第59話

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 059_伊豆ダンジョン第一〇エリア隠し通路

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 伊豆ダンジョンの二回目の探索は、第四エリアから開始。転移して第四エリアに入って、すぐに第五エリアへ移動。ボスは居なかった。

 相変わらず機械ゴーレム系ばかりだけど、そのバリエーションは多い。

 人間型の他に虫系のクモ型、クワガタ型、蝶型、カマキリ型。獣系はイヌ型、ウシ型、イノシシ型。爬虫類のトカゲ型も居る。

 第五エリアになって一気に種類が増えた。


 隠し通路で武装強化された三人は、第五エリアの魔物を簡単に倒してしまう。

 苦戦せずに三日目に第一〇エリアに到達。

 彼女たちは武装強化されただけでなく、戦いもかなり洗練されてきている。

 アズサさんの感性というか勘も、根拠はないけど冴えている。これ以上彼女たちに何かを教えることはない。


「隠し通路が確認できました」


 シーカー協会で魔石を引き取ってもらったら、隠し通路の確認が終わったと言われた。


「ずいぶんと早かったですね」

「たまたま三級シーカーパーティーが居ましたので、速やかに確認ができました」

「なるほど」

工藤梓くどうあずさ様、飯塚麻美いいずかあさみ様、根岸緑ねぎしみどり様に隠し通路発見の功績を記録します」

「はい、お願いします」

「また、報告があった悪質シーカーの件ですが……」


 五人はなんとか生き残ったらしい。しかし、五人とも大怪我をしていたらしく、確認に訪れた三級シーカーたちに助けられて病院へ搬送されたらしい。

 三級シーカーが持っていたポーションを使っているから、一晩だけ入院するくらいで済むみたい。


 彼らは五級シーカーだったため、モンスターハウスの罠にかかってもなんとか生き残れたそうだ。

 高額な上級ポーションを使ったけど、五級の稼ぎなら三倍でもなんとか払えるだろう。

 今回のことでシーカー協会から罰を与えることはない。だけどあのことは公開されることになっているから、今後レイドなどのイベントに参加できなくなると思う。


「あの人たち生きていたんだね」

「しぶとい」

「五級シーカーだったらしいから、実力があったようね。あんなことしなくても稼げるのだから、もったいないわね」

「シーカーにはシーカーのルールがある。魔物でも隠し通路でも横取りはルール違反だ。三人も気をつけてね」

「「「はい」」」


 もちろん、僕も気をつける。特にソロの僕は、誰も諫めてくれない。自分で自分を律するしかないのだ。


 四日目からは第一〇エリアの探索になる。

 シーカー協会の資料では、ここからCランクダンジョン相当だとしている。

 そんな僕たちの前に、再び隠し通路が現れた。

 広大なダンジョンだから隠し通路がいくつあっても不思議ではないけど、なんだか誘われている気がする。


「ここ、隠し通路ですよね、リオンさん」


 僕が何も言わなくても、アズサさんが隠し通路を言い当てた。やはり彼女の嗅覚や勘は本物だ。

 あの三バカに殺されかけ、アズサさんの中の何かが覚醒したのかもしれない。


「そうだよ。ここも三人で対応してみようか。入手したアイテムは三人で分ければいいから」

「それでは約束が違います。第一〇エリア以降で得たものは、全部リオンさんのものです。私たちは経験を積ませてもらえるだけで十分ですから、魔石もアイテムも全部リオンさんが受け取ってください」

「「ミドリの言うとおりです」」


 三人は頑なに約束を守ろうとしている。僕が何を言っても、それを覆す気はないのだと感じた。


「分かったよ。でも、三人が使えるアイテムだったら、遠慮せずに受け取ってほしい」


 彼女たちが使えるアイテムを、わざわざ売る必要はない。彼女たちに受け取ってもらえるように説得した。


「魔石や他のアイテムは遠慮なく僕がもらうからさ」


 三人は顔を見合わせて、頷き合った。


「「「ありがとうございます」」」

「それじゃあ、僕は見ているからね」

「「「はい」」」


 ミドリさんの植物が隠し通路の壁を破壊し、僕たちは中に入っていく。すぐにT字路になっている。


「右がお宝、左がボスだと思う。どっちから行く?」

「「お宝で!」」


 三人がお宝のほうへ向かう。その後をついていく。

 宝箱は一つしかなかった。銀だ。


「えー、金を入れてくれてもいいのにー」


 アズサさんが際どいことを言っている気がするけど、気にしないように心がける。


「銀でもいいじゃないの。お宝だもの」


 ミドリさんの言う通りだ。

 宝箱なんて、そう簡単に見つかるものじゃない。それを初日に続いて発見できたのだから、運がいいと思うべきだね。


「これ、罠ないと思うわ」


 アズサさんがそう言うと、三人がジャンケンを始めた。


「ヤーッ!」


 勝ったのはアサミさんだ。アズサさんは悔しがり、ミドリさんはどっちでもいい感じ。

 悔しがるアズサさんを横目に、アサミさんはパカッと蓋を開けた。中には……。


「もしかして、これは……」

「あれだね」

「多分、レヴォリューションブックだわ」


 いいものを引き当てたね。



 名称 : レヴォリューションブック

 希少性 : 伝説級

 効果 : 特殊能力『鉄壁』を昇華させる。



「あーーーっ……アサミのだ……」


 アズサさんが地面に四つん這いになった。

 表情をあまり変えないアサミさんが、満面の笑みでガッツポーズ。


「アサミ、良かったわね。アズサも次があるわよ」


 ミドリさんがアズサさんの背中をさすって慰める。

 なんだか母娘みたいに見えてしまう。


「それじゃあ、さっそく使おうか」


 僕がレヴォリューションブックを差し出すと、受け取ったアサミさんがそれを開いた。

 レヴォリューションブックが光って、アサミさんの胸に光の粒子が飛び込んでいく。


「っ!?」


 アサミさんが頬を朱に染める。


「いい。いい感じだわ」

「おめでとう、アサミ」

「今度はアズサにもレヴォリューションブックが当たるわ」

「そう願うわ」


 立ち上がったアズサさんと、アサミさんが握手する。微笑ましいいい光景だ。


「「むむむっ……」」


 前言撤回。二人とも握手した手に力を入れて、凄い形相だ。


「あの二人、仲はいいけどお互いにライバル視してるから……」


 ミドリさんが困ったという表情で二人を見つめて呟く。


「はいはい。二人ともそこまでよ。次はボス戦だから、アズサのその怒りをボスにぶつけてやって」

「怒ってないわよ~」


 アズサさんがそっぽを向く。ふくれっ面が可愛らしいね。


 ボス部屋に移動。ボスは機械ゴーレム鷹だった。


「空中戦かぁ……。ミドリ、大丈夫?」


 アズサさんとアサミさんは接近戦だから、ミドリさん次第の戦いになる。


「大丈夫よ。私の『植物操作』は魔物の体から植物を生やせるから」


 機械の体でも植物を生やせるのだから、凄いよね。


「それじゃあ、ミドリのタイミングで開戦ね。私は消えるから、あいつを落としてやって」

「了解」


 隠匿のマントで姿を消したアズサさんが、ボス部屋の奥へと移動する。

 僕の『魔眼』には、ばっちりとアズサさんが見える。アズサさんは誰にも見えないと思っているようなので、『魔眼』で見えていることは黙っていよう。


「それじゃあ、戦闘開始ね」


 ミドリさんの言葉に、アサミさんが頷く。

 一〇秒もすると、機械ゴーレム鷹の体から芽が生えて、その体に巻きついていく。翼が蔦によって拘束されると、機械ゴーレム鷹が落下した。

 機械の体でも翼で飛んでいるんだね。


「GO!」


 アサミさんが駆け出し、その手に持つモーニングスターを機械ゴーレム鷹の頭部に叩き込む。

 体長三メートル近い機械ゴーレム鷹の頭が凹んだ。地上に落ちても暴れてアサミさんに反撃しようとする機械ゴーレム鷹だが、カウンターでモーニングスターが叩き込まれる。


「地上の鳥など、敵ではない」


 レヴォリューションブックでパワーアップしたアサミさんが、男らしい。

 そこにアズサさんが現れ、両手に持った短剣を機械ゴーレム鷹の装甲の間から突き刺す。

 エレキダガーの効果が発動したようで、機械ゴーレム鷹は体をビクンッとさせて動かなくなった。


「麻痺!」

「応!」


 アズサさんとアサミさんが畳みかける。

 空を飛ぶ魔物は厄介だけど、地上に落とされたらまな板の鯉のようになすがままだ。

 ミドリさんの『植物操作』があることで、空を飛ぶ敵も怖くない。バランスのよいパーティーだ。


「ッシャーッ! 倒したぞーっ!」


 アズサさんが雄叫びを上げ、アサミさんとハイタッチ。ミドリさんともハイタッチし、僕も。

 この第一〇エリアはCランクダンジョン相当の魔物の強さになる。そこの隠しボスをいとも簡単に倒すのだから、三人が五級になる日も近いかもしれないね。


「「「「あっ!?」」」」


 その時、僕たちの頭の中に天の声が響いた!


 

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