第2話

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 002_結晶の力

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「各務裏穏様」


 シーカー協会で僕の名前が呼ばれた。僕の名前は各務裏穏かかみりおん。学生時代の友達はカカミは言いにくいと言って、リオンと呼んでいた。


 大学を卒業する時の僕は、就職先もなくて非常に困った状況だった。その頃は全国平均の求人倍率が〇・七一倍だったので、多くの新卒者が就職浪人になった。


 就職浪人になりたくなかった僕は、誰でもなれるシーカーになった。就職浪人という言葉から逃げたかったんだ。

 シーカーは自営業だし、怪我をしたり死んでも自己責任の職業。その代わり、ある程度の実力を身につけると、そこそこ儲かる職業でもある。


 僕がシーカーになって、二年二カ月が過ぎようとしている。

 シーカーには下は一〇級から上は一級、そして頂点に特級の階級がある。僕は最底辺の一〇級シーカーだ。


 普通は半年くらいで一〇級から九級に昇級できるんだけど、僕は『結晶』が戦闘の役に立たなかったこともあって二年経っても一〇級のまま。それが他のシーカーからバカにされる理由だった。


 受付に行くと魔石の買取金額を受け取った。今回は極小五級の魔石四個、金額にして八〇〇〇円。


 今回はあの大きな魔石は出していない。あんな魔石を僕が出したところで、誰も僕が魔物を倒して得たと信じてくれないと思ったんだ。なんと言っても二年以上も一〇級シーカーをしている落ちこぼれだからね。


 下手をしたら、盗んだと疑われると思うんだ。『時空操作』と『魔眼』を得たとはいえ、まだ十分に力を使えていない。ユニークモンスター同士が戦っていたら、もっと化け物が現れて二体を屠ったなんて、誰も信じてくれないと思う。


 また、鎧と指輪の確認もまだ頼んでいない。鑑定料がかかるので、懐具合がよろしくない今の僕では、鑑定を頼めないんだ。


 僕にトレインを擦りつけたあの悪質シーカーのことをシーカー協会に言おうと思ったけど、これも止めた。どうせ万年一〇級シーカーの言うことなんて、誰も真に受けないし証拠もない。

 はぁ……。僕ていつからこんなに卑屈な考えをするようになったんだろうか。

 でも、こんな考えも今日までだ。明日からは新しいリオンの物語が始まるんだから!


 風呂なしトイレ共同で一カ月の家賃が二万八〇〇〇円のアパートに戻った僕は、『結晶』と『魔眼』について考えた。

『魔眼』は色々な力を認識できる特殊能力で、『結晶』は認識できる力を結晶にする効果がある。

 非常に相性が良い二つの特殊能力を使って、色々できるはずだと僕は思った。


 以前、コンロの炎を結晶に封印しようと思って試したことがある。

 でも、コンロの炎を封印することはできなかった。なぜかと考えた結果、「認識できる力」というものを明確に認識できなかったのだと思った。

 では、「認識できる力」とは何か? そこがよく分からなかったんだ。


 でも、『魔眼』は力を認識できる特殊能力。

 コンロに火を点けて『魔眼』を発動させると、見えていた世界が切り替わった。なんというか、サーモグラフィのような視界だ。

 本来は青っぽい色のコンロの炎は、『魔眼』を通すことで白っぽいものになった。しかも、炎の揺らぎがなくて、直線的に一〇センチくらいが力場になっている。

 炎の力場を視認した僕は、『結晶』を発動させてそれを封印した。


 ―――力場が消えた。

『魔眼』を解除して手の平の上を見ると、直系五ミリほどの赤みをおびた結晶があった。


「よし!」


 思わず結晶を握りしめてガッツポーズし、飛び上がった。

 ドスンッドスンッと飛び上がっていたため、一階の住人に苦情を言われて気づいたけど、ガスが止まっていなかった。

 慌ててガスを止めて、窓を開けて換気した。

 それからは『魔眼』で何が見えるかという検証を始めた。


 翌日、僕はダンジョンに向かった。ダンジョンの最寄り駅で電車を降りた僕は、大きなバックパックを背負っている。

 バックパックを背負っているので、通勤通学ラッシュを避けた時間の重役出勤だ。

 シーカーは出勤時間を自分で決めることができるので、そこは優越感がある。


 本当は『時空操作』で別空間にバックパックを収納できるんだけど、使わない。大事なものは別空間に収納してあるけど、いきなり僕が荷物なしでダンジョンに入ったら違和感があると思うから。

 僕は悪い意味で有名人なので、大きな変化を見せないようにしている。


「ああん、なんでお前が居るんだよ」


 ダンジョンに入ろうとしたら、不意に肩を引っ張られた。


「てめぇ、なんで生きてるんだ」


 そこには僕にトレインを擦りつけた三人のシーカーがいた。

 僕よりも後にシーカーになったけど、僕とは違ってすぐに一〇級から九級に昇級して、今は八級の三人。なぜか僕に絡んでくる三人。


「君たち、今度あんなことしたら、シーカー協会に言うからね」

「はんっ。俺たちが何をしたって言うんだ、えぇっ!?」

「お前のような万年一〇級が何威張っているんだよ」

「てめぇのような無能は、さっさと野垂れ死ねよ」


 三人は人目も気にせずに、僕に絡んできた。

 人目のある場所で、僕に手を出すようなことはしない。今までも嫌味を言うことはあっても、手を出さなかった。トレインを擦りつけたのも、おそらくは嫌がらせ程度の軽い気持ちなんだと思う。


 彼らには遊びの延長線なのかもしれないけど、やられた人はたまったものではない。そういうことを考える頭はないけど、人前で手を出さない程度は考えられる頭はある。厄介な人たちだ。


 三人は言いたいことを言って、ダンジョンに入って行った。

 気分が悪くなったけど、僕もダンジョンに入る。

 坑道のような岩が剥き出しの道を進む。あまり明るくはないけど、なぜか視界が確保できる。これがダンジョンの特徴。


 最初に遭遇したのは、ダブルヘッドラビット。頭が二つあるウサギで、動きが速くて攻撃を当てるのが大変な魔物。

 もっとも、それは今までの僕の基準なので、一般的には最弱の部類の魔物。


 僕は短剣を抜いて『時空操作』の転移を発動させた。目の前に水のような幕ができて、そこに短剣を勢いよく突き刺した。


「ピギッ!?」


 ダブルヘッドラビットは悲鳴のような声を残して倒れた。

 何をしたかというと、転移のゲートをダブルヘッドラビットの腹の下に出しただけ。

 短剣を勢いよく突き入れたらダブルヘッドラビットの腹に短剣が刺さって、息絶えた。


 見える範囲に居る魔物なので転移ゲートを適切な大きさにでき、場所も正確にダブルヘッドラビットの下に出せた。これなら身体能力は関係なく、魔物を攻撃できる。

 ダブルヘッドラビットは透明な魔石を残して消えた。極小五級の一番安い魔石だ。


 次はゲッコウフロッグという魔物。体長が五〇センチくらいのカエル型の魔物なんだけど、舌が長く五メートルくらいがその射程距離になる。

 でも、僕はもっと遠くから攻撃できるんだよね。

 転移ゲートを首の下に出して、短剣を突き入れた。


「グゲッ!?」


 そのまま左に短剣を動かして喉を裂いた。喉を裂いた感触が手に残り、ゲッコウフロッグは消えて魔石を残した。

 今まではできるだけ避けていたゲッコウフロッグだけど、こんなに簡単に倒せるなんて嘘のようだ。今までの苦労はなんだったのか……。


 ちょっと進むと、今度は足長クモが居たので、今度は別の戦い方を試してみることにした。

『時空操作』は空間を操作するだけではなく、時間も操作できる素晴らしい特殊能力。だから、時間を操作してみることにした。


 足長クモは八本の長い足の攻撃が危険で、突きと薙ぎ払いを注意しなければならない。

 僕は短剣を構えて足長クモににじり寄っていく。一〇メートルほどのところで、足長クモが僕に気づいて戦闘態勢に入った。

 長い八本の足を器用に動かして僕に迫るんだけど、『時空操作』で足長クモの時間を長くした。

 一秒を一・五秒くらいまで引き延ばしたんだけど、今の僕にはこれが限度。それでも、僕の記憶にある足長クモの動きよりも遅くなった。


 足長クモが長い足で突いてきたので、それを短剣で受けて弾いた。足長クモがよろけたので、横に回り込んでその細い首めがけて短剣を振った。

 攻撃が浅かったようで、足長クモは長い足で薙ぎ払ってきた。それを後方に大きく飛んで躱した僕は、ヒットアンドアウェイを繰り返した。

 五回目の攻撃の後、足長クモが動かなくなって魔石を残して消えた。


 足長クモの時間を長くしても、攻撃を受けると恐怖がある。それでも以前よりは短い時間で足長クモを倒せた。

 短剣ではなく槍のほうがいいかも。でも、その前にお金を稼がないと、武器も買えないんだよね。


 次のターゲットはダブルヘッドラビット。『魔眼』でダブルヘッドラビットを見てみると、もやもやした感じの力場ができていた。それを『結晶』で封印すると、ダブルヘッドラビットは動かなくなって消えた。


「うわー。短剣なしで勝ててしまった」


 これは大きいことだと思う。なんと言っても、僕自身はまったく動いてないのに、魔物の命を奪えるのだから。

 これは人間でも同じことができるんだろうな……。やらないけど。

 ダブルヘッドラビットの魔石を拾って、次の獲物を探すとまたダブルヘッドラビットが居た。


 天井が二〇メートルくらいある高い場所だったので、ダブルヘッドラビットの下に転移ゲートを設置して、反対側の転移ゲートを天井近くに出してみた。

 結果、ダブルヘッドラビットは転移ゲートに落ちて姿が消え、天井付近の転移ゲートから出て地上へめがけて落下した。

 ペシャンコ。大体七階建てのビルから飛び降りた感じなので、生きていたとしても瀕死で動けないだろう。


 次もダブルヘッドラビット。『時空操作』で収納していたコンクリートブロックを、ダブルヘッドラビットの上から落とした。

 でも、当たり所が背中だったせいか、生きていた。今度は頭に落としたら、死んだ。


 コンクリートブロックの落下については、いくつか検証した。

 高さがあると避けられることもあった。高さがないと頭に当たっても生きていることがあった。

 結論としてコンクリートブロックはあまり良くない。もっと重量のあるものなら良さそうだけど、微妙な攻撃だった。


 一番確実なのは、『魔眼』で見て『結晶』で力を結晶に封印すること。これ、確実に倒せる。一〇〇パーセント。

 短剣や剣での攻撃より確実で、しかも一方的に攻撃できるのでチキンハートの僕には丁度いいかもしれない。



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