第60話 伊豆ダンジョン踏破
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060_伊豆ダンジョン踏破
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伊豆ダンジョン探索も大詰め。僕たちは第二五エリアに入った。
ビルのガラスの外は雲の上。ビルなら二五階だけど、塔のダンジョンが僕の想像の範囲内なんてことはないようだ。
「影リザードです」
第二〇エリアからは、機械ゴーレム以外の魔物も出てくる。
影リザードは真っ黒でシルエットがトカゲの魔物。体長五メートルの巨体なのに動きが速くて、壁も天井も移動可能。しかも毒のブレスを吐く。鬱陶しいから、発見したら瞬殺している。
「空間切断」
どんな魔物でも空間ごと真っ二つにできる。派手さはないけど、圧倒的な破壊力はドリル弾にも匹敵する。
ドリル弾の場合は溜めに時間がかかる。『時空操作・改』になって溜めの時間は短くなったけど、どうしても時間が必要だ。
でも空間切断はそういった溜めが不要。スッと終わる。あっけない。
影リザードは一瞬で消えてなくなり、魔石を残す。
「空間切断は安定の威力ですね」
魔石を拾ってくれたアズサさんに、いい笑顔で言われると照れてしまう。
「でも、次は私たちに任せてくださいね」
「あはは。了解」
彼女たちは新しい特殊能力を得た。
あの時点でも七級の枠に収まりきらない力を持っていた三人だけど、二つ目の特殊能力を得た以降の活躍は目を見張るものがある。
三人は五日目終了時点で『SFF』が一〇〇〇ポイントを超えて、全員六級昇格試験を受けられるようになった。
伊豆ダンジョン一三日目になる今では、五級昇格試験を受けられる二〇〇〇ポイントを軽く超えている。
いくら何でも早すぎると思ったんだけど、よく考えたら棘角象牙の指輪をつけているんだった。棘角象牙の指輪は取得『SFF』を大幅に増大させるけど、パーティーメンバーにも効果があるようだ。
「あ、丁度いいところに機械ゴーレム地竜が居ます!」
何が丁度いいのか分からないけど、機械ゴーレム地竜は三人に任せることにした。
第一〇エリア以降も彼女たちに戦闘を任せることがある。新しい能力に早く慣れるためだけど、かなり使いこなしているようだ。
機械ゴーレム地竜は体長一〇メートルもあり、そのパワーもさることながら防御力が非常に高い。
五級に昇級できる『SFF』を所持している三人だが、Cランクダンジョンの最奥エリアだから魔物も強力だ。
地響きを立てて襲い掛かってくる機械ゴーレム地竜に、『植物操作』によって床から生えた根の槍が突き刺さる。突っ込んできた機械ゴーレム地竜の勢いもあって、根の槍は深々と突き刺さった。
だが、Cランクダンジョン最奥エリアにいる魔物は、それだけでは止まらない。根を引きちぎって再び接近。
「はっ」
アサミさんが機械ゴーレム地竜の突進を盾で受け流し、その側頭部にモーニングスターを叩き込んだ。
───ドカンッ。
モーニングスターを叩き込んだ側頭部が爆ぜ、機械ゴーレム地竜が大きくよろけた。
この爆発がアサミさんの新しい特殊能力───『爆破』だ。
「風よ、機械ゴーレム地竜を斬り裂け!」
ミドリさんの新しい特殊能力───『風操作』によって風の刃が機械ゴーレム地竜を斬り裂く。硬い装甲で覆われているため大きなダメージはないが、それでも同じところを何度も斬り裂くことで傷は深くなる。
「見えたよ!」
隠匿のマントで姿を消していたアズサさんが、機械ゴーレム地竜の背中に現れた。
短剣を機械ゴーレム地竜の首元に差し込んだ。
その瞬間、機械ゴーレム地竜が体を震わせ、そして力なく床に横たわった。
アズサさんが得た特殊能力は『弱点看破』。姿を消して弱点を見極め、一気に戦いを決めるのがアズサさんだ。
「リオンさん。魔石です」
アズサさんから魔石を受け取り、収納。
この三人はすでに五級シーカーになり得る力がある。
姿を消して魔物に見つからずに弱点を突くアズサさん。
高い防御力に、攻撃力も加わったアサミさん。
風を操ることで魔物の気配を探ることもでき、搦め手を得意とするミドリさん。
「三人はこの伊豆ダンジョンで凄く成長したよね」
「これもリオンさんのおかげです!」
「うん。リオンさんが居なかったら、私たちはシーカーを続けて居られなかったかもしれないし、ここまで強くなれなかったと思う。本当に感謝してます」
「感謝」
ミドリさん、アズサさん、アサミさんが深々と頭を下げる。
「これは三人の努力の結晶だよ。僕は少しだけ力を貸しただけだから、自信をもっていいと思うよ」
三人に頭を上げるように言い、そう話した。
彼女たちは僕のアドバイスを聞き入れる素直さがある。成長するために真摯な態度だった。それが彼女たちの成長に繋がっているんだと思う。
「この伊豆ダンジョンで隠し通路を三カ所も発見したから、五級昇級試験も受けさせてもらえるはずだから、早く五級に上がってきてね。もっとも、僕は四級に上がっているかもしれないけどね」
第四エリア、第一〇エリア、そして第一九エリアに隠し通路があった。三つも隠し通路を発見した功績があれば、五級の昇級試験を受けさせてもらえるだろう。
「「「えー、待っててくださいよー」」」
「「「「ははは」」」」
僕たちはさらに奥へ進み、ボス部屋へとさしかかった。
ボスは健在だ。この第二五エリアで活動するような冒険者は少ないからね。
「ボスは巨大影トカゲで、二〇メートルはあるそうです。毒のブレスも普通の影トカゲよりも強力な猛毒ですし、耐久力が全然違うそうです。どう戦うつもりですか?」
タブレットを見ながらミドリさんが聞いてきた。
「うーん。結晶にしちゃおうか」
「「「納得」」」
結局僕がいきつくところは『結晶』だ。
どれだけ他の特殊能力が優秀でも、行きつくのは『結晶』なんだと思う。
「それじゃあ、三人は後ろで見ててくれるかな」
「「「はい」」」
ボス部屋に入って、ボスが反応しないギリギリまで近づく。
「来い、サハギン」
第一〇エリアのボス戦の後に、ミドリさんたち三人は特殊能力を得た。
でも、僕だけはなぜか、既存の特殊能力である『サハギン王』のパワーアップになってしまた。
納得できないけど、そうなってしまった以上どうにもできない。
ただし、悪いことばかりではない。『サハギン王』が『サハギン王・改』になったことで、テイムしかできなかった効果が召喚もできるようになった。僕が見たことあるサハギンなら、なんでも召喚できる。しかも数は無制限だ。
床に無数の魔法陣のようなものが現れ、そこからサハギンシーナイトとサハギンランサーが現れる。合計三〇体。ボス部屋がサハギンたちでいっぱいになった。
「行け」
サハギンたちが巨大影トカゲに群がる。
僕が召喚できるのは、見たことがあるサハギンだけ。とても巨大影トカゲに敵うものたちではない。
これは時間稼ぎ。僕の『結晶』は強い敵の命を一瞬で封印できないから、時間稼ぎが必要。これまでは『時空操作』が時間を稼いでくれたけど、せっかくパワーアップしたんだから、たまには『サハギン王・改』を使ってやらないとね。
今後は強力なサハギンが居るダンジョンに入りたい。そうすれば、戦力が爆上がりすると思うんだ。
サハギンランサーが巨大影トカゲに噛まれ、飲み込まれる。
サハギンシーナイトが巨大影トカゲに薙ぎ払われる。
巨大影トカゲの猛毒ブレスがサハギンたちを腐食させる。
だが、十分に時間が稼げた。巨大影トカゲの命を『結晶』で封印するのに十分な時間だ。
巨大影トカゲが動かなくなり、僕の手の中に結晶が現れる。
巨大影トカゲが魔石とアイテムを残して消えた。
三〇体のサハギンで五体満足なのは、三体。その三体も猛毒に犯されて地面に倒れている。
「送還」
猛毒に犯されている三体を送還する。これで三体は苦しまずに済む。
床に落ちている魔石とアイテムを拾う。
アイテムは一見すると朽ちた木の枝に見える。長さは三〇センチ。おそらく杖だと思う。
名称 : ナラの杖
希少性 : 覇王級
効果 : 特殊攻撃力四〇〇〇ポイント増加。特殊能力発動時間を三〇パーセント削減。芯に巨大闇トカゲの髭を使ったナラの木の杖。
僕はナラの杖をミドリさんへ差し出した。
「え?」
「これはミドリさんが使うといい」
ナラの杖の能力を説明する。
「でも、特殊攻撃力ならリオンさんも上げたほうがいいと思います」
僕はニコリとほほ笑み、腰に携えているカラドボルグをポンと叩いた。
「こいつは特殊攻撃力四万五〇〇〇ポイント増加の効果がある。ナラの杖よりもはるかにいいものだよ。だから、これはミドリさんが使えばいいよ」
「でも……」
売ればそれなりの額になると思うけど、お金には困っていない。
「五級になっても使える装備が手に入ったんだから、遠慮せずに使って」
「……ありがとうございます」
ミドリさんは躊躇しながらもナラの杖を受け取った。
「さあ、地上へ帰ろうか!」
「「「はい!」」」
僕たちは転移ゲートを通って、ダンジョンから出た。
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