第66話 四級昇級試験

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 066_四級昇級試験

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 時間は朝の九時丁度。僕は四級昇級試験を受けるために東京の本部へと入った。

 綾瀬部長ともすっかり顔見知りだね。


「今回はあるダンジョンに入って、ある魔物の魔石を回収することが試験の内容です」

「試験は討伐ということですか」

「そうです。入ってもらうダンジョンはCランクの目黒ダンジョン。狩ってもらう魔物はブラックオーガ、第三エリアのエリアボスです。期限は四日後の午後三時までです。

「今から準備してダンジョンに挑めということですね」

「その通りです。そういったことを含めて、試験になります」

「今回は試験官は居ないのですか?」

「居ませんよ。期限までに指定の魔石を納品していただく。それだけです」

「それだと不正する人が居ませんか?」

「不正して昇級しても、死ぬだけです。四級やB級ダンジョンはそんなに甘いものではありませんから」

「なるほど……」


 B級ダンジョンに出てくる魔物の強さは、C級ダンジョンどころではない。

 シーカー協会はできるだけシーカーが無謀な行動をしないように注意を促しているが、最終的にはシーカーが自分で決めること。

 それで大怪我をしたり死んでも自己責任。シーカー協会は不正して昇級した者が死んでも責任を取ることはない。ダンジョンの中はそれほど過酷な場所だということ。


 綾瀬部長との面談を終えた僕は、目黒ダンジョンの情報をタブレットにダウンロードした。

 同時にアオイさんに電話して、これから目黒ダンジョンに入ると伝える。


「無理はしないでくださいね」

「命大事だから、ほどほどで帰ってくるよ」


 嘘じゃない。僕の手に負えないようなら、早々に帰ってくる。

 今回ダメでも試験はまた受けられる。四級になれないのは悔しいけど命のほうが大事だ。


 タブレットにダウンロードした情報を確認すると、目黒ダンジョンは洞窟型なのが分かった。魔物の種類は人型が多く、その中でもオーガ系が多い。

 オーガはパワーもあるけど、スピードもある。しかもゴブリンやオークよりも頭がいい。バーサーカーモードになると全回復して戦闘力が二倍に上昇する。とても厄介な魔物だ。


 スマートメタルの実戦試験の時にハグレのオーガが現れた。あの時は硬いスマートメタルの装甲を大きく凹ませるほどのケリを放ったっけ。

 オーガ系の魔物のほとんどはバーサーカーモードになる。戦闘力が二倍になるだけでも厄介なのに、全回復するのが地味に厭らしい。

 そんな魔物のしかもエリアボスをソロで倒すのは、厄介極まりない。だけどパワー型のオーガ系は僕にとってとても戦いやすい相手だ。


 山手線の目黒駅で降り、ダンジョンそばのシーカー協会で着替えた。装備は収納の中に入れてあるから、いつでも取り出せる。収納してなくても、転移ゲートを通れば一瞬でマンションに到着するからそこまで変わらない。


 目黒ダンジョンに入ってマップを確認する。洞窟型だから曲がり角さえ間違えなければ、道に迷うことはない。

 最短の道は罠が多いようだけど、それも『魔眼』があれば全部見える。罠が見えたら『結晶』でその力場を封印すれば、安全な道の出来上がりだ。


 罠の力場を封印しても、一時間もすると復活する。この目黒ダンジョンの罠の回復・再配置は魔物よりも早いらしい。


 さっそく魔物が現れた。オーガだ。

 スマートメタルと戦ったハグレのオーガは戦斧を持っていたけど、普通は僕の背丈よりも長い金棒を持っている。今回現れたオーガも金棒を持ち、通路の一定範囲を徘徊している。


「空間切断」


 オーガの上半身と下半身が分かれた。一瞬で生命力がゼロになるからか、バーサーカーモードは発動することなく消えていった。

 魔石を拾って先に進むと、今度は二体のオーガが現れた。


「ストップ」


 動かなくなった二体に近づき、その分厚い胸板をコンコンと叩いてみる。


「硬っ。何この硬さ、鉄かよ」


 腕なんか僕の胴体くらいありそうなくらい太い。スマートメタルと力比べして互角なのも頷けるよ。

 空間壁を水平に出してその上に乗り、額の角を触ってみる。想像通りの硬さがある。こんな角で刺されたら痛いどころではないよね。


 さて、いつまでもオーガ鑑賞しててもいけないので、二体共『結晶』で生命力を封印することに。一気に生命力を封印できないから、もしかしたらバーサーカーモードが発動するかと思ったが……。

 結果としてバーサーカーモードは発動したけど、ストップ中だと動けずに回復した生命力も含めて結晶になった。


「バーサーカーモードは発動損という感じだね。ご愁傷様」


 消え去るオーガに手を合わせる。


 順調に最短距離を進み、第二エリアに入った。第一エリアのボスはいなかった。

 僕の目的である第三エリアのボスも、倒されてポップ待ちになるかもしれない。それを考えると、早めにボスエリアに到着してボスのポップを待たなければいけない。

 もしボスのポップ待ちをしているシーカーが居たら、それも待たなければいけない。


 速足で進むことにした僕は、この時気づいていなかった。まさかあんなことになるなんて……。


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 第三エリアにはその日の夕方を少し回った頃に到着した。戦闘は控えめにして、移動速度を優先させたから早くついた。

 第三エリアのボスは居ない。いつ倒されたか分からないため、このままここで待機することにした。幸いなことにボス待ちのシーカーは居ないようだ。


 ダンジョンの中は外と違って時間の経過で暗くなったり明るくなることはない。

 いつも一定の明るさで、スマホやタブレットで時間を確認しないと、時間経過が分からない。


 僕がここでボスのポップ待ちをしていると、何度か第四エリアへ向かうシーカーが僕の前を通っていった。

 シーカーたちは僕がボスのポップ待ちをしているんだと気づいていて、僕のような弱そうな奴が一人で無謀だと思いながら通り過ぎていく。言われたわけじゃない。目がそう語っていたんだ。


 ボスのブラックオーガを待つこと5時間。深夜になってさすがに眠くなった時に、奴は現れた。

 黒い皮膚をした一本角の巨躯。その巨躯にも負けない巨剣を持ったブラックオーガだ。


 僕はブラックオーガの前に進み出る。視線が交差し、ブラックオーガの殺気が僕を包み込んだ。

 これまで多くの魔物と戦ってきたけど、ブラックオーガの殺気はその中でも最上位の恐ろしさを感じた。


「悪いけど、眠いからすぐに済ませるよ」

「Gruuu」


 僕の言葉が気に入らなかったようで、ブラックオーガは巨剣を振り上げた。

 ただでさえ大きいのに、巨剣を振り上げるとその威圧感は凄いものがある。

 でも僕だって負けてない。カラドボルグを抜き、その巨剣を受け止める。


 両足が地面に陥没するほどの衝撃があり、僕の足元にクレーターができた。

 さすがのパワーだけど、僕だって伊達にC級ダンジョンを踏破していない。『SFF』もブラックオーガをはるかに凌駕している。


 しかしカラドボルグはさすがの性能だ。質量で言えば半分どころか一〇分の一ほどしかないような細さなのに、欠けることなく巨剣を受け止めてくれる。

 巨剣を押し返すと、ブラックオーガが後方へ下がった。それが意外だったのか、ブラックオーガは表情を強張らせたり目を丸くしたりした。


「Graaaaaaaaaa」


 怒ったブラックオーガは、鼓膜が破れそうな雄叫びをあげた。


「うるさーーーいっ」


 僕も負けてられないから大声を出すが、あの巨体から発せられる声には敵わなかった。無念。

 声では敵わなくても、戦いで負けるつもりはない。僕は一気に接近して、カラドボルグを振り切った。


 ブラックオーガは避けようとしたが、間に合わず右腕を切り落とす。

 悲鳴をあげるブラックオーガに追撃して、左の胴を深々と切り裂いた。


「まだまだぁっ」


 一気に畳みかける。あっという間にブラックオーガの生命力は減っていく。

 そしてバーサーカーモードが発動し、生命力が一気に全快する。


 僕は距離を取って『結晶』を発動させた。

 ブラックオーガは僕を追ってくるが、僕のほうがスピードがある。


 生命力がグングン減っていくブラックオーガは、僕に追い付けないまま動きが悪くなっていった。

 空間の壁を出して隔離しても良かったしストップで動きを止めても良かったが、色々な戦い方を試そうと思ってやってみた。

 マラソンぽくなったけど、まあいいや。


『結晶』で倒してしまうと魔石が手に入らないから、最後はカラドボルグでその太い首を切り飛ばした。


「Guraaaaaaa……」

「ふー。これで四級だ」


 魔石の他に珍しく宝箱が出て来た。

 罠はなさそうだから、開けてみる。


「これは……ダンジョンクリエーターか」


 久しぶりに見た黒いリンゴが鎮座していた。政府買取限定のアイテムだ。

 ダンジョンを作り出す特殊なアイテムだけど、前回のダンジョンクリエーターはどうなったのかな? あれ以降、ダンジョンが増えたとは聞いてないけど。


 魔石とダンジョンクリエーターを収納し、立ち上がって腰を腕を上げて伸びをする。

 こんなに簡単に試験をクリアできて、拍子抜けだ。


「さあ、帰ろぐあっ!?」


 背中が焼けるように熱い。痛い。なんだ、何が起こった!?



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