第64話

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 064_奥多摩ダンジョン(一)

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 スマートメタルの実戦試験が行われる奥多摩ダンジョンに、十数台の電気自動車が入っていく。

 防衛大臣と国会議員の先生方が十数人、官僚や自衛官もゾロゾロ、シーカー協会のお偉いさんもゾロゾロ。その中にはあの黒田さんも居る。

 多くのシーカーがお偉いさんたちを護衛するけど、僕も護衛される側だ。


 奥多摩ダンジョンはD級。僕たちが向かった先は第一エリア。

 この第一エリアは森林タイプで、出て来る魔物はウオーターキャットとエアードックというネコとイヌ型。

 奥のほうにはエアードックの巣があり、今回はそのエアードックの巣を攻略するのが目的だ。


「あぁん? 兄ちゃん、何してんだ?」

「あ、どうもこんにちは」


 声をかけて来たのは、伊豆ダンジョンに通っている時に泊まっていた旅館の温泉で会った人だ。たしか金井さんだったか。


「なんでスーツなんて着てんだ? 護衛じゃないのか?」

「今日は護衛される側なんです」

「あん?」


 何を言っているんだという顔をされてしまった。そうですよね、シーカーなのに企業の役員ですもんねー。


「これでも安住製作所の役員なんです。僕」

「なんじゃそりゃぁ……縁故か?」

「うーん……なんというか、ちょっと複雑なんです」

「そうか。まあ、がんばれや」

「はい」


 縁故だと思われているんだろうなぁ。ヨリミツの縁故と言えなくもないのだけど。


 今回の実戦試験に投入されているのは、試作四号機を元にした量産型プロトタイプα型と試作五号機を元にした量産型プロトタイプβ型だ。

 量産化設計で部品の共通化が図られて、メンテナンス性を向上させたものらしい。それでいて元になった試作四号機と試作五号機以上のスペックになっている。


 量産型プロトタイプβ型は森林内でも動きが機敏だ。パイロットの練度も以前より上がっていると思う。かなり訓練してきたようだね。

 今回の量産型プロトタイプβ型は装甲の材質を変更し、少し形状も変わった。元々スマートなボディだったけど、さらにスマートになっている。デザイン性が上っているというのかな。

 あと、速度が上っている。装甲だけじゃなく駆動系の改善も行われたと聞いているから、その効果があるのかもしれない。


「へー。初めて見たが、まるで飛んでいるように見えるな」


 金井さんが感嘆している。

 実際に量産型プロトタイプβ型は飛んでいる。指向性重力制御システムの出力を上げたことで、地面に接地していないことが多いんだ。

 華麗に木々を躱し、動きの速いウオーターキャットを追い詰め、エネルギーソードで切り裂いた。


「俺たち五級といい勝負だな、ありゃぁ」


 スマートメタルの戦闘力は、僕も五級相当だと思っている。つまりC級ダンジョンでも十分に活躍できることを意味する。

 自衛隊はB・C・E・F級ダンジョンを管理しているから、B級以外のC・E・F級ダンジョンでスマートメタルが運用できる。

 もしスマートメタルでボスを倒して、そのパイロットに天の声が聞こえたら自衛隊員のレヴォリューターが増えて戦力が上がる。

 自衛隊だけで全てのダンジョンを管理することはできないと聞いているけど、シーカー協会が管理しているダンジョンもそのうち自衛隊員が出入りするようになるかもしれない。


 量産型プロトタイプα型もちゃんと改修されている。しかも武装が増えて、より重量感が増している。

 これまでは真空砲四門と電磁投射砲レールガン二門を備えていたけど、今はそれらにプラスしてアームレーザーを装備している。

 アームレーザーはせいぜい二〇メートルほどの射程距離だけど、熱線で対象を焼く攻撃ができる。

 接近戦に弱いイメージがある量産型プロトタイプα型だけど、アームレーザーは使いやすい武器になる。ある程度接近戦にも対応できるようになったとパイロットには好評らしい。


 その量産型プロトタイプα型のアームレーザーがエアードックを貫いて焼く。かなりの攻撃力だ。自衛隊も気合入れて武器の開発をしていると聞いているから、これから新しい武器がもどんどん出て来ると思う。


「D級ダンジョンの魔物ではまったく相手にならないか」

「オーガとも互角に戦える機体です。D級ダンジョンの第一エリアの魔物相手なら苦戦はしません」

「それは頼もしいな」


 防衛大臣と源田陸将の話が聞こえてきた。

 お得意様(自衛隊以外の客はない)の責任者たちだから、良いイメージを持ってくれるのはいいことだ。


 散発的に現れる魔物は、二機の量産型プロトタイプに蹂躙される。僕たちは問題なくダンジョンの中を進んだ。

 もうすぐ巣に辿りつくくらいの距離。エアードックの密度がかなり上がっている。それでも二機のスマートメタルは余裕だった。

 量産型プロトタイプβ型は連携してくるエアードックを巧みに躱して攻撃を加え、確実に倒していく。

 量産型プロトタイプα型は距離を取りながら量産型プロトタイプβ型の支援。いや、支援というよりはしっかり倒している。

 攻撃力は量産型プロトタイプβ型に負けない量産型プロトタイプα型。むしろ量産型プロトタイプα型のほうが攻撃力はある。アームレーザーが使いやすいようで多用してエアードックを屠るが、その射撃がかなり正確だ。


「量産型プロトタイプα型はアームレーザーを導入した時に、射撃システムをバージョンアップしました。それによってより高精度な射撃が可能になっています」


 三橋執行役が見学者たちに説明している声が聞こえた。僕も射撃システムのバージョンアップは聞いていたけど、使いやすくなってなによりだ。


 エアードックの巣は岩山に多くの横穴がある。その横穴に一〇体から二〇体くらいの群れが棲みついていて、巣全体で数百体が存在している。

 これだけの数を相手するのは一パーティーでは無理だから、ここでも定期的にレイド戦が行われているらしい。

 そういうのはイベントだから、楽しいよね。

 そう言えば、今頃はミドリさんたちもサハギン砦のレイド戦をしている頃だ。怪我をしない程度にがんばってほしい。


「ここからが本番です。二機がエアードックの大群を屠る光景をご覧ください」


 安住社長が気合を入れた顔で巣への攻撃を指示した。

 量産型プロトタイプβ型がモーターの回転音を上げる。地面を蹴り、飛ぶように移動する。森の木々をサッサッと躱し、一気に巣へ接近する。

 その量産型プロトタイプβ型に先立って、量産型プロトタイプα型の電磁投射砲レールガンの攻撃が与えられる。地面を穿ちながら巣に着弾した弾は、岩を大きく抉って数十体のエアードックを屠った。


「素晴らしい威力だ」

「長射程であれば、量産型プロトタイプα型の電磁投射砲レールガンの右に出るものはありません」


 防衛大臣が感嘆し、三橋執行役が電磁投射砲レールガンの説明を行う。

 そうしていると、巣からエアードックの群れがわらわらと出て来て、量産型プロトタイプβ型と会敵した。

 戦闘は激しいものだが、新装甲に守られた量産型プロトタイプβ型はエアードックの牙や爪を寄せつけない。

 量産型プロトタイプβ型のエネルギーソードの出力が上がっているようで、エアードックを一刀両断する。

 戦いは壮絶なものだが、量産型プロトタイプβ型には余裕が見えた。


 いくつかの群れが、量産型プロトタイプβ型ではなくこちらに向かってくる。

 量産型プロトタイプα型の四門真空砲から無数の散弾が発射されると、その群れは一気に数を減らしていく。

 さらに散弾を掻い潜って近づいてくる数体のエアードックが居たが、アームレーザーの餌食になり一瞬で息絶えた。


 一時間もせずにエアードックは殲滅された。


「敵エアードックの殲滅を確認。これよりボス討伐を行う」


 量産型プロトタイプβ型のパイロットである倉橋三佐の声が、スピーカーから聞こえた。

 倉橋さんは一尉から三佐に昇進していて、今日は昇進後初めての任務になる。


 

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