第3話

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 003_出逢い

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 ダンジョン内で魔物をたくさん倒した。一回の探索でこんなに魔物を倒したのは初めてのことで、とても嬉しい。

 どれも極小五級の魔石だけど、三〇個もあるとそれなりの金額になる。


「きゃぁぁぁ」


 意気揚々とダンジョンの中を歩いて出口に向かっていると、悲鳴が聞こえた。

 無意識に走り出して、角を曲がったところでゲッコウフロッグに襲われているシーカーを見つけた。


 長い舌がそのシーカーの足に絡まりついていて、そのシーカーは動けないようだ。

 僕は転移ゲートを開いて、短剣を振り入れた。舌がスパンッと切れて、ゲッコウフロッグが痛みにのた打ち回った。

 駆け寄った勢いに任せて、飛び蹴り。同時に『魔眼』と『結晶』のコンボで、ゲッコウフロッグの命を奪い取った。


「大丈夫か!?」


 足に絡まった舌が消えて自由になった、そのシーカーに声をかけた。


「は、はい。ありがとうございます」


 マントのフードを目深に被っていたので分からなかったが、そのシーカーは可愛い少女だった。

 年齢は一七、八くらいかな? あまりの可愛らしさに、ガン見するほどだった。


「あ、あの……私の顔に何かついていますか?」

「え、あ、いや、何もついていないよ」


 僕は彼女に手を貸して立たせてあげた。彼女は左足首を痛めているようで倒れそうになった。


「歩けそうにないな。ポーションは持ってないの?」


 ポーションを飲めばすぐに治るくらいの怪我だと思うけど、残念ながら僕は持っていない。ポーションは一本五万円もするので、僕のような金欠シーカーでは買えないんだ。


「ポーションはさっき使ってしまったので、地上に帰る途中だったのです」


 運が悪かったようだね。

 僕がたまたま通りかかってよかったよ。


「肩を貸すから、ダンジョンから出ようか」

「すみません……」


 彼女に肩を貸してゆっくりと歩いていると、足長クモが現れたけど結晶にして倒した。


「え? ……今、魔物が勝手に倒れませんでした?」


 彼女に結晶の話はしないので、誤魔化すことにした。


「きっと誰かと戦っていたんだよ」

「そんな感じはしませんでしたけど……」

「細かいことは気にしないの」

「はい」


 ダンジョン入り口が見えてきた。ひと安心だ。

 彼女をシーカー協会の医務室に連れて行って、俺は魔石の換金に向かう。

 今日は三二個の魔石を持ち込んだ。なんと六万四〇〇〇円になった。初めてこんな高額を得て、僕はとても嬉しくなってしまった。


「今日は数年ぶりに焼肉だ!」


 某チェーン店の焼肉屋に入って、カルビを頼んでから気づいた。


「彼女の名前を聞いてなかった……」


 せっかくの出逢いなのに、連絡先どころか名前さえ聞いてないなんて。もう二度とあんな可愛い子に出逢えないかもしれないのに。残念だ。


「まぁいいか。名前を知ったところで、彼女になってくれるわけでもないんだから」


 店員さんがカルビを持ってきてくれたので、彼女のことよりも肉に意識が集中した。

 焼けたカルビをご飯の上に載せて、カルビでご飯を包むようにして口に運ぶ。美味い!

 数年ぶりの焼き肉は、なんとも言えない美味しさだった。タレがついたご飯がまた美味い。


 無我夢中で食べて、カルビをもう一皿頼んだ。ご飯もお代わりした。こんなに食べたのは、何年ぶりだろうか……。

 振り返ってみると、僕って本当に貧乏だったんだ。でも、これからは違うぞ。『時空操作』と『魔眼』それに『結晶』があれば、僕だってできるんだ。


 翌日も僕はダンジョンに入った。

 魔物を発見すると、結晶にしてその命を奪う。今までと結果は変わらないけど、やっていることは殺戮機械のようだ。

 戦っているという認識が薄くなる作業のような虐殺に、ちょっと考えてしまう。

 でも、魔物を倒して魔石やアイテムを持って帰らないと、僕は生活ができないから狩らないという選択はない。


 これまで一体の魔物を倒すのに、三〇分くらいかかっていた。だから連戦できずに一日五体くらいしか狩れなかった。体力も精神力も限界だった。

 それが今ではほぼ一瞬で戦いが終わる。いや、戦いと呼ぶようなものではなく、ある意味機械的な作業に近い。そのおかげで、三〇体狩っても疲れは以前よりも少ない。


 そして僕はあの地獄の門のところまでやってきた。

 あの時、僕がこの地獄の門に落ちなかったら、こんな未来はなかった。あの時はあの三人を呪ったけど、おかげで『時空操作』と『魔眼』を手に入れることができた。

 ある意味、あの三人には感謝している。でも、トレインを擦りつけるのは、許せることではないけど。


 さらに進むと、エリアボスが居る場所に到着した。初めてここまで来たけど、今はエリアボスは居ないようだ。

 エリアボスを倒すと、二四時間後にリポップする。今は倒されてから二四時間経過していないということ。


 このまま次のエリアに向かうこともできるけど、今日はここで帰ろうと思う。次のエリアのマップを購入しないと、迷子になってしまう。

 もっとも、転移ゲートがあるので、迷子になっても帰れるけど。


 ちょっと休憩して帰ろうと、隅で腰を下ろしたところで五人組みのシーカーが目の前を通って次のエリアに向かった。

 僕も以前はパーティーを組んでいた。だけど、『結晶』が全然使えないと分かると、パーティーから追い出されてしまった。それ以来、僕はソロでこのダンジョンに入っている。


「あの!」


 地上に戻ってシーカー協会に入ろうとしたら、呼び止められた。昨日助けた少女だ。

 今日は淡い青色のワンピースとカーディガンといういで立ちなので、その可愛さが際立っている。そこだけスポットライトが当たっているかのように輝いているようだ。


「あの、昨日はありがとうございました」

「足、大丈夫?」

「はい、軽い捻挫でした」


 彼女は根岸緑ねぎしみどりと自己紹介した。僕は一八歳くらいかと思っていたけど、彼女は二二歳らしい。少女ではなく女性だったねと、心の中で謝っておいた。

 僕も自己紹介してリオンと呼んでほしいと言うと、彼女もミドリと呼んでほしいと言った。


「まだシーカーになって一カ月くらいなんです。それで上手く戦えなくて……。リオンさんに助けてもらわなかったら、今頃私は死んでいたと思います。本当にありがとうございました」


 ミドリさんは何度も頭を下げ、僕に感謝していると言った。


「お礼がしたいのですが、これからお時間ありますか?」

「そんなに気にしなくていいよ」

「それでは私の気がすみません。今日、時間がなければ、改めてお時間を作ってもらえませんか」


 こうまで言われて断り続けるのは難しくて、僕は魔石の買取後ならと了承した。

 今日は五二個の極小五級魔石を換金したので、一〇万四〇〇〇円になった。過去最高額を更新して、僕の顔はニコニコだ。

 ATMで半分を貯金してから、更衣室で着替えて彼女のところに向かった。


「お待たせ」


 シーカー協会の前から出ているバスで、都心へ向かった。どこに連れていくのかと聞くと、彼女は食事に行くとだけ答えた。

 しかし、会話がない。こういう時に僕の口下手さが恨めしい。


「ここです」

「え?」


 そこは某有名ホテルに入っている高級レストラン。


「えーっと……ドレスコードがアウトっぽいんだけど」


 僕はジーパンと七分袖のTシャツ、それにパーカーといういで立ちなので、どう考えてもこんなレストランに入れないと思う。


「大丈夫ですよ」

「そ、そうかな……」


 レストランに入ると、何も言われずに席に案内された。

 意外と緩いレストランなのかなと思いながら、メニューを見た。


 ―――読めない。

 英語……ではなくフランス語かな? さっぱり分からない。


「リオンさん、何を食べますか?」

「えーっと……」


 読めないと言うのは恥ずかしい。でも、全然分からないので、僕は彼女のほうに顔を出してぼそりと呟いた。


「全然読めないんですけど」


 恥ずかしいけど、庶民寄りの貧民の僕に、このメニューの解読は無理だった。


「あ、ごめんなさい」

「いや、僕が勉強不足なだけなんで、気にしないで」


 彼女はニッコリほほ笑むと、僕に肉か魚のどちらがいいか聞いてきた。

 肉は昨日焼き肉を食べたから、魚かな。


「でしたら、ヒラメのムニエルなんてどうでしょうか?」


 ムニエルってなんだろう? よく分からないけど、それでいいと答えた。他にも聞かれたけど、彼女に全部任せた。


「ワインは何にしますか?」

「えーっと、僕、お酒は飲めないので」

「そうなんですね、すみません」

「僕のことは気にしないで、ミドリさんは飲んで」


 結局、彼女はワインを頼まなかった。僕に気兼ねする必要はないのにね。

 しかし、メニューに値段が書いてなかったけど、ここいくらするのかな……。

 最後に、彼女がお会計をしてくれたんだけど、ミドリさんはカードを出していた。そのカードの色が真っ黒でお洒落だなと思った。


「今日はご馳走になりました。美味しかったです」


 料理の味なんて覚えてません。

 フォークとナイフの使い方を彼女のマネするだけでアップアップだったし、スープを音を立てずに飲むと味わえないよね。

 でも、こんな可愛い子と食事できて、僕は幸せだった。もう二度とないかもしれないので、胸の中のアルバムにしっかり保存しておこうと思う。



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