第63話 面倒な人
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063_面倒な人
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ミドリさんたちは、六級昇級試験に合格して六級シーカーになった。
僕も四級昇級試験を申請し、大水支部長と面談した。
「聞いたぞ。オークションのこと」
「なんか、運が良かったみたいで」
「シーカーに運は必要だ。カカミ君はその運を持っているということだな。しかし、ボズガルドか。C級ダンジョンから出るとか、耳を疑ったよ」
「僕も信じられなかったですね」
オークションのことから伊豆ダンジョンのことを話して、本題の四級昇級試験の話題になった。
「早いな、もう『SFF』が五〇〇〇ポイントを超えたのか」
棘角象牙の指輪のおかげで『SFF』が多く入手できるようになった。
それに生命結晶でも『SFF』を増やせる。この時にも『SFF』の吸収量が増えているのがテキストで分かった。
魔物が強くなるとそれだけ生命結晶から得られる『SFF』も増えるから、今回の伊豆ダンジョンの魔物の生命結晶は美味しかった。
「って、おいおい、『SFF』が八二〇〇ポイントって、どんだけだよ……すぐに三級の昇級申請もありそうだな。ははは」
吸収用の結晶を全部吸収した後に確認した時、僕も驚いた。まさかここまで伸びるとは思ってもいなかったんだよ。
「まあ、いい。カカミ君の功績は十分だ。『SFF』も問題ない。四級の昇級試験が受けられるように、推薦しよう」
「ありがとうございます」
「あぁ、そうだ。あのスマートメタルのことも聞いたぞ。次は奥多摩だってな」
「はい。量産仕様の確認があるそうです」
「スマートメタルが大量投入されたら、シーカーの働き場も変わるのかな……」
大水支部長はちょっと寂しそうな顔で呟いた。
多分だけど、シーカーはなくならないですよ。スマートメタルではシーカーのように成長しませんから。
「スマートメタルがボスを倒したら、パイロットに天の声が聞こえるのでしょうか?」
「分からないな。これからそういったことも検証されると思う」
自衛隊が本腰を入れたら、民間よりはボス狩りしやすいだろうね。あの組織力でボスを狩られたら、洒落にならないよね。
「ボス部屋が占領されそうですね」
「そうでもないと思うぞ」
「どうしてですか?」
「自衛隊は四つのダンジョンを管理しているんだ。シーカー協会の関知できないダンジョンをな」
「そうなんですか? 初めて聞きました」
「一般的には公表されてないからな」
「そんなことを僕に教えて大丈夫なんですか?」
「これは公表されてないだけで、極秘というわけではない情報だ。誰が聞いても構わないものだ」
「自衛隊が管理しているのは、どんなダンジョンなんですか?」
「B・C・E・F級のダンジョンだ」
「でも、レヴォリューターじゃなければB級ダンジョンで活躍できませんよ。下手をすれば百鬼夜行が発生しますよ」
「自衛隊にだってレヴォリューターは居るぞ。しかも、強力な奴らがな」
「そんなに強力なんですか?」
「なにせ国がバックについているんだ。訓練施設だって規格外だし、バックアップ体制も羨ましいくらいだ。その分プレッシャーもあるようだがな」
さすがは自衛隊だ。一般のシーカーももっとバックアップすればいいのに。一般のシーカーが良い環境で育てば、日本は強国の仲間入りできるんじゃないかな。
強国にならなくても、百鬼夜行を発生させないための力になると思う。
もしスマートメタルでボスを倒して天の声が聞こえたら、パイロットがレヴォリューターになれる。自衛隊は大幅にレヴォリューターを増員できる可能性があるわけか。
スマートメタルはそれを可能にする可能性があるから、気合を入れて配備しようとしているんだね。
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奥多摩ダンジョンでの実戦試験を前に、僕は前乗りしてシーカー協会の本部で五級昇級試験の時にもお会いした綾瀬さんと面談。気の良いおばちゃんという感じの綾瀬さんは、本部の人事部長様。
「こんなに早くまた会うとは思ってもいませんでしたよ」
「僕もです」
ちょっとした世間話をして、本題。
「四級昇級試験は、後日案内します。内容はその時に分かることになります」
内容は教えてもらえないか。
事前にアオイさんが調べてくれた情報では、魔物を倒したり、マップを作れとか、最悪は隠し通路を発見してこいというのもあったらしい。
魔物討伐やマップ作成はともかく、隠し通路を探せとかあり得ない無茶ぶりだ。
僕は比較的隠し通路を発見しやすい特殊能力を持っているけど、それでも隠し通路がなければ話にならない。
「分かりました。連絡をお待ちしています」
「はい」
そこでノックされ、綾瀬さんが入室を許可。
入ってきた中年男性に見覚えがある。たしか黒田という人だ。前回の実戦試験の時に居た人だったと思う。
「やあ、カカミさん。お久しぶりですね」
「はい。お久しぶりです」
軽く会釈をして、挨拶する。
この人は政治家とも繋がりがある人だと大水支部長から聞いている。あまり関わり合いになりたくない人だ。
「明日の件で少し話がしたいのですが、一〇分ほどお時間をいただいてもいいですか?」
あまり関わり合いになりたくないけど、無下に断るのも面倒なことになりそうだ。
「僕は大丈夫です」
「良かった。綾瀬さん。お話は終わりましたか」
「ええ、終わりました」
綾瀬さんは席を立ち、また連絡しますと残して立ち去った。できれば一緒に居てほしかった。
「カカミさんもお忙しい身でしょうから、本題に入らさせていただきますね」
「はい」
「明日のスマートメタルの実戦試験ですが、以前よりも改修が進んだという話ですね。その改修のことを聞かせていただければと思った次第です」
いや、知らないし。そんなの、安住社長かヨリミツに聞いてほしい。僕がそんなこと知っているわけない。
「僕は技術的なことは詳しくないので、申しわけありませんが、言えることはないです」
「ははは。そんなに警戒しなくていいですよ。私は事前に知っておきたいだけなのです」
だから、知らないんだってば。
「本当のことなんです。技術的なことや仕様についてまったく知らないのです」
「ははは。分かりました。これ以上は聞きません。その代わり、スマートメタルの生産ラインの構築がいつ頃になるか教えてもらえないでしょうか」
「黒田さん、僕は生産や技術のことに関与してないのです。ですから、申しわけありません」
「カカミさんは警戒心が強いようですね。ですが、私は敵ではないですから」
「敵とか味方とかではなく、本当に知らないのです」
黒田さんの眉間にシワが寄っていく。
いや、本当なんだって。
「分かりました。もう何も聞きません」
「すみません」
凄い不機嫌そうだよ、この人。
「私はこれでもシーカー協会の理事をしているのです。こんなに邪険にされるとは思ってもいませんでしたよ」
「そんなつもりはないです。知らないから知らないと正直に言っているのです」
「役員が何も知らないなど、誰が信じますか」
そう言うと、黒田さんは立ち上がって僕に背を向けた。
はぁ……面倒な人に引っかかってしまった……。
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