第57話

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 057_伊豆ダンジョン第四エリア隠し通路のボス

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 三つの宝箱を開けた僕たちは、隠し通路をさらに奥へと向かった。


「あれ、二股に分かれてますよ」


 珍しいパターンだ。これまでボスと宝箱の部屋に行くために二股になっていたことはあったけど、宝箱部屋の後に二股はなかった。


「アズサ、どっちに行く?」


 アサミさんがアズサさんの意見を聞いた。

 こういう時は勘の良いアズサさんが判断基準になる。


「右はボスだと思うけど、左は嫌な感じがするわ」

「ボスと嫌な感じね。ミドリはどっちがいい?」

「そうねぇ、どうせ両方とも探索するから、まずはボスからにしましょうか」

「「賛成」」


 シーカーなら両方とも探索するのは当然だ。それをしない人はシーカーじゃない。でも、危険を避けるのもシーカー。

 自分たちの実力とその時の状態をしっかり把握して、判断を間違わないようにすることが大事だ。


「あれがボスですか。大きいですね」

「機械のヘビとか、趣味が悪いわね」

「ヘビは嫌いだ。でも、機械なら問題ない」


 ミドリさん、アズサさん、アサミさんがボスを見た感想。

 ボスは体長一五メートルほどのボスは機械ゴーレムヘビ型だ。


「機械ゴーレムヘビ型の能力は……生命力三〇〇、物理攻撃力一五〇、物理防御力二五〇、特殊攻撃一〇〇、特殊防御力二〇〇、総合力は一〇〇〇だよ」


 今の三人だったら大丈夫だと思うけど、楽観視はできない強さだ。


「私は姿を消して近づくわ。アサミは一気に突っ込んでちょうだい。ミドリはあいつの動きを封じて、アサミのダメージ管理ね」

「「了解」」


 簡単に作戦を決めた三人は頷き合った。

 アズサさんが隠匿のマントを羽織り、姿を消す。それが合図となって、アサミさんが機械ゴーレムヘビ型へと駆けた。ミドリさんもアズサさんから適度な距離を取ってついていく。


 アサミさんが近づくと、機械ゴーレムヘビ型がその鎌首を持ち上げた。

 寝そべっている姿も大きかったが、鎌首を持ち上げるともっと大きく見える。


「私が相手だ!」


 アサミさんがモーニングスターで殴ると、鈍い音がした。


「こいつ硬い」


 機械ゴーレムヘビ型がお返しとばかりに噛みつこうとしたが、アサミさんは反撃の盾でその攻撃を受け流した。


 アズサさんが機械ゴーレムヘビ型の横に現れ、短剣を装甲の間に滑り入れる。

 機械ゴーレムヘビ型が怒りの瞳でアズサさんを見ようとするが、すでにアズサさんは姿を消して離脱していた。

 キョロキョロする機械ゴーレムヘビ型の体から植物が生えてくる。体が大きいから、一〇本もの植物を生やしたようだ。

 それらの植物が機械ゴーレムヘビ型の体に巻きついていく。


「ヘビって、巻きつかれても動けるのかな?」


 疑問が口に出た。

 その答えはすぐに出た。

 機械ゴーレムヘビ型は体をくねらせて器用に移動するのだ。動きづらそうだけど、動けないわけではない。

 そんな機械ゴーレムヘビ型はアサミさんをターゲットに決めたようで、長い体を使って体当たりしたり噛みつこうとする。

 アサミさんはそれらの攻撃を反撃の盾で受け、じっと我慢している。


 アズサさんは時々姿を現しては、嫌な攻撃をして姿を消す。


 ミドリさんの植物も徐々に機械ゴーレムヘビ型の生命力を奪っていくから、地味に嫌な攻撃になっている。

 しかも、装甲の隙間から体内へと入っていって、その体を蝕んでいく。


 さすがにボスだけあって機械ゴーレムヘビ型はしぶとい。アズサさんとミドリさんから受けた嫌がらせを、アサミさんへぶつける。


 アサミさんはカメのように防御に徹していて、簡単には崩れない。

 しかもミドリさんが良い感じにチティスの実の汁から作られた手作りポーションをかけてダメージを癒す。

 甘いチティスの汁をかけたらベトベトになりそうなんだけど、それがまったくベトベトにならなず傷を癒してくれる。不思議なものだ。


 隠匿のマントのおかげでアズサさんは機械ゴーレムヘビ型から全然見えてない。

 現れては消え、消えては現れる。そのアズサさんが機械ゴーレムヘビ型の首(?)の後ろから攻撃。その攻撃を受けた機械ゴーレムヘビ型は今まで以上に嫌がった。


「ここが弱点よ!」


 そう言ってアズサさんはまた消えた。

 アズサさんが見つけた弱点をミドリさんの植物が、抉っていく。蔦がまるでヘビのようだ。機械ゴーレムヘビ型も真っ青だね。

 機械ゴーレムヘビ型がかなり嫌がって、体中をよじって抵抗している。


「アサミ。今よ!」

「了解! ここまで我慢したんだからね。喰らいなさい!」


 アサミさんが手にしているモーニングスターを大きく振り上げた。

 反撃の盾によって、溜めに溜めた攻撃力。微増の積み重ねがどこまで攻撃力を上げてくれたのか、その威力を確かめさせてもらうか。


「はぁぁぁぁぁっ」


 ──ズドンッ。

 モーニングスターが機械ゴーレムヘビ型の頭部にめり込んだ。

 メキメキッメキッ。そこから全身へとヒビが走り、機械ゴーレムヘビ型は動かなくなった。


 あの硬い装甲をあそこまで陥没させたか。

 数えていたけど、アサミさんが攻撃を受けた回数は二三回。

 現在のアサミさんの物理攻撃力は一〇〇ポイント。それが二三回攻撃を受けたことで、三〇七ポイントにまで上がっていた。

 一回攻撃を受けることで、物理攻撃力が五パーセント上昇していた。アサミさんの物理攻撃力が一〇〇ポイントだったから、計算しやすかった。

 最初の攻撃を受けて一〇五、その次が一一〇、一一五、一二一、一二七、一三四と増えて行った。

 攻撃力が三倍になったアサミさんのモーニングスターは、あの硬い装甲を陥没させるまでになった。

 機械ゴーレムヘビ型の物理防御力は二五〇ポイントだったから、その装甲を陥没させるのも納得だ。


「「アサミ、やったねっ」」

「あははは。私の攻撃力がここまで上がるなんて、反撃の盾、いいじゃない!」


 三人がハイタッチ。

 僕もハイタッチ。イエーイ。


「あ、アイテム落ちてるよ」

「「本当だ!」」


 アズサさんが魔石とアイテムを拾い上げた。

 アイテムは刃渡り三〇センチほどの短剣で、刃がやや紫色のものだ。



 名称 : エレキダガー

 希少性 : とても珍しい

 効果 : 物理攻撃力四〇〇ポイント増加。追加効果として三〇パーセントの確率で麻痺状態にする。



「アズサの武器が出たわね」

「でも、私はこの隠匿のマントをもらったから」

「そんなの気にしなくていいのよ。ね、アサミ」

「戦力アップは望むところ」

「二人とも……ありがとう。大事に使うわ」


 アズサさんはエレキダガーを腰の後ろに差し込んだ。

 その目にはキラリと光るものが見えた。彼女はそれを人差し指で拭い、笑みを見せる。


「アサミ、怪我はしてない?」

「ミドリが回復してくれたから、問題ない」

「それじゃあ、あっちへ行こうか」

「「りょうかーい」」


 なんと言うか、楽しいね。

 楽しすぎて怖いくらいだ。どこかに落とし穴がなければいいけど……。


「あははは。こんなところに通路があるなんてな!」

「ああ、俺たちはラッキーだぜ!」


 僕たちがボス部屋から出て道を戻っていると、そんな声がしてきた。


「どうやら他のシーカーが入ってきてしまったようだね」


 そのシーカーたちと顔を合わせる。向こうは男性五人のパーティーだ。


「なんだよ、先客が居たのかよ」

「ここは私たちが発見した隠し通路よ」


 アサミさんがそう言うと、彼らは笑いだした。


「お前たちが発見した証拠はあるのかよ」


 そんな証拠はない。だけど、こういう奴らはどこにでも居るんだね。


「言いがかりは止めろよな。気分が悪いぜ」


 明らかに僕たちが先に入っていた。それを分かっていて、彼らはこう言っている。


「何よ、その言い方。腹立つわね」

「なんだよ、このアマは。ふざけんなよ」


 アズサさんと男性たちが一触即発。

 僕はアズサさんの腕を引いた。


「ここで争うのは良くない」

「そのひょろっちい男の言う通りだぜ」


 ひょろっちい……僕はそう見られているのか。もし僕が逞しい体躯をしていたら、彼らは大人しく引いていたのかな?

 シーカーを見た目で判断する時点で、彼らは三流。容姿の厳つさが強さに比例するなら、メリッサさんが三級になれるわけがない。


「ちょっと、あんたたちねぇ」

「いいから帰るよ」

「でも……」


 僕はアズサさんの腕を引いて、隠し通路を出口に向かって進んだ。

 襲ってこなかっただけ、まだマシだ。

 でも、僕が撮影していることを知ったら、彼らも襲ってきたかもしれない。


 

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