出すつもりだ。そこで地下にグレートサーペントが再ポップするのかどうかを確認する。これは確定事項だ」

「支部長は俺たちの楽しみを奪うのか?」


 河村さんが苦い顔をして、大水支部長に食ってかかった。


「協会側が用意した者には、サハギンと宝箱に手を出さないように徹底させる。ただし、地下の最奥の部屋はその者の確認がない限り、扉を開けることは禁止だ。宝箱があったのはその手前の部屋だから、問題ないだろ?」


 大水支部長がそう言うと、河村さんも仕方ないかと納得したようだ。

 この後、大量のサハギンの魔石を換金して、僕たちは解散した。


 今回の結果はシーカー協会の掲示板で、情報が公開された。

 いつも結果を掲示していたが、地下が発見されたということと、どういうアイテムが発見されたとか、それらのアイテムを誰が発見したとか、最後にグレートサーペントが確認されたため、地下はかなり危険だという内容が載っていた。


 それを読んだシーカーたちは、かなり湧いた。しかも、僕が珍しいアイテムを得たということも載っているので、しばらくは知らないシーカーからも声がかけられた。


「今回のことでリオンさんの名声が上がりましたね」

「名声って、僕はただのシーカーだから、名声なんてないよ」


 翌日、僕はミドリさんたちと食事をしたんだけど、三人ともかなり興奮していた。


「私たちも早く七級に昇級して、レイド戦に参加したいわ」


 アズサさんが決意表明すると、ミドリさんとアサミさんが頷いて三人が拳を合わせた。

 あれ、三人が僕を見ているんだけど……僕も拳を出したほうがいいの? 僕も拳を合わせると、三人は「おーーーっ」と拳を突き上げた。慌ててぼくも「おーーー」と拳を上げた。


 

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