第58話
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058_これでも役員だから
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隠し通路を出たところで、アズサさんの腕を離した。
「リオンさんは、なんで引いたのですか」
ミドリさんが聞いて来た。責めるような口調ではなく、純粋な質問のようだ。
美女が首を傾げて上目遣い。モエるかも。
「残っていた道は、アズサさんが嫌な感じがすると言っていたほうだからだよ」
「あっちに何があるのか、リオンさんは知っているのですか」
「あっちはモンスターハウスだよ」
「「「え!?」」」
『魔眼』と『テキスト』のコンボは本当に凄い。壁で遮られている場所でも、『魔眼』なら壁を越えて見える。見えれば『テキスト』がその内容を教えてくれるんだ。この二つの特殊能力のおかげで、僕の安全性がものすごく上がった。
「行かなくて正解。三人だけでは、かなり危険な場所だよ」
「リオンさんが居たら?」
「そうだね……なんとかなるとは思うよ。最悪、逃げればいいんだから」
僕の特殊能力は『魔眼』と『テキスト』だけじゃない。戦闘にも移動にも使える『時空操作』がある。もちろん、逃げるのにも使える特殊能力だ。
「「「そうですよねー」」」
三人は息ピッタリだね。三人でアイドルグループを結成できるよ、君たち。僕がファン一号だね。
「あの五人、今頃モンスターハウスに閉じ込められているんだね。ふふふ」
「自業自得」
「人のものを盗もうとすると、酷い目を見るということですね。私たちも襟を正さないといけませんね」
あの五人のことは自業自得だと三人とも思っていて、気の毒だとは思わないようだ。僕も同じ気持ちだ。
それに、シーカーはそういった危険を嗅ぎ分ける鼻が必要だ。あの五人は欲に目が眩んで、鼻が利かなくなっていた。もしくは最初からそのような鼻がなかったか。
どっちにしろ、僕たちには関係のないことだ。彼らの行動の責任は彼らが負うもので、僕らがそこに介在することはない。モンスターハウスのことを知っていたのにそれを教えなかったとしてもだ。
僕らが見つけた隠し通路は、僕らに優先探索の権利がある。それはシーカーなら知らないわけがないことだ。
それを護らなかった彼らにモンスターハウスのことを注意しなかったとしても、僕たちに瑕疵はない。むしろ、彼らが責められるべき行為なのだ。
シーカーは自己責任だからね。
「今日はここで帰ろうか。隠し通路のことを報告すれば、三人の実績にもなるしね」
「「「はい」」」
転移ゲートを繋げて地上へ戻った。
その後、シーカー協会で隠し通路のことを報告し、魔石の換金をした。
もちろん、あの五人のことも報告した。画像があるから、報告は楽でいい。
「初日は二二〇〇万円。いい感じだね」
機械ゴーレム(ヘビ)の魔石が中一級、そして色が紫だったことで一〇〇〇万円になったのが大きかった。
紫は雷や電気属性だから、赤と並んで高額で取引される。
三人で分ければ七三〇万円くらい。僕は第一〇エリアから総取りだから、今回は三人で分けてもらう。
「リオンさんのおかげで帰りは一瞬だから、凄く楽でした」
「本当よね。この楽さに慣れてしまうと、シーカーとしてダメになりそうだわ」
「同意」
ミドリさんの言葉にアズサさんが続き、アサミさんが激しく頷いた。
普通は帰りもダンジョンの中を歩いて帰って来なければいけないから、ダンジョンの中で野営することになる。
転移で移動できる僕たちは、毎日地上に帰って宿で温泉に浸かって美味しい料理に舌鼓を打つ予定だ。
宿に帰ると、アオイさんが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。皆、無事で何よりです」
「「「「ただいま」」」」
「リオンさん。安住製作所から連絡がありました。着替えて温泉に浸かってから、話をしてもいいですか」
「了解だよ」
僕は部屋で装備を着替え、浴衣姿で温泉へ向かった。
部屋風呂もあるけど、せっかくなので大浴場でゆっくりしたいよね。
大きな岩風呂。ああ、生き返る~。
「兄ちゃんもシーカーか」
湯船に浸かっていると、声をかけられた。
三〇前半くらいの筋肉質で体中に傷がある人が湯船に入るところだった。かなり大きい体だ。二メートルくらいあるんじゃないかな。
「はい。そうです」
「俺は五級の
「僕も五級で各務といいます。よろしくお願いします」
「へー、兄ちゃんも五級か。どんどん若いのに抜かされてしまうな」
それにどう応えたらいいか、分かりません。
「今日は伊豆ダンジョンか?」
「はい。伊豆ダンジョンに初めて入りました」
「俺は時々この宿に湯治のために泊まっているだけで伊豆ダンジョンには入らないが、あそこは機械式の魔物が多いと聞く。どうだったんだ?」
「ええ、機械の魔物が多かったですね。どれも硬くて嫌な相手です」
「それでも兄ちゃんは生きて帰ってきた。生きてるからこそ、こんないい温泉に浸かって美味い飯を食える。なぁ、兄ちゃん」
「そうですね」
金井さんはひとしきり喋って五分くらいで出て行った。顔が真っ赤になっていたから、あまり湯船に浸かっていられない人なんだと思う。
勿体ないね。こんなにいい湯なのに。浸かっていると、疲労がお湯に溶け出ていく感じだ。
温泉から上がって部屋で休んでいると、アオイさんたちがやってきた。
四人も温泉に浸かってきてもらった。僕一人だけ温泉に浸かるのはさすがに無理。気が引けるからね。
僕は一人部屋、女の子たちは二人部屋でミドリさんアオイさん姉妹と、アズサさんアサミさんペアに分かれている。
僕の部屋は二部屋続きになっていて、ミドリさんたちには別の部屋で待ってもらってアオイさんと二人になる。一応、スマートメタルについて色々と機密があるからね。
「来月、また実戦試験をするそうです。今度は防衛大臣も視察されるそうです」
「国も大金を動かすからね。しかし、防衛大臣がダンジョンの中に入るの? 大丈夫なの?」
「ダンジョンは東京周辺になるそうです。今、その選定を防衛省と自衛隊、それとシーカー協会が協議しているそうです」
「今度は東京か。東京は人が多すぎてあまり好きになれないんだよね」
僕は根っからの田舎者だと、五級の昇級試験の時に東京へ行って思ったよ。
名古屋でも人が多いと思うのに、東京はもう無理って感じ。あの人ごみの中に居ると、気持ち悪くなってくるんだ。
「僕、立ち会わなくていいよね」
「それは無理じゃないですか」
「開発に一切かかわってないんだよ。結晶を納品しているだけなんだからさ、ダメかな」
「その結晶がスマートメタルのコアなのですから、無理でしょう」
大きなため息が出る。せめて都心は勘弁して欲しい。
「あとは……装甲が新しい材質になったそうで、重量がわずかに増えたみたいです。ただ、駆動系のロスを改善したことにより、稼働時間は変わってないそうです」
「日々精進、日々研究、日々進化だね。ヨリミツたちの身を削るような努力には脱帽だよ」
「そうですね。あと、工場の稼働についてですが、私たちが名古屋に帰る頃には立ち上がるそうです」
「そんなに早く? 安住社長も気合が入っているね」
「オカザキ自動車の協力があってのことらしいです」
「さすがは世界のオカザキだね。装甲のほうもオカザキが?」
「いえ、装甲は無名の町工場らしいですよ。この装甲が正式採用されたら、その町工場に資本投下して生産体制を築くようです」
金属素材加工の町工場から買うのか。まあ、なんでもかんでもウチでやらなければいけないわけじゃないからね。外部から部品調達すれば、経済が回るからいいことだ。
「ウチの工場では、開発と指向性重力制御システムの生産と諸々の生産。あとは社外から各部品を購入して組み立てを行うことになるそうです。部品の調達先は多ければ多いほどいいらしいです」
「部品供給のリスクヘッジかな。でも、それだと同じ部品を複数の会社から調達するから、一社の儲けが減る。そこら辺の匙加減を間違えると、逆に危険だと思うけどね」
「安住社長に確認しますか?」
「うーん……今はいいや。立ち上げ当初は、どこも好景気になると思うからね。問題はコストダウンと言い出したときだよ」
「そうですね」
そのうち発生するであろう、コストダウン問題の時にどう動くか考えておかなければいけないと思う。
ウチだけが儲けて、下請けが儲けられないような産業はダメだ。下請けイジメしないように目を光らせておこう。
僕のような素人にどこまでできるか分からないけど、これでも役員だからね。
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