第35話 花ノ木ダンジョン第七エリア
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035_花ノ木ダンジョン第七エリア
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週に一回、僕は重力結晶と生命結晶を、安住製作所に卸す。
「この重力結晶、もっとパワーを込められないか?」
以前、ヨリミツがそんなことを言ったので、今日の重力結晶は今までの三倍くらいの重力を封じている。今の僕ではこれが限界。
その重力結晶を手にしたヨリミツは喜ぶと思ったが、何も言わずに持っていった。だが、僕には分かる。あの後ろ姿は、ワクワクドキドキの研究モード。楽しくて仕方がないんだ。
あの状態のヨリミツに何を言っても聞こえない。お礼の一言くらい言えよと思うけど、もう慣れた。
さて、頭を使うのはヨリミツに任せて、僕はダンジョンに入る。
花ノ木ダンジョンの七層は、これまでのような水の中ではない。泥に足をとらえて移動しづらい泥沼エリアになっている。
出てくる魔物はドロッグというカエル型、マッドワームというミミズ型、そしてサハギンの上位種であるサハギンシーナイト。
さっそく、ドロッグが現れた。茶色の表皮をした一メートルくらいのカエル。裸眼で見ると、泥に紛れて発見しづらい。
だけど、僕には『魔眼』がある。泥の中に居てもドロッグの力場はよく見える。
ドロッグの攻撃は、泥の中からの奇襲と泥爆弾。この泥爆弾は意外とダメージがあって目くらましにもなるらしく、受けるわけにはいかない。
念のためにゴーグルをつける。これをしておかないと、戦闘中に泥が目に入ってしまうかもしれない。
前もって調べた情報では、泥爆弾の射程距離は三〇メートルもあるらしい。つまり、三〇メートル以上の距離を取って戦うのが僕の作戦。
距離を取る戦闘は、二つの手法がある。一つは『結晶』で生命力を封印する方法、もう一つは『時空操作』のドリル弾。
ドリル弾は威力が高いと思うかもしれないが、実はそこまで威力が高くないバージョンもある。
溜め四秒で、時速一八〇キロ。
溜め八秒で、時速三六〇キロ。
溜め一六秒で、時速七二〇キロ。
溜めを三二秒も行うと、時速一四四〇キロ(マッハ越え)になる。
これがドリル弾の溜め時間と飛翔速度の関係。
基本的には毎分一〇〇〇回転させているけど、最大五〇〇〇回転までいける。でも、今のところ一〇〇〇回転で問題ない。
ちなみに、時速一八〇キロで飛翔させれば、一メートルのコンクリートに着弾した時に半分くらいまでめり込んで、それから回転の力で残りの半分を貫通することができる。
ドロッグに向けて、ドリル弾を射出。時速一八〇キロで飛翔し、ドロッグの胴体を貫通した。コンクリートのほうが硬いようだ。
ドロッグが塵となった場所へ行き、泥の中の魔石を拾う。これ、地味に嫌がらせだよね。
泥に足を取られて歩きにくいだけでなく、魔石を拾うと泥が手につく。これは地味にシーカーに疲弊を強いる仕様だと思う。
そうか、拾うのはともかく、歩くのは改善できるかもしれないぞ!
僕は泥の上に空間の板を設置して乗った。動かすのは大変だけど、僕自身がその上を歩くのはそこまで大変じゃない。
進行方向に空間の板を設置して、僕は歩いた。泥に足を取られるよりも、『時空操作』で板を設置したほうが楽なのがいい。
そうやって進むと、今度はサハギンシーナイトを発見した。普通のサハギンよりもかなり大きい。二メートルくらいあるのかな? それに、槍じゃなくて大剣を持っている。
このような泥沼のフィールドであの巨体は動きにくくないかと思ったけど、そんなことはなかった。
「くっ!?」
サハギンシーナイトは接近特化型の魔物で、僕も剣で戦おうと思って近づいた。
そしたら、その大剣でいきなり泥を跳ね上げて、僕の視界を遮った。ゴーグルをしていなかったら、泥が目に入っていたところだ。それでも、ゴーグルに泥がついて視界が悪くなり、僕は先手を取られてしまった。
左胸を切られた僕は、大きく飛びのいて泥沼の中に着地した。ファイアボアの革鎧が護ってくれたおかげで、怪我はない。だけど、下手をすれば大怪我をしていた場面だった。
サハギンシーナイトはそんな僕に時間を与える気はないようで、一気に間合いを詰めてくる。
僕は装備が汚れるのも構わず、泥の上を必死に転がってその攻撃を躱した。
圧倒的な速度ではない。でも、嫌らしいくらいに緩急をつけてくる。これまでにない技巧派の魔物だ。
空間の壁を出してサハギンシーナイトの動きを止めた時には、悲しいくらい泥だらけになっていた。
サハギンシーナイトは空間の壁に向かって、大剣を叩きつけている。
「常在戦場。僕はまだまだだな」
意表を突かれたことで、僕は攻撃を受けてしまった。油断しているつもりはないけど、魔物がそんなことをするなんて思っていなかったことで動揺したことは否めない。
顔から泥を落として、空間の壁に閉じ込めたサハギンシーナイトを見つめる。
空間の壁に攻撃しても無駄なのが分かったのか、大人しくしている。こういった行動を見ると、魔物には思えない。だけど魚のような顔と、感情が感じられないその目は魔物のものだ。
「君は僕によい教訓を与えてくれた。感謝するよ」
空間の壁を解除。サハギンシーナイトは不思議そうな顔をしたが、すぐに大剣を構えた。
僕も抜刀術の構えで、お互いににじり寄る。殺気が僕の頬を刺すように飛んでくる。だけど、師範のような圧倒的な存在感は感じない。フウコさんから感じる絶望感もない。
サハギンシーナイトが動いた。今度は泥を跳ね上げることはせずに、一気に間合いを詰めてきた。
お互いに渾身の一撃。僕の居合は、サハギンシーナイトの胴を真っ二つにした。
「ふー……」
残心して剣を鞘に納める。
体中に泥が付着して、動きが阻害される。僕は一度引き返すことにした。
「ん……もしかして……」
引き返そうと思ったけど、あるアイディアが頭をよぎった。
『時空操作』で体に付着した泥を除去できないか。たとえば、転移ゲートに通過できないものの条件をつけるとか。試してできなければ、素直に帰ろう。
僕は目の前に転移ゲートを出した。泥は通過できないが、それ以外は通れると強くイメージした。
その転移ゲートを通ってみる。ちょっと通りにくい感じがした。でも、通過後の僕の体に泥はついていなかった。
「これはいい。我ながら素晴らしいことを考えたね!」
綺麗になった自分の体をチェックするが、どこにも泥は付着していない。
「これ、色々なことに転用できそう」
もしかしたら、体内に入ったウイルスを除去できるかも。毒だって除去できるかも。共に今すぐ試すことはできないし、したくもない。でも、機会があればやってみようと思う。そんな機会はないほうがいいけどね。
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