いずれは最強の探索者

なんじゃもんじゃ/大野半兵衛

第1話

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 001_希望の光

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 僕は今、とても困っている。困っているどころか、生命の危機に瀕している。

 一時間ほど前にダンジョンへ入った僕だけど、たくさんの魔物に追われて逃げている時に地獄の門と言われている巨大な亀裂に落ちてしまったのだ。


 落ちた瞬間、僕は死んだと思った。でも、なぜか生きていた。

 そこまではまだ運があるんだと、喜んだんだけど……。


「なんでこうなったんだろうか……」


 落ちる途中で気絶した僕だが、地響きを感じて目を覚ましたら巨大なドラゴンがやってきた。

 慌てて近くの岩の陰に隠れたはいいけど、そのドラゴンはそこで寝息を立てている。

 寝ているから立ち去れると思うかもしれない。しかし、そうは問屋が卸してくれない。

 僕がちょっとでも動くと、ドラゴンの尻尾がピクッと動くんだ。まるで僕の存在を認識しているかのように動くから立ち去れないんだ。


「こんなことになったのも、あいつらのせいだ」


 僕はダンジョンを探索するシーカーという職に就いている。シーカーは誰でもなれるけど、魔物が居るダンジョンを探索するので命の危険がある職業。

 シーカーは特殊能力を持つ人が多く、そういう人のことをレヴォリューターと言う。

 レヴォリューターは人類が進化した姿だと言う人も居るけど、僕はそうは思っていない。理由は僕自身がレヴォリューターなんだけど、進化した人類だと実感できていないから。


 レヴォリューターの特殊能力は千差万別あって、人気があるのは『肉体強化』という身体能力を強化する特殊能力。

 一般人が肉体を鍛えれば、リンゴを握り潰すくらいの力をつけることができる。でも、『肉体強化』を持つレヴォリューターは鉄球さえも握り潰せるようになる。

 他にも『火操作』という特殊能力も人気がある。これは火を自在に操って魔物を焼く攻撃ができるんだけど、とにかく派手なので自己顕示欲の強い人が多いレヴォリューターには人気がある。


 僕の特殊能力は『結晶』。『結晶』は結晶を作れる特殊能力だけど、だから何? と言われる特殊能力。

 その結晶が宝石ならまだ良かったけど、作れるのはそこら辺に転がっている小石と変わらない。

 小石を作って投げて攻撃するくらいしか、『結晶』の使い道はない。なのに、それを投げる僕には『投石』の特殊能力はない。


 シーカーは魔物を殺してダンジョンの中にあるお宝を探すような暴力的な職業で、役立たずの僕を目の仇にするようなシーカーも少ないけど居るんだ。

 今日は運悪く、そんなシーカーたちに狙われてしまった。

 そのシーカーたちはトレイン―――多くの魔物を引き連れてくることなんだけど、僕にそのトレインを擦りつけた。おかげで僕は逃げ回る羽目になって、地獄の門に落ちてしまったんだ。


「せっかく助かったというのに、このままじゃ食われてしまう……」


 どうやってこのドラゴンから逃げようか。周囲は開けた大きな坑道で、ところどころに僕が隠れているような岩がある。

 逃げる方法を考えていたら、またズシンッズシンッズシンッズシンッという足音が聞こえてきた。

 現れたのはゾウのような魔物。大きさがゾウの範疇からかなり逸脱しているし、体中に鋭利な角がある。

 ドラゴンもゾウも体長は三〇メートルくらいある。なんで、ぼくだけこんな化け物に遭遇しなければならないのかと愚痴ってしまう。


 ドラゴンが目覚めて首を持ち上げて、ゾウを見た。「なんじゃワレ、ここはオレの縄張りだぞ」「そんなもん、オレの知ったことか」とお互いに言い合っているように睨み合っている。

 これ、めちゃくちゃヤバくない? もし、この二体が戦ったら僕まで巻き添えになってしまう。

 でも、逃げたくても簡単に逃げ出せるような状況ではない。


 戦いは唐突に始まった。

 ドラゴンが体を起こした思ったら、ブレスを吐いたんだ。反対方向へ吐かれたブレスなのに、僕のところにまで熱気が襲ってきた。その熱量に僕の意識が持って行かれそうになったほどで、焼け死ぬかと思った。


 それほどのブレスを受けたゾウだけど、ちょっと焼けているがピンピンしている。

 怒ったゾウは突進してその巨大な象牙でドラゴンを串刺しに……してない。多少は刺さっていてドラゴンも血を流しているけど、そこまで深くないようだ。


 ―――ドスンッ。


「ひぃっ」


 ドラゴンの尻尾が僕の隠れている岩のすぐ前に振り下ろされ、僕は情けない声を出してしまった。

 幸いにも岩があったので地面の破片が当たることはなかったけど、直撃したらこの岩ごと僕はぺしゃんこだ。

 逃げたいけど、逃げられない。このままではいずれ僕は……。


 巨大魔物同士の一騎討ちは、不意に終わりを告げた。

 なんと、その二体を越える超巨体(一〇〇メートル級)のネズミの魔物が現れて、その凶悪な前歯でドラゴンの首を噛み切り、ゾウのはらわたを撒き散らした。


「うっそーーーんっ……ネズミ最強……?」


 あまりの早業に、僕はただ茫然とするしかなかった。

 しかも、そのネズミは二体を倒したら、壁をダダダッと駆け上ってどこかへ行ってしまった。

 もしかしたら寝床のそばで暴れていた二体に、うるさいと苦情(肉体言語)を言いにきたのかな?


「何はともあれ、僕はまだ生きている」


 それが一番重要なこと。そこでふと二体を見つめた。


「まだ消えない? 生きているのか?」


 ダンジョン内で魔物が死ぬと、その体が消えて魔石と希にアイテムを残す。今回の場合、魔物同士の戦いなので魔石やアイテムが残るのか分からないけど、消えないのはまだ生きている証拠だと思う。


「いや、待てよ……」


 今攻撃したら、僕があの二体にとどめを刺したことにならないかな?

 二体はまだ消えてないから死んでいないはずなので、攻撃してみようと思った。

 短剣を持っているけど、瀕死とは言ってもあの二体に近づく勇気は僕にない。死にかけでも、ちょっと動いただけで僕を殺せるはずだからね。


 僕は『結晶』を発動させた。手の平の上に直径二センチほどの灰色の小石が現れる。

 その小石をドラゴンに向けて投げつけ、さらにもう一個小石を作ってゾウにも投げつけた。

 山なりで放物線を描いた小石は、二体に命中した。的が大きいから外すほうが難しい。


「ちょっと離れたところで、様子を見るか」


 小石を投げつけたことで、僕はあの二体からやや離れた岩の陰に隠れた。

 二体を観察すること一分ほど、ゾウが消えた。その直後に、ドラゴンも消えた。

 二体が消えた場所に何かがあるように見えたので、それを回収しようと立ち上がった時だった。僕の頭に天の声が響いた。


【ユニークモンスター棘角象の討伐を確認しました】

【ユニークモンスター棘角象の討伐報酬として、『時空操作』を与えます】

【ユニークモンスター灼熱竜の討伐を確認しました】

【ユニークモンスター灼熱竜の討伐報酬として、『魔眼』を与えます】


 僕は、尻もちをついてしまった。

 天の声を聞いた人は何らかの特殊能力を得る。

 そういえば、ダンジョンにはエリアボスと言われる魔物が居るけど、エリアボスを倒すと希に特殊能力を得ると聞いたことがある。

 あの二体はエリアボスではないけど、ユニークモンスターという凄そうな魔物だから、ちょっと小石を当てただけの僕に特殊能力をくれたのかな。


「これぞ漁夫の利!」


 歓喜に沸く僕の脳内に、二つの特殊能力の使い方が染み渡ってくる。二つとも凄い特殊能力だと、理解できた。


「はは……はははは。僕はもう役立たずじゃない」


 使えない『結晶』しか持っていなかった僕は、他のシーカーたちにバカにされていた。

 そんな僕だけど、凄い特殊能力を二つも得た。


「しかも、『魔眼』は僕が元々持っていた『結晶』と、とても相性がよさそうだ」


『結晶』は小石を作るだけの特殊能力ではなく、力を封じる効果もあるんだ。そして、『魔眼』は色々な力を可視化する特殊能力。

 これまで力を識別できなかったため、『結晶』本来の効果が生かせていなかった。だけど、『魔眼』によって僕は力を可視化できるようになった。


 気持ちが高ぶってしまいドラゴンとゾウのドロップアイテムのことを忘れていた。

 ドラゴンのドロップアイテムは赤色の魔石と鎧だった。

 ゾウのドロップアイテムは黄色の魔石と指輪だった。

 魔石は極小、小、中、大の順にサイズがあって、それぞれの大きさ内でも五段階に分かれている。

 この二つの魔石は、僕が知っている大サイズよりもはるかに大きい。


 魔石の色は透明が一番安く、他の色が高い傾向がある。どの色の魔石が高くなるのかは相場によって変動するので一概には言えないけど、色つきは透明の魔石の倍くらいの金額で買い取ってもらえる。


 鎧と指輪はシーカー組合で鑑定してもらわないと、どういう効果があるのか分からない。たまに呪われたアイテムもドロップするので、下手に身につけるわけにはいかない。


 アイテムは『時空操作』で収納した。容量無限の収納スペースが操れるのはとても便利だ。

 それに、『時空操作』では一度行ったことがある場所へ、移動もできる。俗に言う転移だ。


 僕はとても便利な特殊能力を得てしまった。自然と頬が緩んでいくのが分かった。


「おっといけない。こんなところに居たら、あのネズミがやってくるかもしれないぞ」


『時空操作』でダンジョンの入り口付近へ移動する。姿が消えるのではなく、目の前に水の膜のようなものが出てきて、それを通り抜けるとダンジョンの入り口付近に出た。


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