第65話 奥多摩ダンジョン(二)

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 065_奥多摩ダンジョン(二)

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 巣から一体のエアードックが現れる。その体躯は他のエアードックとは一線を画すものだ。

 体高がエアードックの倍近くあるだろう。必然的にその体躯は巨大なものになっている。


「大きいね。あれがエリアボスなのかい?」

「はい。エリアボスのグレートドックです」


 防衛大臣の質問に答えたのは、シーカー協会の黒田さんだ。僕が色々隠していると、勝手に邪推する面倒な人。


 一〇〇体以上のエアードックを倒し、その返り血を浴びた量産型プロトタイプβ型が悠然とグレートドックへ近づいていく。

 お互いにこんな奴には負けないとでも言っているかのような佇まいをしている。


「こちらα。電磁投射砲レールガンの準備完了。敵エリアボスを狙撃します」


 二尉に昇進した大場さんが量産型プロトタイプα型の電磁投射砲レールガンで狙撃するとスピーカーから聞こえて来た。

 量産型プロトタイプα型とグレートドックの距離はおよそ五〇〇メートルだろうか、かなり遠い。


電磁投射砲レールガン、発射!」


 大気の壁を突き抜けて、音速をはるかに超える速度となった弾丸がグレートドックに向けて一瞬で飛翔した。

 だがグレートドックはその攻撃を間一髪で避けた。まるで攻撃が来るのを予測していたような動きだった。


「グレートドックの視界はほぼ三六〇度です。全方向からの攻撃を察知できます」

「察知できてもあの速度で迫る弾丸を回避できるかね? まったく……凄い反応速度だ」

「それがエリアボスというものです」


 こんな魔物の相手をするのだから、シーカーが必要だと黒田さんが防衛大臣に語っている。シーカー協会の重要性を語って、自分の立場を良くしようという意図が透けて見える。


 量産型プロトタイプβ型が動き出した。同時にグレートドックも地面を蹴り、一気にトップスピードに達する。

 スピーカーから倉橋三佐の気合の入った雄叫びが聞こえる。

 あの速度についていくのだから、倉橋三佐も必死なんだと思う。

 第一エリアと最も浅いエリアだけど、エリアボスを相手にするのだから尋常じゃない集中力が必要だと思う。


 量産型プロトタイプβ型のエネルギーソードがグレートドックの顔を狙った。グレートドックは素晴らしい反応を見せて左に飛んで避けた。エネルギーソードを防御するのは、かなり危険だと思ったようだ。

 僕もエネルギーソードを生身で受けたいとは思わない。高収束された高密度レーザーによって焼き斬られる未来しか思い浮かばないからだ。


「スマートメタルってぇのも、かなりのものだな。あれだけの高速戦闘ができるなら、本気でシーカーの廃業を考えないといけないぜ」


 量産型プロトタイプβ型とグレートドックの戦闘を見て、金井さんが肩を窄めた。


「でも、せいぜい五級シーカーです。それ以上はレヴォリューターでないと厳しいですよ」

「それだって現状の話だろ? ああいうものの進歩は早いんじゃないか? 一〇年もすれば、四級や三級シーカー相当のスマートメタルが現れても不思議じゃないだろ」


 金井さんの言うことは正しいかもしれない。だけどスマートメタルは進化するかもしれないけどそのパイロットが一般人では、あれ以上の高速戦闘についていけないと思う。あの戦闘もパイロットの限界を超えたところで必死で戦っているはずだ。

 人間の反応速度や運動能力というのは、スマートメタルを操縦しているからと言って上がるものではない。

 もっとも、そういったことを補助するようなシステムが開発されるかもしれないし、そもそも人間の代わりにAIが操縦する未来があるかもしれないけど。


 共に機動性をフルに生かした高速の攻防が繰り広げられる。

 僕たちシーカーはその攻防を見ることができるけど、一般人の防衛大臣や議員先生たちはついていけないようだ。

 この戦いを見て思ったことがある。パワー型の魔物のほうがスマートメタルの強みが生かせるということだ。速い魔物との戦いは、パイロットの反応速度や練度に大きく左右されるんじゃないかと。


 ヨリミツを見ると、眉間にシワを寄せて画面を睨みつけている。

 多分だけど僕と同じことを考えているんじゃないかな。こればかりはさすがのヨリミツも簡単な話じゃないと思う。


 自衛隊はE級とF級のダンジョンを管理しているということだから、そこでスマートメタルを運用するならここまで苦戦することはないだろう。それにC級ダンジョンでも、パワー型の魔物なら戦えると思う。

 要は相性の問題だと思う。なんでもかんでもはさすがに難しいよね。


 そんなことを考えていたら、戦いに決着がついたようだ。

 グレートドックが激しく地面に打ちつけられ、地面を転がった。


「「「おおおっ!」」」


 前足が完全に切り落とされたグレートドックは、虫の息で立つこともままならない。

 量産型プロトタイプβ型のボディには爪の痕がついているが、致命的な傷ではなく戦闘の続行は可能だ。ただしパイロットの倉橋三佐の疲弊はかなりのもので、スピーカーから激しい息遣いが聞こえる。


「倉橋三佐。大丈夫かね?」


 源田陸将がマイクに向かって聞くと、倉橋三佐は問題ないと返事した。


「とどめをさせるかね?」

「はい。大丈夫です」


 最後の詰めを誤らず、倉橋三佐はグレートドックにとどめを刺した。

 これで今日の実戦試験の目的は果たした。あとは無事に地上へ戻るだけ。


「「あっ!?」」

「どうした!?」


 スピーカーから倉橋三佐と大場二尉の驚くような声がした。


「こちら倉田です。只今、特殊能力を得ました」

「大場です。同じく特殊能力を得ました」

「「「おおおっ!」」」


 今日一番の歓声が起こった。

 まさかここで特殊能力を得られるとは思ってもいなかった。

 もしかして最近は特殊能力の安売りをしているのだろうか? 僕は六つ、ミドリさんたちは二つずつ特殊能力を持っている。

 僕の場合は隠し通路の発見によるものやあの地獄の門の下の出来事があってのことだけど、ここはノーマルのフィールドだ。かなり運がいいと言うべきかな。


 その後は防衛大臣や源田陸将、それに議員先生たちが大騒ぎして面倒くさかった。

 金井さんも嫌な顔をして、騒ぐ人たちに冷ややかな視線を向けていた。

 ここがダンジョンの中だと忘れているような騒ぎだ。


 ダンジョンから出た後は、打ち上げだ。僕は帰りたかったけど、無理だった。

 ホテルの大きな宴会場のようなところで、立食形式の打ち上げが行われた。

 防衛大臣、各議員先生、そして源田陸将など多くの人が話をする。それだけで数十分。早く終われと部屋の片隅で飲み物を持っていると、一時間以上してやっと話が終わった。

 その間に誰も食事に手を付けない。僕はお腹が減って死にそうだったよ。

 さて食事だと思ったら、今度は安住社長がおいでおいでするんだよ。僕はお腹が空きました!


 防衛大臣や議員先生たちと親睦を深める。僕は笑顔という仮面を顔にはりつけて「そうですね」と相槌を打つ。

 やっと解放されると思ったら今度は二人のパイロットが挨拶周りをして、僕もその挨拶を受ける。いつ食事できるのだろうか?


「いい機体に仕上がりました。これからも安住製作所の研鑽に期待をしています」


 安住社長と共に倉橋三佐の挨拶を受け、その次は大場二尉の挨拶。それが終わってやっと食事かと思ったら、時間が来てお開き。って、おいっ!

 お腹すいた……。僕の夕ご飯……。


「ただいまー。アイカ、ご飯ある?」


 転移ゲートでマンションに。


「あれ、お兄ちゃん。今日は泊まりじゃなかったの?」

「そう思ったけど、帰って来た。もう本当に面倒だったよ。で、ご飯は?」

「ご飯なんてないわよ。外で済ませなって、お金くれたじゃん」


 そう言えば1人で食べるのは味気ないと思って、友達と食事でもして来いと言ってお金を渡したんだった。

 何かないかと、キッチンを見ても特にない。

 あ、カップラーメンがあった!

 このカップラーメンがなかったら、収納に入れておいた保存食でも食べようと思ったところだ。


「ずーっ……」


 ホテルの料理がカップラーメンに変わった。もう二度と国会議員との立食パーティーなんて行かないぞ!

 いい機会だから昇級試験が終わったら、美味しいものの食べ歩きをしようかな。出来たての料理を収納しておけば、いつでも食べられるもんね。



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