第37話 矛盾
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037_矛盾
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キリュウというシーカーは、協会が身柄を拘束したらしい。あの映像を見れば、誰が悪いのか明確だった。
魔石を渡さなかったのは、シーカー同士の交渉次第なので罰則があるわけではない。でも、武器を僕に向けたのはマズかった。これは罰則の対象だ。
魔石の扱いに関して罰則がないのに、キリュウが僕に武器を向けたのには理由がある。
助けを求めたにも関わらず魔石を渡すのを拒み、さらには横取りといちゃもんをつけたことがシーカーの間に知られることを恐れてのことだ。
そんなことが知られたら、今後は彼らの救援に応えるシーカーは居なくなる。それどころか、レイド戦のような協力して戦う戦闘にも参加できなくなる。
もしかしたら、今までにも同じようなことをしたのかもしれないが、可能性は低いだろう。そもそも、救援を求めたキリュウたちが弱く、救援した側が強いと思われる。
余裕をもって助けられるから救援するのであって、ギリギリの戦いになるのであればほとんどのシーカーは救援に応えない。
今回、彼らよりも強いであろう僕にいちゃもんをつけたのは、多分だけど僕の容姿が強そうに見えなかったためだと思う。文句を言えば、僕が引くと思わせてしまったのだろう。
それについて、僕に文句を言われても相手にするつもりはない。
他の三人は大した処罰はないと思うけど、キリュウについてはそれなりの処分が下されるはず。
シーカーの犯罪は普通の警察では対応できない部分が多い。シーカーは人外の力を持つため、普通の警察官では対応できないからだ。
ただ、シーカーも魔物を倒さないと時間経過に伴って『SFF』は下がっていくので、拘束されて魔物と戦えない状況になるとキリュウのこれまでの努力(?)は水の泡になるだろう。
まあ、それも彼が選択したことなので、僕がどうこう言うつもりはない。
「キリュウはシーカーの資格を、一年間停止することになった。罰金も徴収した。カカミ君が訴訟を起こせば、少しは慰謝料が取れると思うぞ」
大水支部長からそう聞いて、僕は首を振った。あんな人に関わるつもりはないし、訴訟なんて面倒。
あの魔石はあの後にキリュウじゃない三人からもらった。彼らは本当に申しわけなさそうにしていた。こうやってちゃんと反省している三人に追い打ちをしたくはないのでキリュウとは違って容赦するようにと、大水支部長に言っておいた。
「そうか。まあ、一年間もダンジョンに入れないということは、『SFF』がかなり落ちるだろう。調子に乗るとこういうことになるんだと、キリュウも分かったはずだ」
「『SFF』の低下は、どのくらいになるのですか?」
大水支部長が言うには、引退したシーカーをシーカー協会の職員に雇用した際に、『SFF』の減衰についてデータを取っているいるらしい。このデータは公開されてないけど、極秘というわけでもないと前置きした。
それによると、『SFF』の低下率とか数値は個人差が大きいらしい。
『SFF』を定期的に測定した結果、一年の低下率は最大で六〇パーセント近かったが、少ない人は四〇パーセントくらい。
半年を越えた辺りから減衰が加速していき、速ければ一年半で遅くても二年半で初期値付近まで落ちる。
それでも特殊能力がなくなるわけではないので、普通の人よりは強いのかもしれない。
さて、キリュウのことはシーカー協会に任せ、僕は花ノ木ダンジョンの踏破を目指す。
第八エリアに入って魔物を倒しながら進んでいると、ハグレに遭遇した。
「最近、ハグレの遭遇率、高くない?」
創造神(作者)のアイディアが枯れてしまったのかもしれないと思いつつ、僕は油断しないようにそのハグレを観察した。
第八エリアは巨大な湖と、その中にいくつかの島があるエリア。本来出てくる魔物はサハギンシーナイト、レイクシャーク、ウオーターボム。
今回は第九エリアへ繋がっている通路から一番遠い島に、カメの魔物を発見した。丘の上のようなところから、甲羅干しをしているそのカメの魔物を見下ろす形だ。
「たしか、爆砕タートルだったかな?」
タブレットを出して、ダウンロードしてある魔物リストを検索。
僕のうろ覚えの記憶は正しかったようで、目の前で鎮座しているのは爆砕タートルだった。
爆砕タートルは藍色の甲羅だけで五メートルくらいの大きさがある。頭が三つ、足が八本、尻尾が三本ある。
三つの頭は、それぞれに属性があって、その属性に合ったブレスを吐いて攻撃してくる。
厄介なのはブレスだけではない。
爆砕タートルは見た目通りめちゃくちゃ防御力が高い。その上、甲羅にダメージが蓄積すると、甲羅を爆発させて全方位への攻撃をしてくる。
しかも、爆発させた甲羅の下から新しい甲羅が出て来て、甲羅へのダメージをリセットしてくれるオマケつき。
倒し方は甲羅以外の場所に攻撃して、一気にダメージを与えること。
ただし、頭、足、尻尾を全部引っ込めてしまうと、どこに攻撃をしても甲羅への攻撃として判定されてしまうらしい。これ、謎仕様と書いてある。
「甲羅以外の部位に、一気に大ダメージか……」
僕は爆砕タートルを見つめた。現在は首などの部位は全部引っ込んでいる。この状態の爆砕タートルに攻撃したら、全て甲羅への攻撃と判定される。
「これ、僕のドリル弾とどっちが強いんだろうか?」
矛盾の語源になっている「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」のことを思い出してしまった。
ドリル弾の威力マシマシ仕様を、あの状態の爆砕タートルにぶち込んだら、どっちが上なのか? 純粋な好奇心が顔を出した。
こう思った以上、やらない手はない。
僕はマッハ越えのドリル弾を準備した。幸いなことに爆砕タートルは動く気配を見せない。爆砕タートルの周囲にはサハギンシーナイトも居るが、こちらも僕には気づいていない。
爆砕タートルまでの距離は、およそ一〇〇メートル。マッハ越えのドリル弾であれば、本当に一瞬で到達する距離だ。その衝撃波でサハギンシーナイトも一掃できるかもしれない。
「ん、気づかれたか?」
サハギンシーナイトの一体が、他のサハギンシーナイトに合図を送っている。五体のサハギンシーナイトが僕のほうへ駆け出した。でも、もう遅い。
「ドリル弾、射出!」
マッハ越えのドリル弾は、衝撃波を発生させる。その衝撃波は僕へ襲いかかるけど、踏ん張って堪えた。初めて耐えれた。ちょっと嬉しい。
射線上にいた五体のサハギンシーナイトの上半身は消失し、残った下半身は遅れてやってきた衝撃波に翻弄された。
サハギンシーナイトなど全く問題にしないドリル弾は、一瞬で爆砕タートルに着弾した。轟音と土煙が発生して爆砕タートルを包み込む。
「やったか?」
そんなフラグのような言葉が出た。だけど、その言葉はフラグにはならなかったようだ。
土煙が晴れて、大きく抉れた地面が露わになった。爆砕タートルは消えてなくなってしまったようだ。
「今回の矛盾は矛の勝ちだね」
もっとも、爆砕タートルは「最強の盾」と吹聴していたわけではない。僕が勝手に興味を持っただけ。
移動途中にサハギンシーナイトの魔石を探したけど、射線からかなり離れた場所まで飛ばされていた。
サハギンシーナイトの魔石は後から回収するとして、今は爆砕タートル跡地だ。
地面は二〇メートルくらいの範囲で抉れ、一〇メートル近い深さの穴になっていた。
その穴の中心部に、魔石があった。穴の底へ下りて、魔石を拾う。大きさは一〇センチちょっと、中魔石だ。等級は分からないけど、青い中魔石なら数百万円になるはずだ。
「さて、これは―――」
魔石の横にはアイテムもあった。それは、ピアス。多分、なんらかの効果があるアイテムだと思う。
アイテムがドロップしたのは、素直に嬉しい。ハグレはアイテムドロップ率が良いから嬉しい。僕は逸る気持ちを抑えて、第九エリアへと入った。ここで転移ゲートを出して、地上へ移動。
シーカー協会のビルが見えてきた時に気づいた。
「サハギンシーナイトの魔石を拾うの忘れてた……」
ピアスのことに意識が行き過ぎて、単純なポカをしてしまった。
今から戻っても、すでにダンジョンに吸収された後だと思う。
ダンジョン内で死んだ人を放置すると、ダンジョンに吸収されて死体も持ち物も残らない。それと同じで魔石を放置すると、ダンジョンに吸収されてしまうのだ。
気持ちを切り替えて、受付に。
花ノ木ダンジョンの第八エリアに爆砕タートルが居たことを報告し、魔石を引き取ってもらう。
「本日、他のシーカーからもハグレの報告がありました。そのハグレの討伐をされたカカミ様の実績を、記録に残しておきます」
「はい、お願いします」
こういった実績は、四級試験を受けるための実績になる。まだ先の話だけど、こういったことをこつこつ積み上げていかないと、四級に昇級はできないんだ。
しかし、他のシーカーがハグレの報告をしてくれて良かった。映像は撮ってあるけど他人の報告があるのとないのとでは、処理のスムーズさが違うからね。
「あと、これがドロップアイテムです。鑑定をお願いします」
「はい。お預かりします」
ピアスの鑑定は二〇分で終わった。結果を聞いた僕は小躍りしたくなったけど、我慢した。
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