第62話 妹は可愛くて恐ろしいもの

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 062_妹は可愛くて恐ろしいもの

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「そんなわけで、妹が一緒に住むことになっちゃって……」

「それで引っ越しですか。分かりました。すぐに物件探しに取りかかります」

「うん。お願い」


 アオイさんに物件探しを頼んだ三日後、僕はその物件に訪れた。


「えぇ……ここ?」

「はい」


 アオイさんがいい笑顔で応えたその物件は、名古屋駅にほど近いタワーマンションだった。


「5SLDKの部屋が空いていましたから」

「そ、そうなんだね……」


 不動産屋の方と一緒にエレベーターに乗って上に……上に……え、最上階?


「こちらは購入された方が、ご都合によって入居前にキャンセルされたものです。他の部屋は全室販売済みでして、今空いているのはこの部屋だけです」


 新築タワーマンション。四〇畳のリビング・ダイニング・キッチンと五つの部屋、そしてサービスルーム。

 部屋は六畳が一つに八畳が二つ、そして一〇畳が二つ。どの部屋にもウオークインクローゼットがある。八畳間の一つは和室になっていて、あとはフローリング。

 風呂は広く、すごく景色がいい。そう、風呂から名古屋の街が一望できるんだ。


「これ、外から見えるんじゃ?」

「安心してください。このガラスは外から見えない特殊ガラスです」


 全ての窓ガラスは中から外は見えるけど、外からは見えないらしい。


「アオイさん、この物件、高くない?」


 ひそひそと不動産屋さんに聞こえないように聞いてみる。


「全然高くないですよ。たったの一億四〇〇〇万円ですから」

「い、一億……」

「何言ってるんですか。リオンさんの収入なら、これくらい高くないですよ。それに東京の都心なら軽く三億以上はするような物件ですよ」


 オークションで一〇〇億円以上、伊豆でも一二億円以上……考えたら、一億円なんて大したことないか。

 いやいやいや、一億円は凄い金額だからね!


「新築・即入居可で、これだけの物件が空いているのは奇跡です。即断即決ですよ、リオンさん」

「そ、そうかな……」


 結局、僕はこのマンションを購入することにした。そう、購入である。

 三五階建ての三五階。5SLDK。風呂もトイレも広々のマンション。


「お金は溜めるだけではいけません。ちゃんと使わないと。だからどんどん使って、それで少しでも経済を回しましょう」

「そ、そうだね」


 億ションを即決で購入する。即入居可ですぐにアイカにも連絡したら、翌日の朝早くにやって来た。


「何このマンションッ!?」


 アイカがマンションを見た第一声。僕もそう思う。


「前のマンションだと、お前が引っ越してくると手狭だから購入した」

「……お兄ちゃ~ん」


 アイカが抱きついて来た。


「私のためにありがとうね~」


 猫なで声で感謝される。どうせ今日一日だけのものだ。

 それにアイカのためではなく、僕のために購入したマンションだからな。


「私、この部屋ーっ」


 アイカは一〇畳の部屋を速攻で自分のテリトリーにした。


「僕はこっちだな」


 僕も一〇畳の部屋。


「ベッド買いに行くけど、お前も来るか?」


 今すぐ住めるように家具は備えつけられているけど、ベッドくらいは自分の気に入ったものにしたい。


「行くっ! 行く行く行く行く行く!」

「はいはい」

「わーい!」


 家具屋ではアオイさんと待ち合わせ。

 僕一人ではセンスのいい家具が選べないから、アオイさんに選ぶのを手伝ってもらうつもりだった。

 アイカがこんなに早く乗り込んでくるとは思わなかったんだ。


「アオイさん」

「あ、おはようございます」

「お兄ちゃん、この人は?」

「彼女はアオイさん。僕の秘書兼税理士。アオイさん、こいつは妹のアイカです。同じ年だと思うから、可愛がってやってくれるかな」

根岸蒼ねぎしあおいです。いつもリオンさんにはお世話になっています」

「あ、はい。各務愛華です。兄がお世話になっています」


 二人でペコペコ頭を下げあっこする。


「根岸さんは本当に秘書さんですか?」


 秘書以外に何があるんだ? 税理士か?


「私のことはアオイと呼んでください。同じ年ですから、敬語を使う必要もありませんよ。それと秘書で間違いないです」

「じゃあ、私のこともアイカって呼んでね、アオイちゃん」

「分かったわ、アイカちゃん」


 今時の女子はすぐに仲良くなるね。


「それじゃあ、家具を選びましょうか!」

「うん。レッツゴー!」


 アオイさんとアイカは家具屋に突撃。ベッドエリアに行く前に色々回った。目的のものだけ見ようよ……。


 今住んでいるマンションは、仕事の事務所にしようとアオイさんが言うから解約してない。だから家具はそのまま置いてある。

 ここで買うのは新しいマンション用のベッド。ソファーなど必要な家具は備え付けだから要らない。

 ただ、今日は散財するつもりでやって来ました。どうせアイカがあれもこれもと言うと思うし。


「ねえ、お兄ちゃん。これいいと思うんだけど!」


 自分のベッドを見ていると、アイカが僕を呼んだ。


「って、滅茶苦茶高級!?」


 僕が見ていたベッドの値段の一〇倍以上!


「お前、遠慮がないな」

「アオイちゃんがどんなものでもって言ってたわよ」

「お金は天下の回りものですよ。リオンさん」


 まあ、これくらい買ってやるけどさ……。


「あ、お母さんに連絡しとくね!」

「止めて! 母さんまで家具欲しいとか言うから、絶対言うなよ!」

「いいじゃない。たまには親孝行しなよ」

「お前が言うか」

「私はまだ社会人にもなってないんだから、そのうちよ」


 結局、ベッド以外にアイカ用のチェストなどを買った。お代は五〇〇万円を超えました。主にアイカのベッドの値段ですよ。


「次は自動車のディーラーです!」

「おおー。お兄ちゃん、自動車買うんだ!」

「電車もバスもあるから移動に不便はないんだけど、家に帰る時とかいいかなと思ってな」


 転移ゲートで一瞬で移動できるけど、自動車があると他の移動が便利だと思ったんだ。


「私のも買ってくれるの?」

「父さんが許可したらな」

「お兄ちゃんが許可したらいいじゃない」

「父さん、悲しむぞ」

「もー」


 お前は牛か。

 でも、自動車は危ないからね。特に名古屋は交通量も多いし、名古屋走りと言われるくらい乱暴な運転をする人が多いんだ。


 今回は僕用の自動車を購入。もちろんオカザキ自動車です。提携企業だから割引があるとアオイさんが言っていた。

 八人乗りの自動車が欲しい。最初からセダンや軽自動車は除外だ。


「これとこれとこれもつけて、やっぱり色は黒だよね!」


 僕の自動車なんだけど、アイカがあれやこれやと選んでいく。


「お兄ちゃん。こんな感じ。いいよね?」


 最後の金額だけ僕に確認。

 僕は八人乗りだったらそれで構わないからいいんだけどね。


 本日最後は食器などの購入。もう夕方になった。

 名古屋駅直結のデパートで食器を購入。


「あー、これ可愛い!」

「いいね、アイカちゃんに似合ってるわ」


 キャピキャピと楽しそうにする二人を横目に、僕はぐったり。


「えーっとね、食器を選びに来たんだよ。なんでバックを選んでるわけ?」

「お兄ちゃん。これ、就職祝いに買って~」

「さっき高額な高級ベッドを買ってやっただろ」

「あれは引っ越し祝いね」

「………」


 ああ言えばこう言う。口から生まれてきたのかと、言いたい。


「お兄ちゃん……買って……」


 上目遣いされても買わない……分かったよ、買ってやるよ!

 なんだかんだ言っても可愛い妹だ。少しくらいの我が儘は聞いてやるよ。


 え、三〇万円!? お前なぁ……。


「これ、アオイちゃんに似合うと思うんだ。お兄ちゃん。どう思う?」

「え……そ、そうだな、似合うと思うぞ」

「それじゃあ、これもね」

「いえ、私は」

「いいのいいの。日頃の感謝の気持ちよ。ね、お兄ちゃん」

「そ、そうだね。アオイさんによく似合っているから、一緒に買っちゃおうか」


 アイカと一緒に買い物なんて、二度としないからな。

 でも、アオイさんには日頃世話になっているから、感謝の気持ちね。


「紙袋までお高そうね」

「もう買わないからな」

「分かっているわよ」

「私まですみません」

「日頃世話になっているのは本当のことだから、その感謝の気持ちだと思って」

「そうだよ、アオイちゃん」


 アイカが言うな。

 ほら、食器を見に行くぞ!


 今日は疲れた。

 ベッドにダイブして寝ようとしたら、スマホが鳴った。

 誰かと思ったら母さんだった。


「もしもし」

「ちょっと、アイカだけバック買うとか、お母さんにはないの!?」


 アイカの野郎、母さんに見せびらかしたな……。


「か、母さんには母の日に……」

「あら、そうなの!? うふふふ。楽しみにしてるわね!」


 ガチャッ。プー、ツーツー。

 母の日のプレゼントはバックに決定。アイカにも費用負担させてやるからな!



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