第18話

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 018_サハギン砦攻略レイド戦

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 サハギン砦攻略レイド戦の日になった。砦の前に七級シーカーたちが集合し、レイド戦を見学するシーカーたちがそれを取り巻く。


「おい、クズ。なんでお前がここにいるんだ」


 いきなり肩を掴まれたと思ったら、そこにはあの三人組が居た。


「そうだぞ。見学するにしても、一〇級じゃあこのダンジョンに入れないだろ」

「さっさと帰れ、邪魔だ」


 そういえば、三人は七級昇級試験を受けると言っていたと思うけど、今回のレイド戦に参加するのかな?


「君たちはレイド戦に参加するの?」


 そう聞いたら、三人は凄い剣幕で喚き散らした。言葉にならないような言葉をなんとか拾っていくと、試験官が悪いとか、調子が悪かったと言っているので、不合格になったようだ。


「あなたたち、リオンさんは七級シーカーで、これからレイド戦に参加するんだから、邪魔したらダメよ」


 そう言ったのは、ミドリさんだった。いつの間にか野次馬が集まっていたようだ。

 三人は僕が七級だと聞いて、腹を抱えて笑い出した。


「バカ言ってんじゃねぇよ。こいつは万年一〇級の落ちこぼれ。役立たずのリオンだぜっ」

「こいつが七級なら、俺らは一級だぜ! アハハハ」


 ミドリさんたちが首を振って呆れている。

 本当はもっと上の級になってからと教えてやろうと思っていたけど、今日は時間がないからもういいか。


「これ、僕の身分証。ここに七級ってあるよ。君たちは僕より先に九級、八級に上がったようだけど、七級には僕が先になってしまったようだね」


 僕はとーーーっても柔和な笑みを浮かべながらそう言った。


「はんっ。てめぇが七級だと!?」

「バカ言うんじゃねぇよっ」

「万年一〇級が、粋がってんじゃねぇよ!」


 シーカーの身分証を見せても理解できないようだ。ショックを受けるんじゃなくて現実逃避しているみたい。


「はぁ……。君たちは頭や性格だけではなく、目も悪いようだね」


 僕がそう言うと、周囲の野次馬シーカーたちから失笑が零れた。

 バカにされたのが気に入らなかった三人は、僕に殴りかかってきた。

 僕は二人の攻撃を躱して、リーダー格の男の手を掴んで捻り上げた。


「ぎゃっ」

「僕はこれからレイド戦に参加するから忙しいんだ。悪いけど、君たちと遊んでいる暇はないから」


 痛がる男の腕をさらに捻じると、悲鳴があがる。本当はこのまま腕を折ってやりたい。僕にはそれをする正当な理由がある。でも、それをしては、彼らと同じ腐った人間になってしまう気がした。だから、折れる寸前で離してやった。


「今後は僕に話しかけないでくれ。君たちと同類だと思われたくないからね」

「「「て、てめぇ!」」」

「そこまでだ!」


 三人が往生際悪く剣を抜きそうになったところで、誰かが止めた。その声の主は、シーカー協会の大水支部長だった。


「お前たち、ここで剣を抜けば引き返せないぞ。分かってやっているんだろうな」

「「「ぐっ」」」

「カカミ君もガキどもを煽るな。大人になれ」

「すみません」


 言われて大人げなかったと反省する。


「それから、お前たち。カカミ君は七級だ。それは支部長であるこの大水が保証する。それとも、俺の言葉が信じられないか?」

「うっ……いいえ……」


 大水支部長の圧に気圧され、三人はすごすごと立ち去った。


「もう時間だ。あっちに行って、スタートを待たなくていいのか?」


 僕は支部長にお礼を言って、ミドリさんたちにも礼を言ってからレイド戦に参加する七級シーカーたちのところに向かった。

 レイド戦に参加するシーカーは、九パーティーとソロが僕を含めて三人、総勢五一人。僕もそのシーカーの中に混ざった。


 以前、ドリル弾でサハギン砦の壁を破壊したけど、その破壊の痕は見られない。ダンジョンの中の壁や建物などのオブジェは破壊しても数時間で修復されることが多い。サハギン砦もその例に漏れずに修復されたようだ。


 このレイド戦の発起人である河村さんが、皆の前に出て来た。


「これからサハギン砦の攻略レイド戦を行う! 準備はいいか!?」

「「「おおおっ!」」」


 河村さんはサハギン砦攻略レイドの発起人として、毎回名前が挙がる四〇前後の人物だ。このレイド戦がしたくて、六級の昇級試験を受けないとまで言われている変人である。


「三時間経過するか、かなり危険な状況があったら花火を打ち上げる。それが撤退の合図だ。この花火は砦の中に居ても音が伝わる特注の花火だから、安心してくれ」


 わざわざこのレイド戦のために作られたものではなく、多くのレイド戦で合図に使われる花火だ。


「逃げ遅れた奴はサハギンに囲まれて命を落とすことになる。どんなに好調でも撤退の判断を見誤るなよ」


 他のシーカーが撤退したら、周囲はサハギンしか居なくなる。それはとても危険なことだ。


「お宝は手に入れた奴のものだ。気合入れて、探索してくれ」


 河村さんは多くを語らず、ただ楽しもうと締めくくった。


「レディィィィィィィッゴォォォッ!」

「「「うおぉぉぉっ」」」


 その合図でシーカーたちは駆け出した。その熱気に気圧された僕は出遅れてしまい、最後尾からシーカーについていくことになってしまった。

 でも、初めてのレイド戦だから、気合を入れて探索するぞ!


 砦にシーカーたちが近づいていくと、サハギンがわらわらと出て来た。

 せっかくの砦なのに籠城しないんだ。魔物らしいと言えば、らしいと思ってしまった。


 先頭を走っていたシーカーが、サハギンに飛び蹴りを放った。それが合図になって乱戦に突入。

 戦術とかまったくない力と力のぶつかり合い。熱い戦いが繰り広げられている。そんな門の前を離れた僕は、やや離れた壁の前に立った。


 空間を操る時、出した空間を動かすのは多くのリソースを使うけど、動かさないのであればリソースはそんなに使わない。

 僕は階段状にした空間を作って、その上を歩いて砦の壁の上に立った。およそ五メートルくらいの高さの壁の向こう側には、サハギンが犇めき合っていて僕の気配を感じたのか見上げて殺意を向けて来た。


 僕は『結晶』を発動して、数十というサハギンの命を結晶に変えていく。

 一方的に攻撃できる状況を作れば、僕はかなり強い。

 次から次に倒れていくサハギンだが、黙って見ているわけではない。サハギンたちは二又の槍を投擲して、僕は集中砲火を浴びることになる。

 だけど、空間の壁が護ってくれるので、その二又の槍は僕に届かない。そのうちにサハギンを全部倒すことができた。


 魔石を拾うのが大変だったけど、七五体分の魔石が手に入った。そのまま砦の中に入っていくけど、砦の中にも多くのサハギンの反応があって気が抜けない。


 僕が砦の中に入った頃、門からシーカーたちが雪崩れ込んできた。さすがは七級シーカーなだけあって、あの程度のサハギンはすぐに一掃したようだ。僕も負けていられない。


 できるだけサハギンの居る場所は避けていく。戦ったら魔石を拾いたくなるけど、魔石を拾うのもかなり面倒なので戦わずに進んだ。

 どうしても戦わないと進めない場合は別だけど、できるだけコソコソと砦の中を探索。泥棒になった気分。


「あった」


 砦の中の袋小路に出てしまったけど、床に力場がある。この砦に入ってすぐに分かったことだけど、砦には地下があった。

 シーカー協会の資料では、この砦は地上二階層だけのはず。つまり、地下は隠し通路の可能性が高いと思って、力場を探していたんだ。そういうものを見分けてくれる『魔眼』は、本当に役に立つ特殊能力だね。


『結晶』で力場を奪うと、床がなくなって階段が現れた。地下にも多くのサハギン―――いや、サハギンリーダーが居た。

 サハギンリーダーはサハギンの上位種。だけど、オークよりは弱いから問題ない。ただし―――。


「おっと!」


 僕を見たサハギンリーダーたちは、二又の槍をこちらに向けて水の球を放ってきた。これがサハギンリーダーの攻撃。僕は慌てることなく、空間の壁で防御した。

 砦の二階層にもサハギンリーダーがたくさん居るけど、地下にもうようよ居る。厄介極まりないけど、空間の壁で自分を護りつつサハギンリーダーを結晶に変えていく。


 かなりの数のサハギンリーダーを倒した。魔石や結晶の数を確認するのも億劫になるほどだ。

 そんな僕の前には四つの宝箱が鎮座している。鉄、銅、銀、金が一つずつ。

 罠がありそうな銅の宝箱から開けると、大量の水が放出された。後方に居た僕は無事だった。


 銅の宝箱の中には革袋が入っていた。また収納袋かなと思ったけど、『魔眼』で見た力場が僕が持っている収納袋とは違う。シーカー協会で鑑定してもらえば分かることだと、収納した。


 鉄の宝箱には一キロくらいの金塊が入っていた。これは鑑定するまでもないだろう。


 銀の宝箱を開けると、鎧が入っていた。鎧は金属を基調として、サハギンの皮のような爬虫類の皮が使われている感じのものだ。これも鑑定行き。


 最後に金の宝箱を開ける。予想通り罠はなく、中には王冠があった。この王冠にどんな効果のあるのか、鑑定するのが楽しみだ。なんといっても金の宝箱だからね。


「さて、あの扉の奥には……」


 興奮冷めやらないが、あからさまに怪しい扉がある。その奥には、かなり強い力を持った何かが居るのが分かる。


「鬼が出るか蛇が出るか」


 僕はその扉を開けた。

 それはサハギンではなかった。


「本当にヘビが出ちゃったよ……」


 胴体の太さが五〇センチはあるかなり巨大なヘビだ。まさかバジリスクじゃないよね! 思わず目を閉じて石化眼を警戒した。バジリスクの目を見ると、石になるんだ。


 目を閉じても『魔眼』を発動すれば、いつものように『魔眼』の世界が広がる。多少フィルターがかかっているように見えるけど、それほど大きな問題はない。


 扉を閉めようと思ったら、その蛇がうねうねと動いて襲いかかってきた。うねうねなのに、かなり速い!?

 扉を閉める前に飛びかかられてしまったので、慌てて空間の壁で防御した。


「うわぁ……」


 ヘビの魔物は四方に張った空間の壁に巻き付いて、締め上げてくる。

 ヤバ―――くない? これはチャンスだよね?


 ヘビの外側にも空間の壁を作ってヘビを閉じ込めたら、『結晶』を発動した。抵抗が激しいけどヘビは閉じ込めてあるので、じっくり時間をかけて『結晶』で生命力を削っていけばいい。

 幸いなことに空間の壁はかなり堅牢なので、ヘビが締め付けてきてもびくともしない。


 口から液体を吐き出した。空間の壁はなんともないけど、床に落ちるとジュッと音を立てて煙が立ち上った。


「毒? 勘弁してよ」


 空間は毒に侵されないから問題ないけど、かなり危険そうなヘビだ。

 根競べをすること一〇分……二〇分……三〇分が経過した辺りで、ヘビの生命力が残りわずかになった。

 そしてその時はやってきた。ヘビがぐったりと床に横たわって消えた。手の中にある結晶はかなりの生命力を感じる。


「よっこいしょっと」


 空間の壁を解除して落ちている魔石を拾い上げる。大きさは中サイズだけど、等級は不明。シーカー協会で鑑定してもらえば分かるだろう。


「しかし、紫色の魔石なんて、珍しいな」


 さらに、床の上にネックレスが落ちていた。ドロップアイテムのようだ。細いゴールドのチェーンに、紫色の宝石が一つつけられたものだ。これも鑑定行き。

 魔石とネックレスを収納したところに、シーカーパーティーがやってきた。


「くそっ、先客が居たか」


 男性ばかり五人のシーカーのパーティーで、五人とも僕とそれほど変わらない年齢だと思う。


「なあ、そっちの部屋は何があったんだ?」

「ヘビの魔物が居ましたよ」

「サハギン砦にヘビの魔物か……強かったか?」

「サハギンリーダーが子供に思えるくらいに、強かったですね」


 三〇分も『結晶』に耐えたんだから、かなり格上の魔物だと思う。ただ、バジリスクかどうかは分からない。

 彼らは二階層を回ってから一階層に下りてきて、ちょっと休憩するために袋小路へ移動したら地下への階段を見つけたと言っている。今回で二回目の参加になるが、あの袋小路に地下への階段が隠されているとは思っていなかったようだ。


「あんた、隠し通路を見つけるなんて、運がいいな」


 これは運ではなく実力なんだと、僕は思っている。僕は微笑んで返事にした。

 そこで花火が打ち上げられたようで、大きな音が鳴り響いた。僕たちは地上へと帰っていくのだった。


 

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