第34話 三バカにも名前がある

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 034_三バカにも名前がある

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 五級シーカーになってD級ダンジョン踏破に向けた活動を開始したリオンだが、そのリオンに敵意を剥き出しにした視線を浴びせる者たちが居た。

 かつてリオンに魔物のトレインを擦りつけた三人―――小島一章こじまかずあき中岡定二なかおかさだじ大竹三津雄おおたけみつおである。

 彼らは七級昇級試験に二回落ちた後、今回で三回目の試験に挑戦するつもりだったが、協会の決まりであと二カ月も昇級試験を受けられないことに憤っていた。

 そんな三人の耳にリオンが五級に昇格したことが入ったことで、リオンへの憎しみの炎が大きくなってしまった。


 シーカーは八級になると、一人前と言われる。だが、五級になると熟練者と言われ、C級ダンジョンに入ることが許される。

 誰もが知る役立たずのリオンが、今やシーカーの憧れである五級になった。バカにしていたリオンが、自分たちをバカにできる立場になった。それが許せない三人は、その感情が嫉妬だとも知らずにリオンを敵視していた。


「あんな奴が五級なんて、俺は認めないぞ」

「カズアキの言う通りだ。そんなバカな話があってたまるか、なあ、ミツオ」

「おう、絶対におかしいぜ。協会の中にコネがあるんじゃねぇか」

「「それだ!」」


 彼らはリオンの悪口を言いながら、E級の枇杷島ダンジョンに入る。

 協会にコネがあるなら最初から一〇級を二年以上もしていないのだが、そんなことは彼らの頭にはない。リオンのことになると、冷静さが姿を消して彼らの都合のいいように変換されてしまうのだ。


 カズアキは『身体強化』、サダジは『防壁』、ミツオは『気配隠蔽』の特殊能力を持っている。

 サダジが盾役タンクをして、カズアキが基本的な攻撃アタッカー、ミツオは気配を消して急所を狙った一撃が強力なので、相性は悪くない。

『SFF』は十分に七級になれるだけの数値がある。なのに、彼らは七級で足踏みをしてしまった。それもリオンのせいだと、根拠のない恨みを持っている。


 なんだかんだ言っても、三人は危なげなく第四エリアに至った。この第四エリアはオーク城と言われ、多くのオークが陣取っている。

 三人は四階層の隠し通路に向かった。そこにはオークキングが陣取っているはずだ。


「たしか、オークキングから収納袋がドロップしたんだったな」

「ああ、協会の資料にそう書いてあったぜ」


 サダジが確認すると、資料を確認したミツオが答えた。

 この隠し通路を発見したのも収納袋を得たのもリオンだが、三人はそういった情報は見ていない。さらに、収納袋のような良いアイテムは滅多にドロップしないという情報も見ていない。


 通路を進んで行き、オークキングの待ち受ける謁見の間の前に到着した。だが、扉は固く閉ざされていて、押しても引いても開くことはない。

 残念ながら別のシーカーたちがオークキングと戦っているようだ。


「「「ちっ」」」


 オークキングと戦っているシーカーに聞かせようとしたかのような大きな舌打ちが聞こえた。

 その時だった。謁見の間の扉がガガガッと開いていく。それは戦闘が終わったことを意味するが、オークキングが倒されていたら二四時間待たなければならない。

 幸いにも他のシーカーは一人も居ない。二四時間待てば、オークキングへの挑戦権は三人のものだ。―――待てれば。


 三人は開かれていく扉の隙間から、謁見の間を窺った。

 そこには六人のシーカーが居たが、六人とも倒れていた。そして、オークキングは居ない。どうやら相討ちになったようだ。

 こういった相討ちは稀に起こる。その場合、落ちているアイテムは、発見した者のものになるのが暗黙のルールだ。


「「「ラッキーッ」」」


 六人の死体を無視して、オークキングが落としたであろうアイテムを探す。


「おい、あったぞ」


 ミツオが袋を拾い上げた。


「「収納袋か!」」


 目的の収納袋が得られて、三人は飛び上るほど喜んだ。なんの苦労もなくアイテムが得られるのだから、死んだ六人に感謝だ。

 この六人をこのまま放置すれば、ダンジョンが取り込む。その時は死体ごと装備や持っているアイテムがダンジョンに回収される。

 三人は顔を見合わせ、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。


「せっかくの収納袋だ、持ち帰れるだけ持ち帰るぞ」

「「おう!」」


 カズアキの号令で、三人はシーカーたちの装備を漁り出した。

 そもそも、オークキングのドロップアイテムが、収納袋だとは決まってない。もし、それが呪われたアイテムだったらどうするのか? そういったことをまったく考えて無い三人だった。

 この三人でも日頃はもっと冷静な判断をする。しかし、現在の状況が三人を興奮させて、冷静さを奪った。

 三人が死体を漁っていると、ミツオが漁っていた死体が動いた。


「うわっ!?」


 死んだと思っていたシーカーが動いたため、ミツオは驚いて大声を出してしまった。


「「どうしたっ!?」」


 カスアキとサダジがミツオに視線を向ける。そこで死体が動いていることに目を見張る。


「お、おい、生きてるぞ」


 ミツオはそのシーカーの呼吸を確認した。浅いが呼吸だが、間違いなく生きている。

 そこで三人は他のシーカーたちの生死を確認した。六人とも気を失っているが、全員生きていた。ただし、このまま放置したら、死ぬくらいの大怪我だ。


「どうするよ?」

「面倒だな」


 ミツオとサダジが眉間に皺を寄せた。

 シーカーは他のシーカーを助ける義務はない。怪我をしたシーカーにポーションなどを与えて、自分たちが使いたい時に数が足りなくなったら本末転倒だからだ。

 何よりも自分の命が優先される。それがシーカーである。


 だが、助けられるなら、助けるのは人として当然の行いである。もし、シーカーを助けるために貴重なポーションを使った場合、相場の三倍を返すのが暗黙のルールになっている。

 今、ここで持っているポーションを使えば、少なくとも相場の三倍の金銭を得ることができる。


「殺るぞ」

「「マジか」」


 カズアキの言葉に、二人は目を剥いた。


「こいつらが死んでも、誰にも知られない。だが、こいつらを放置したらこの収納袋は、こいつらのものだ」

「「……よし、殺ろう!」」


 三人の瞳が暗く怪しく光っていた。彼らは欲に負けたのだ。

 今の状態であれば、三人を糾弾する者は誰も居なくなる。

 カズアキは躊躇なく剣を首に刺した。サダジとミツオも同じだ。それぞれが二人ずつ、その首に剣を刺した。

 誰も見ていない。だから、何も悪くない。魔物を殺すのと大差ないことだ。三人の頭の中で、そう肯定される。


「おい、ずらかるぞ」

「「おう」」


 まるで盗賊のような三人が、謁見の間から出ようとした時だった。


「「「っ!?」」」


 三人の脳裏に天の声が聞こえた。


「「「な、なんだとっ!?」」」


 天の声が聞こえた者は、特殊能力を得る。それが常識だ。

 この時、三人は非常に稀な現象に遭遇してしまった。


 オークキングを倒した六人のシーカーは、特殊能力を得るはずだった。隠しボスでも稀に特殊能力を得ることができるのだ。

 今回は六人に特殊能力が与えられる前に、三人に殺されてしまった。それによって六人が手に入れるはずだった特殊能力が、三人へと流れてしまったのだ。しかも六人分。


「「「クククククッ。アーッハッハハハハハハ! 俺たちの時代がやって来たぜ!」」」


 一人に二つの特殊能力。三人は一度にそれだけの特殊能力を得た高揚感に浸った。

 まさかオークキングを倒してもいないのに、特殊能力を得るとは思ってもいなかった三人はあまりの嬉しさに笑い転げた。



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