第26話

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 026_オークション

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 アオイさんに勧められて、防具を新調することにした。以前倒したハグレのトロルからドロップした皮もあるけど、もっと良い防具を買おうということになったんだ。

 トロル以上になるとC級ダンジョンでも使えるくらいの防具になる。


 C級ダンジョンに入るには、四級シーカーにならなければいけない。

 シーカーにとって、五級に昇級することは目標の一つ。『SFF』が基準値に達していても、それなりの実績がないと五級には昇級できないのだ。その五級よりもさらに上の四級にならないと入れないC級ダンジョンから得られる防具、または素材から作った防具はとても高額になる。


 素材を集めるのは無理だから、防具を買うか素材を買って防具を作るかの二択になる。

 そういったものはオークションに出品されるので、出品されているアイテムをチェックしていく。便利なもので、ネットでそういた情報は全部閲覧できる。


「リオンさん。これなんかどうですか?」


 ミドリさんがノートPCの画面を僕のほうに向けて見せてくれた。アオイさんが僕のマンションに来る時は、いつもミドリさんも一緒に来る。しかも、今日はアサミさんとアズサさんも一緒なので、四人の美形女子たちに囲まれてハーレムっぽい。

 僕も男なので女の子に囲まれるのは、悪い気はしない。でも、アオイさん一人で僕のマンションに来させるのは、危険だと思われているのかな? もしそうなら、ちょっと凹む。


 ミドリさんが見せてくれたのは、聖銀製の鎧。お値段、なんと、一億六〇〇〇万円から。この値段は開始値なので、もっと上昇することだろう。


「防御力は申し分ありませんし、死霊系の魔物の攻撃はほぼ無効になります」

「僕にはちょっと良すぎるんじゃないかな」


 僕がそう言うと、ミドリさんがしょんぼりした。そんなに落ちこまなくても……。

 一応、予算は一億五〇〇〇万円なので、開始値が一億六〇〇〇万円の時点で除外。


「だったらこれはどうかな?」


 アズサさんが見せてくれたのは、ブラックオーガの革鎧。お値段は六〇〇〇万円始まり。落札予想価格は一億円前後。

 オーガは鬼系の魔物。色によって強さが変わり、ブラックオーガはトロルより強い。D級ダンジョンの深いエリアか、C級ダンジョンの浅いエリアに出てくるような魔物。


「特殊な効果はないけど、防御力は高いよ」

「これなら値段も手ごろだし、いい感じだね」


 先程の聖銀の鎧は明らかに予算オーバーだったけど、今度は予算内に収まりそう。

 ブラックオーガの革鎧は、今のところ第一候補でいいかな。


「これ」


 アサミさんが言葉少なく画面を見せてくれた。

 ファイアボアの革鎧。ファイアボアはブラックオーガと同様に、D級ダンジョンでも深いエリアに出てくるような魔物だ。

 防御力はトロルの革鎧くらいだけど、特殊効果として火と熱に強い。開始値は八〇〇〇万円と、ブラックオーガの革鎧よりは高いが、三セット出品されているので、上手くすればブラックオーガの革鎧より安いかもしれない。


「火属性のエリアは多い」


 たしかに、枇杷島ダンジョンの第六エリアのような火山帯エリアは多い。火属性と水属性の対策は、これから必須になってくるのでファイアボアの革鎧も候補としてはいい。


 色々見たけど、候補はブラックオーガの革鎧とファイアボアの革鎧の二つになった。

 アオイさんは金額が折り合えば、両方を落札してもいいと言っている。まあ、無理だと思うけど。


「明日のオークションは、午後三時からだから、二時四〇分に清州支部の前で待ち合わせでいいですね」


 オークションに参加するには、二つの方法がある。

 企業や団体、個人資産家などが事前に審査を受けて許可を得て参加する方法が一つ。この場合、オークション会場で参加してもいいし、自宅や会社から参加してもいい。


 二つ目は臨時に参加が認められた場合で、シーカー協会に現金を預けて、その金額を上限にして落札する方法。この場合、オークションに参加できる端末がシーカー協会の支部にあるので、それを使うことになる。僕はこの方法でオークションに参加するので、シーカー協会の清州支部でオークションに参加することになる。


 シーカー協会の支部でオークションに参加する場合、端末が置いてある部屋に入れるのは二人まで。

 明日は僕とアオイさんで、その部屋に入る予定。


 翌日、僕は朝一で道場で稽古した。師範も誰も居ない道場で、構えを一時間。その後、抜刀を繰り返す。

 稽古が終わると掃除をして鍵をして、近くのファーストフード店で昼食を軽く摂ってシーカー協会へ向かう。

 僕がシーカー協会に到着すると、アオイさんがすでに来ていた。ミドリさんも一緒だ。


「待たせてしまったね」

「いえ、私たちも今来たところですから」

「お姉ちゃんまでついてこなくて良かったのに」

「あんただけだと不安でしょ」

「そんなこと言っても、入れるのはリオンさんと私だけだからね」


 アオイさんはそう言うと、僕の手を掴んでシーカー協会の中に入っていった。その手はとても柔らかく、小さかった。

 ミドリさんが慌てて僕たちの後についてくる。アオイさんに話しかけるけど、アオイさんは無視して部屋に入っていく。


「もう、お姉ちゃんたら。いつまでたっても私を子供扱いするんだから」


 職員の案内で席に座る。端末と言ってもノートPCが机の上に置いてあって、パーテーションで仕切られているだけ。

 もう一つモニターがあって、それにオークション会場の映像が映っている。


 オークションが始まった。オークションは開始値が低い順に行われるので、ブラックオーガの革鎧の競りが先に始まった。値段が上っていき、九〇〇〇万円になったところで動きが悪くなった。

 そこで僕は九一〇〇万円を入力。するとすぐに九二〇〇万円に上った。僕は一〇〇万円単位で上げていったけど、相手も同じように上げていき、一億一〇〇〇万円を超えた。


「リオンさん。今回は諦めましょう」

「そうだね」


 過去のブラックオーガの革鎧の落札価格は九〇〇〇万から一億円の範囲が多い。相手はどうしてもブラックオーガの革鎧が欲しいようで、諦めそうにない。

 予算は一億五〇〇〇万円だけど、あくまでも適正価格で買うことが前提。これまでの落札価格の最高価格が一億一〇〇〇万円なので、これ以上は適正価格ではないと判断した。

 他に欲しいものがなければ予算一杯まで競っても良いが、まだファイアボアの革鎧もあるのだから、無駄にお金を使うのは止めるべきだというのが、アオイさんの判断。ここで予算を使い切らなくても、他で使えばいいのだから。


 気持ちを切り替えてファイアボアの革鎧を狙うことに。二つ目を一億円で落札。

 ファイアボアの革鎧は二日後に引き渡ししてもらえる。


 ロビーで待っていてくれたミドリさんと合流して、ファイアボアの革鎧を落札したことを告げる。


「おめでとうございます」

「ありがとう」


 三人でシーカー協会を出て、打ち上げをしようということになった。

 今日は僕の奢り。二人にどんなところに行きたいかと聞く。


「中華がいいです」

「鉄板焼きがいいです」


 ミドリさんが中華、アオイさんが鉄板焼き。さて、どっちにするか。


「お姉ちゃんはおまけなんだから、今日は鉄板焼きね」

「おまけって何よ」

「私一人でいいのに、お姉ちゃんは勝手についてきただけじゃない」

「うっ……。あんたが頼りないから、心配だったのよ」

「私は子供じゃないんだから、そういうの止めてよね」


 協会を出た通りで二人の言い合いを待っていると、会いたくない人たちに出会った。

 僕が命名した「三バカA・B・C」。僕にトレインを擦りつけた三人。

 目を合わせるとサルのように絡んできそうなので無視だ、無視。


「おいおい、万年一〇級が居るぜ」

「女なんて連れて、いい身分だな」

「万年一〇級には勿体ない美人じゃないか」


 何かキーキー言っているけど、無視。


「今回は鉄板焼きなんだからね」

「分かったわよ。でも、次は中華よ」

「OK~」


 どうやら二人の話し合いがまとまったようだ。


「リオンさん、お勧めの鉄板焼きのお店があるの。行きましょ」


 アオイさんが腕を組んでくる。胸が当たっているんですけど……。


「ちょっと待ちなさいよ」


 ミドリさんも反対側の腕を組んできた。こちらも当たってます。

 そういえば、何かあったような……。まあ、いいか。


 美人姉妹に囲まれて、僕、幸せ。


 

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