第36話 性質が悪いシーカーは一定数居るんだ

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 036_性質が悪いシーカーは一定数居るんだ

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 花ノ木ダンジョンの七層。泥沼エリアを進むとマッドワームの群れを発見した。向こうは僕のことに気づいていない。

 体長三メートル程、直系五〇センチ程の泥の色と同じ薄茶色のマッドワーム。ドロッグと同じように泥に紛れて発見しにくい魔物だけど、マッドワームはシーカーが泥の中を歩く振動に反応するらしい。そのため、ドロッグのような待ち伏せや奇襲はしない。振動へ向かって一直線といった感じの魔物だ。

 つまり、空間の板の上を歩いている僕には気づかない。そこで、どこまで近づいたら反応するか試してみようと思う。


「……まさかここまでとは」


 僕の真下には、マッドワームがうようよ。僕に気づいたような動きはしていない。

 泥の中に居なければ、僕には気づかないということだろう。目や耳、鼻といったものが見えないので、僕に気づかないのかもしれない。

 さらに大声を出してみても、反応はない。そこで、ブロック塀などに使われているコンクリートブロックを、離れた場所に落としてみることにした。


 ―――ジャボンッ。ブクブクッ……。

 その瞬間、コンクリートブロックが落ちた場所に向かって、マッドワームの群れが一斉に移動し始めた。

 泥の中を泳ぐようにスムーズに進むマッドワームたちは、一気にコンクリートブロックに飛びかかった。ガリガリッとコンクリートブロックが噛み砕かれていく。


 以前、ウナギの養殖で餌を与えている映像を見たことがある。結構ドン引きする映像だったけど、あんな感じで我先にとマッドワームが群がった。

 胴体と同じ大きさの口には鋭い歯が無数にある。あの歯で噛まれたら、簡単には外せないらしい。

 しかも、マッドワームの歯には毒があるらしい。噛まれたらその毒で麻痺状態になって、捕食されるんだとか。考えただけでも、身震いする。


 上から見ている僕には一切気づいていないマッドワームに向かって、『結晶』を発動させた。抵抗なく一三個の結晶にできた。それを収納して、魔石を拾う。


 出てくる魔物を屠って、僕は進んだ。何度かシーカーに遭ったけど、お互いに近づかない。特に魔物と戦闘中のシーカーには近づかないのはマナー。

 一般的に助けを求められても、助ける義理はない。それで自分が危険になる可能性もあるからだ。シーカーは自分たちの安全が第一である。


 第七エリアの探索をしたエリアに、隠し通路は見当たらなかった。

 第八エリアに向かおうと思って移動していると、エリアボスと戦っているシーカーたちが居た。

 この第七エリアのエリアボスは、ウオーターゴーレム。三メートルもある巨体だけど、物理攻撃はほとんど効かない。湖の水を切ってもすぐに元通りになるのと同じで、すぐに傷口が塞がってしまう。

 シーカーを見てみると、人数は六人。二人は剣と盾、二人が槍、一人が大剣、一人が戦斧。物理攻撃主体のパーティー構成なのがよく分かる。


「あの構成でよくもエリアボスに手を出そうと思ったね……」


 いやいや、彼らの戦力も知らない僕が、そんなことを言ってはいけない。そう反省した僕はその戦いから距離を取って、第八エリアへの通路に足を進めた。


「ぎゃぁぁぁっ……」


 悲鳴が聞こえたので見ると、大剣装備の一人が倒れていた。もしかしたら、油断して攻撃を受けた? それとも、彼らはウオーターゴーレムの特徴を知らない? これはマズいのかな?

 そう思っていると、盾と剣装備の一人も倒れた。本格的にヤバいようなので、声をかけることにした。


「救援が必要ですか?」


 魔物の優先権は先に戦っていたシーカーにある。横から勝手に魔物に攻撃したらいけない。ただし、相手が救援を求めてきた時は別。

 もちろん、救援して自分が命を落としてはいけないので、救援要請に応じなくても問題はない。

 でも、僕にはウオーターゴーレムを倒せるだけの力があると思う。これは増長でも調子に乗っているわけでもなく、冷静に考えてのことだ。


「た、頼む!」


 助けてほしいと意思表示があったので、用意しておいたドリル弾を射出することにした。


「ウオーターゴーレムから離れて」

「「「「分かった!」」」」


 四人が離脱する。ウオーターゴーレムと倒れているシーカーも距離があるので、問題ない。僕はドリル弾を射出した。

 多分、マッハ越えのドリル弾は、オーバーキルになってしまう。だから、時速七二〇キロのドリル弾にした。

 マッハを越えるとかなりの衝撃波がある。それだと、倒れているシーカーたちにもダメージがあるかもしれない。それでシーカーが死んでしまったら、助けるために救援したのに本末転倒だ。


 高速で飛翔したドリル弾は、ウオーターゴーレムの体に大穴を開けた。しかし、ウオーターゴーレムは倒れる気配がない。それどころか、再生しようとしている。

 そこで『結晶』を発動させた。僕の手の中にウオーターゴーレム生命力を封印した結晶が現れる。もちろん、ウオーターゴーレムは消え去った。


「大丈夫かな」


 シーカーたちに近づき、確認した。

 四人は疲れているようだけど、問題ない。倒れている二人も気絶しているが、生きている。


「助かったぜ礼を言う」

「いえ、無事ならいいのです。怪我をした二人の手当てを」


 ここまで探索できるシーカーなら、ポーションくらい持っているだろうし、後は彼らが自分たちでどうするか判断すること。僕はここまで。

 魔石を拾って立ち去ろうと思って、手を伸ばす。


「ちょっと待った」

「ん?」

「魔石は俺たちのものだ」

「はい?」


 救援を受けた時、魔物の魔石は救援をした人のものになるのが普通だ。救援がなかったら倒せないのだし、全滅を免れたのだから。

 このシーカーはそのことを知らないのかな?


「魔石は救援をした側のものになるのを知らないの?」

「俺は救援してくれとは言ってない。お前が勝手にしたことだ。それは横取りというものだぞ」

「はい?」


 このシーカーは何を言っているんだろうか?

 ああ、そうなのか。僕が一人だからと侮っているんだ。彼のこのような目は、一〇級の頃に多く見て来た。


「援助の依頼をしたのはそっちですけど、してないと言うんだね」

「そうだ。だから、魔石は俺たちのものだ」

「他の人もそういうことでいいの?」


 三人は顔を見合わせて考えるような素振りをする。否定もしないし、肯定もしない。

 どうもこの戦斧のシーカーが、リーダーで逆らえないような感じかな。パーティーになると、こういう支配と従属の関係も珍しくない。腕力がモノを言う職業だから仕方がないところもある。それに、誰かがリーダーシップを発揮しないと、纏まらないということもある。


「なるほど。それならシーカー協会に裁定を仰ぐことにします」

「はんっ、誰も横取り野郎の言うことなんか聞かねえよ!」


 証拠がない。だから、訴えても相手にしてくれない。あの三人と同じだ。助けてもらった恩を感じないのだから、もっと性質が悪いのかもしれない。

 一〇級の時もあの三人やこういったシーカーが存在していることは理解していた。でも、食べるだけで精一杯だったため、そういった対策はできなかった。お金がかかるからね。

 でもね、今は違う。お金に余裕ができた以上、そういった対策はしている。証拠が欲しいなら出してあげる。


「そうですかね? これ、何かわかりますか?」


 僕は小型のカメラを指差した。それがカメラだと理解したのか、そのシーカーは青ざめた。後ろで見ていた三人も、あたふたしている。


「今のやり取りは全部録画してます。このことはシーカー協会に報告し、対応をしてもらいます」

「て、てめぇ、俺たちをハメやがったのか!?」


 えぇ……。どうすれば、そんな思考になるの? 僕、普通のことをしていただけだよ? 勝手に自爆したのは、そっちだよね?


「いや、僕はそんなことしてないから」

「うっせぇ。そのカメラをよこせ!」

「それは無理な話です。僕はこれで失礼します」


 こういった人の相手は、さっさと切り上げるのが一番。僕はこの場を離れようとした。


「逃がさねぇぞ! おい、囲め!」

「………」


 僕は四人に囲まれた。はあ、第八エリアを見たら帰るつもりだったのに、なんでこんなことになってしまったのかな……。

 でも、彼らの主張を認めるわけにはいかない。


「おい、痛い目を見ないうちに、カメラを出せ」

「こんなことをして、許されると思うのですか?」

「ダンジョンの中では強い奴が正義だ!」

「いやいや。よく考えてみてよ。あなたたち六人が勝てなかったウオーターゴーレムを、誰が倒したのかを」


 僕がそう言うと三人が、かなり動揺している。でも、戦斧のシーカーは違う。


「あなたたちもこんなことをしたらどうなるか、よく考えて行動してください」


 戦斧のシーカーは無視して、三人を説得する。三人の行動はあの戦斧のシーカーに命令されたものだから、説得の余地はあると思う。


「キリュウさん。やっぱりこれはダメだよ。素直に謝罪しようぜ」

「俺もこれはダメだと思う」

「こんなことしてはダメだ、キリュウさん」


 三人は武器を下ろした。


「ざっけんなよ! この映像が出たら、お前たちだって処分されるんだぞ」

「キリュウさん。あなたが命じなければ、彼らは武器を向けなかった。あなたは、この三人を巻き込んで悪いことをしたのです。それを理解するべきです」


 そう言って僕は転移ゲートを出した。


「では、さようなら」

「逃がすか! ギャフンッ」


 キリュウというシーカーは空間の壁で囲っているので鼻を打ったようだけど、それは自業自得ということで。


 転移ゲートを通って地上へ。面倒だけどキリュウというシーカーについては、性質が悪いので協会に報告しようと思う。



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