第61話 伊豆終わりて日常来たり……

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 061_伊豆終わりて日常来たり……

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 伊豆ダンジョンで、三人は大きく飛躍したと思う。三人とも『SFF』は二四〇〇ポイント以上、新しい特殊能力も得た。

 隠し通路を三つ発見したことで功績も溜まっている。六級、五級と昇級試験を連続で受けることになると思う。


 ミドリさん ⇒ SFF二四八〇ポイント 『植物操作』『風操作』 ナラの杖

 アズサさん ⇒ SFF二五一〇ポイント 『短剣二刀流』『急所看破』 隠匿のマントとエレキダガー

 アサミさん ⇒ SFF二五二五ポイント 『鉄壁・改』『爆破』 反撃の盾


 また、三人で一億三八二万五〇〇〇円を稼いだ。


「私たちは収入の半分をパーティー貯金にしています。パーティー貯金で消耗品や優先度が高い装備を買うことにしているんです」


 ミドリさんたちは堅実にお金を貯めて、パーティー内で話し合って必要なものを購入している。

 宵越しのお金を持たないシーカーも多い中、このように計画的にお金を使う三人は上に行けると思う。なぜなら必要なものを考えることで、自分たちのことを見つめ直せる時間ができるからだ。

 イケイケで行けるところまで行くという人も居るけど、自分たちの実力を理解して計画的な探索をする人のほうが危険は少ない。

 どちらかと言うと僕は前者だけど、三人は三バカたちに殺されかけたことで慎重さが増したと思う。


 さて、僕のほうは今回の伊豆ダンジョン探索で一二億八〇〇〇万円を稼ぎ出した。

 二週間でこれだけ稼げると、金銭感覚が狂ってしまいそうだ。でも、伊豆ダンジョン探索中に行われたオークションで、ボズガルドとゾンビの支配者が落札された。

 ボズガルドは一〇六億円、ゾンビの支配者は九〇〇〇万円で落札されたんだ。

 ゾンビの支配者の落札額が低いのは予想の範囲内で、ボズガルドも同様だ。しかし一〇六億円と聞いたら、今回の一二億八〇〇〇万円が霞んで見える。


 アオイさんがもうすぐ確定申告の時期だからと旅館で仕事していたけど、今回の金額は来年の確定申告で税金がゴボッと取られる。

 命を懸けて稼いだお金が半分も税金で取られるのは、面白い話ではない。


「シーカーの税率は一般の方に比べると少し低くなっているとは言え、それでも多いですからね。ここはクランを設立したほうがいいですね」

「でも、クランには代表者と五人の構成員が必要だよね」

「はい。五級以上の方が代表になる必要があります。これはリオンさんでいいですね。あとはお姉ちゃんたちを入れて、私も入るから、あと一人構成員を確保すればクランが設立できます」

「アオイさんも?」

「クランの構成員は代表者を除いて五人必要です。その中にはデスクワークを行うシーカーやレヴォリューターでない人を一人入れることができるのです。ですから、シーカーはリオンさんを除いて四人居ればOKなんです。全員シーカーで事務処理ができない人ばかりでは、クランは回りませんからね」

「ああ、なるほど……」


 僕じゃ、経費がどうのこうのと言われても分からないもんね。


「シーカー・クラン法をちゃんと確認しておきますが、かなり節税になるはずです。それよりも問題なのが、構成員の数です。あと一人を見つけないといけませんからね」

「ミドリさんたちは構成員確定なんだね」

「当然です。ここまでリオンさんの世話になっているのに断ったら、姉妹の縁を切ってやりますよ」

「いや、そこまでしなくても……。そうだ、アオイさんの卒業式、明後日だったよね?」


 ちょっと空気が重くなったから、話を変えた。

 明後日はアオイさんの卒業式で、ご両親がアオイさんの晴れ姿を見るのを楽しみにしているらしい。

 僕もアオイさんの袴姿を見てみたいと思っている。きっと可愛らしいと思うんだ。


「はい。準備万端です! 天気予報でも当日は晴れのようで、楽しみにしています」

「それは良かった。僕もアオイさんの晴れ姿を見てみたいな」

「それじゃあ、当日にお見せします!」

「え、でも、当日は忙しいでしょ? 写真でいいよ」

「大丈夫です!」


 そして当日。アオイさんが袴姿でマンションにやって来た。

 うん、やっぱり可愛い。とても似合っている。でもさ……。


「ミドリさんがなんで袴姿?」

「えへへへ。たまにはいいかなーって」

「そ、そう……でも似合っているよ」


 まるで大正女子のようだね。前輪が大きな自転車に乗ってそう。


「お姉ちゃんったら、リオンさんが袴姿を見たいと言っていると言ったら、昔着たものを引っ張り出してきたんですよ」

「ちょっと、アオイ!」


 仲の良い姉妹だ。僕も妹のアイカとは仲がいいと思っているけど、この二人は本当に仲がいい。

 アイカの卒業式も明日ある。僕も明日は地元に帰るつもりでいる。可愛い妹の卒業を祝ってやらないとね。


 そしてアイカの卒業式の日。僕は地元に帰った。

 アイカと母さんは大学へ行き、僕は家のそばに転移した。

 もうね、転移便利。一度でも行ったことがあれば、どこにだって行ける。ドア・ツー・ドアどころか、ルーム・ツー・ルームできるんだよね。まあ、そこまではしないけど。


 お婆ちゃんと一緒に買い物し、待っていると夕方にアイカが帰って来た。


「おー、馬子にも衣裳だな」

「お兄ちゃん、そんなこと言っていいのかな?」

「な、なんだよ……」


 アイカがニタニタして顔を寄せて来た。


「私、知っているんだからね」

「な、何を言ってるんだ?」

「ふふふ。これよ!」


 アイカはスマホの画面を僕に向けて来た。

 そんなもので僕が……あれ、なんだこれ?

 リア充ハーレム、爆ぜろと書いてあるSNSの写真が……。


「お兄ちゃんが伊豆で豪遊しているところよ!」

「なんだ……と?」

「しかも、女の子を四人も連れてね。お兄ちゃんの淫行行為を知ったら、お爺ちゃんは怒り狂うだろうな~」

「淫行なんてしてないし!」

「あ~あ、お婆ちゃんが知ったら、泣き崩れちゃうだろうな~」

「だから、そんなことしてないって!」

「同じ浴衣を着て、同じ部屋に入って行く光景だよね。そんな言い訳、誰も聞いてくれないわよ」

「うっ……」


 伊豆の旅館での写真だ。

 ミドリさんたち女性四人は顔にモザイクしてあるけど、僕の顔はなんの処理もせずに晒されている。


「今時はSNSで、こういった情報が一瞬で拡散するんだから、気をつけなきゃダメだよ~」

「………」


 こいつ、何を考えているんだ?


「お兄ちゃんも知っての通り、私、名古屋の会社に就職したじゃない。この家から通うのは大変なんだよね~」

「まさか……」

「そう! そのまさかなんだ。お父さんを説得してほしいのよ。そして、私をお兄ちゃんのマンションに住まわせて!」

「そんなこと……」

「できなければ、この写真をお婆ちゃんに見せるわよ。お婆ちゃん、ショックで死んじゃうかもね」

「お婆ちゃんがそんなことを信じるわけないだろ」

「写真があるんだもん。信じると思うわよ。祖母不幸な孫を持ったお婆ちゃんが可哀想だわ。およよよ」


 こいつ、本気か。本気でそんなことを……。あの目は本気だ。くっ、妹に脅されるなんて……。

 しかし誰だよ、あんな写真をSNSで拡散した奴わっ!? 嘘八百並べやがって、訴えてやる!


「このSNSね、お兄ちゃんと同じ五級シーカーのものだよ。ほら、この人」

「どこかで……あっ!? こいつ、モンスターハウスに突撃した奴だ!」

「お兄ちゃんのことけちゃんけちょんに貶しているわよ、この人」

「この野郎……」


 どうしてくれようか。


「こういうの、滅多に削除されないからね」

「くっ」

「私、お兄ちゃんのために色々調べてあげてるんだよねぇ~」

「………」

「そんな可愛い妹に、何かご褒美はないのかな~」


 アイカのおねだりには、いつも困らされる。だけど、こんなんでも可愛い妹なんだよな……。


「分かった。父さんに頼んでやる」

「本当!?」

「でも、父さんが折れるかどうか、分からないぞ」

「うん。大丈夫! お兄ちゃんのところならいいって言ったもん!」

「な、お前……」


 僕の許可を取るだけだったんだな。

 はぁ……我が妹ながら、頭が切れる。


「ほら、行くわよ! お父さんに報告しなきゃ!」


 アイカに手を引かれ父さんのところに向かった。

 父さんはアイカの晴れ姿を見ようと、定時で帰って来たところだ。


「お父さん! お兄ちゃんがマンションに住んで良いって!」

「なんだとっ!? リオン、本当か!?」


 なんで胸倉掴む?


「か、可愛い妹のお願いだから……」


 憎たらしい妹だけどさ。


「くっ、お前なら断ってくれると信じていたのに!」

「いや、僕のせいにするなよ」

「黙れ! この親不孝者が!」

「えぇぇ……」


 面倒くさい親だなぁ。


「あらあら、お母さんもリオンのところに住もうかしら」

「「えっ!?」」


 それは勘弁して!

 アイカだけでも煩いのにお母さんまで来たら、静かな暮らしが……。


「だ、ダメに決まっているだろ!」

「でも、リオンもアイカも居ないのは寂しいわ」

「くっ……だったら父さんも!」


 勘弁してよ……。


 なんとか母さんを説得し実家にとどめる僕だったが、問題はまだある。


「お婆ちゃん、寂しいわ」


 お婆ちゃんも寂しいと言い出したのだ。お爺ちゃんは何も言わないけど、寂しそうだった。


「毎月一回は戻って来るようにするからね、お婆ちゃん」

「本当に? リオンも一緒かい?」


 え、僕も?

 皆の目が……分かりましたよ、月に一回帰って来ればいいんでしょ。

 いいよいいよ。僕だってお婆ちゃんには会いたいし。


「僕もアイカと一緒に帰って来るから」

「そうかい。だったら、我慢しようかね」


 なんとか落着した。

 しかし、アイカが引っ越してくると、マンションでは手狭だな……。引っ越すか。



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