第10話 第五エリアの隠し通路
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010_第五エリアの隠し通路
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第五エリアの壁にまた力場があったので、その力場を『結晶』で封印したら壁が崩れた。ここまでは第二エリアと同じだ。
隠し通路の中に入っていくと、Y字路になっていた。僕は迷いなく右へ向かった。
右に向かった理由は、こっちが宝箱ぽいから。実際に目の前に宝箱が鎮座している。
宝箱は一つだけだったけど、金の宝箱なので期待に胸が弾む。
前回、第二エリアの隠し通路の宝箱の一つには、罠があった。あの時は『魔眼』で違和感があったけど、この宝箱には違和感はない。多分、罠はないと思うけど、念のために後方から蓋を開けた。
罠はなかった。宝箱の中には本があった。これ、もしかしてレヴォリューションブックじゃないかな。
レヴォリューションブックというのは、特殊能力を持っている人限定のパワーアップキットみたいなもの。ただ、なんでもかんでもではなく、対応した特殊能力だけをパワーアップしてくれるものなので、僕が持っている『結晶』『魔眼』『時空操作』に対応してないほうが可能性が高い。
「五級以上になると、このレヴォリューションブックでパワーアップさせてないとキツイって聞くからな……」
本当かどうかは知らないけど、三級以上になっているシーカーのほとんどはレヴォリューションブックを使っていると聞いたことがある。
これがどの特殊能力に対応しているか分からないけど、それなりに高額になると思う。さすがは金の宝箱だね。
「さて、隠し通路のボスはどんな魔物かな」
Y字路を左へと進むと、一辺が一〇〇メートルくらいある正方形の空間があった。その中心にはなんとオークが居た。
イノシシの頭に人間の胴体、二メートルくらいの巨体をしたオークの口から牙が見える。なかなか大きな牙だし、力士のような体型が威圧感を醸し出している。
第二エリアの隠し通路のボスはホブゴブリンだったけど、第四エリアにも居る魔物だった。しかし今回は、この清洲ダンジョンには居ないオークが金棒を持って仁王立ちしている。
第五エリアのエリアボスよりも強いと思われるオークに、僕は思わずにやけてしまった。
「考えていた戦い方を試す良い機会だ」
四角い空間に足を踏み入れると、入り口に鉄格子が現れた。第二エリアは壁が現れて塞がったけど、ここは鉄格子のようだ。
一人の僕には関係ないけど、鉄格子だと通路から援護できるかもしれないね。
決してボッチじゃないから……。グスンッ。
「僕の心を抉るとは、やるな、オーク!」
怒りをオークに向けた僕は、いつでも『時空操作』を発動できるようにしてオークへ近づいた。
僕が近づいていくとオークは血走った目で僕を睨み、その大きな口をニヤリとさせた。
二〇メートルほどまで近づくと、オークは動き出した。一気に加速して僕に駆け寄る。
あと一〇メートルまでオークが迫ったところで、オークが何かにぶつかって後頭部から倒れた。強かに後頭部を地面にぶつけたオークは苦悶の表情で転げまわった。
「オークの顔面に当たる高さに『時空操作』で箱を作っておいたけど、あんなに綺麗にぶつかるとは思ってもいなかったよ」
時空の箱は無色透明なので、『魔眼』を発動していないと全く見えない。
起き上がったオークが凄く怒っている。地団駄を踏んで、僕を睨んできた。
「そんなに睨まれても手加減はしないよ。僕の『時空操作』がどれだけやれるか、調べる良い機会なんだから」
「ブモォォォッ!」
怒り心頭のオークが僕に向かってくるが、今度は駆けて来ない。また見えない箱に顔を当ててしまうのではないかと警戒したのだと思う。そのくらいは考える頭はあるようだ。
「でもね……」
オークが地面にできた穴に落ちた。
「空間を操れるということは、そういうことなんだよね」
穴といっても地面を掘ったわけではなく、空間を操作して穴が空いたようにしているだけ。
その穴に落ちたオークがきょとんとしているが、すぐに青い肌を赤くして怒り出した。
オークの頭上に、先ほど顔面をぶつけた空間の箱を出す。複数の空間を操作することはそれほど難しくないけど、空間を動かすのは難しいので箱を一度消してから出した。
オークは穴から出ようとしたけど、空間の箱に頭をぶつけて出られない。
「ブ、ブモッ!?」
何が起きたか理解できないオークがなんとかしようともがくけど、それが僕には滑稽に見えてしまう。
「やっぱり攻撃力は大したことないか」
空間箱が頭上にあるだけなので嫌がらせにはなるけど、攻撃力はそれほどない。
箱を動かそうとするけど、すごく不自然にちょっとだけ動く。それが今の僕の限界だった。
空間を円錐状にして、回転させたらドリルみたいになるかな? そう思って空間を操作したけど、これがとにかく難しい。
円錐を作るのはそこまで苦労しないけど、まったく回転しなかったのだ。動かすのも難しいのに、高速で回転なんてできないよね。
やっぱり空間を動かすのは難しいということが分かった。
「これは訓練しないといけないな」
ドリルは諦めて、今度はオークを別空間に隔離してみた。
力士のような巨体を駆使して、その空間を破ろうと暴れまくるオークだったけど、次第に動かなくなってきた。
「激しく動けば、それだけ酸素を使う。それは魔物も同じようだね」
狭い密閉空間で激しく動いて酸素を消費したオークは、自分が排出した二酸化酸素のおかげで空間内の二酸化炭素濃度が上がって、酸素濃度が下がった。これによってオークは酸欠になっている。
「魔物も酸欠になることが分かっただけでも収穫だし、空間を操ることではめ殺しもできると分かった。空間を動かしたりドリルにするのは課題だけど、それが分かったことも収穫だ」
もうオークに用はないので、『結晶』を発動して倒した。
オークが倒れた場所に、魔石の他に肉が落ちていた。オーク肉はキロ一万円くらいで換金できるちょっとした高級食材。それが一〇キロほどあるので一〇万円くらいの価値なんだけど、レヴォリューションブックに較べるとショボイドロップ。
もっとも、レヴォリューションブックがこんなF級ダンジョンで得られるということのほうが異常なんだけど。
「オーク肉は美味しいらしいので、ご褒美に自分で食べようかな」
隠し通路を出た僕はエリアボスを確かめたけど、居なかったので転移ゲートを使って地上へ戻った。
シーカー協会の受付でバックパックからゴロゴロと魔石を出すと、受付の女性職員が驚いていた。
正確に数えたわけではないけど、四日分の魔石なので一五〇個くらいあると思う。
「お待たせしました」
三〇代半ばの女性職員は、魔石の換金の明細を見せて説明をしてくれた。
シーカー協会の受付をしているのはほとんど女性職員だけど、二〇代の人はほとんどいない。僕が二年三カ月ほど通った中に、二〇代の人は居なかった。
シーカー協会の女性職員も男性職員も、シーカーを引退した人が多いからだ。そのため、二〇代の職員はどうしても少なくなる。
「魔石の換金総額は、一〇二万四〇〇〇円になります」
第三エリアから第五エリアの魔物の魔石なので、極小四級と極小三級ばかりだったためか一〇〇万円を越えた!
この他に黄銅の塊なども換金して、僕はとても気持ちが高揚した。
第五エリアの隠し通路のことを報告した。そしたら、
大水支部長は五〇代の色黒の男性で、服の上からもボディビルダーのような鍛えられた体型が分かった。
「
「僕は
「すまない。以後気をつけるよ。それで、隠し通路を見つけるコツでもあるのかね?」
僕はその問いを肯定したけど、『魔眼』のことは教えなかった。
「そういうものはシーカーの生命線だから、秘匿するのは当然だな。愚問だった」
隠し通路を見つけるコツは、シーカーの収入に関わることなので簡単に教えることはない。大水支部長ともなればそのことを理解しているので、無理に聞き出すことはない。
その後、隠し通路に出て来たオークや、金の宝箱があったことを報告した。
「オークからはオーク肉がドロップしたか。あれはかなり美味い肉だ。換金するかね?」
「いえ、自分で食べようと思います」
一〇〇万円も収入があったので、売らなくても資金は十分ある。せっかくなので、自分で食べようと思った。
次は金の宝箱から得たアイテムの話になった。僕はバックパックからレヴォリューションブックを取り出して、テーブルの上に置いた。
「っ!?」
身を乗り出してレヴォリューションブックを凝視する大水支部長は、凄く鋭い目つきになって僕を見た。
F級ダンジョンで出ることがないと思われていたレヴォリューションブックが目の前にあるのだから、その驚きはかなりのものだと思う。
「これはレヴォリューションブックなのか?」
「そう思います。協会で鑑定してもらえますか」
「もちろんだ。君、このレヴォリューションブックを直ちに鑑定に回してくれ」
「は、はい!」
職員に指示を出した大水支部長は、席に座り直した。
「あれが隠し通路にあったのかね?」
「はい。第五エリアの隠し通路に一つだけ宝箱があったのですが、その中から得ました」
「むぅ……あれがレヴォリューションブックだとしたら大変な発見だ。しかし、五つのエリアしかない清州ダンジョンからよくあれほどのアイテムが出たな……」
清州ダンジョンは第五エリアまでしか把握されていないけど、僕は地獄の門の下にあるエリアのことを知っている。
そのことを教えるか迷ったけど、教えないことにした。いつか僕がもっと力をつけた時に、あのエリアを探索したい。それ以前にあのエリアが発見されないことを祈っておこう。
職員が戻ってきてレヴォリューションブックで間違いないと言った。しかも、『肉体強化』用のレヴォリューションブックらしい。『肉体強化』を持つレヴォリューターは多いので、オークションに出せばかなり高額になるだろう。
「オークションに出したいと思います。手続きをしてもらえますか」
「うむ。それがいいだろう。君、手続きを進めてくれ」
「はい」
僕の『結晶』『魔眼』『時空操作』用のレヴォリューションブックだったら僕が使ったんだけどなぁ。
「ところで、カカミ君は少し前に九級に昇級したばかりなのに、もう八級の昇級試験を受けるのかい?」
「はい。『SFF』の基準値を越えましたので、そのつもりです」
ダンジョンから戻って来てすぐにフィジカル測定器に入って『SFF』を測定したら、二五〇ポイントだった。
八級昇級の基準値が二〇〇ポイントなので、僕はその基準をクリアしている。それに、清州ダンジョンも踏破したので、八級になってE級ダンジョンの探索をしたいと思っている。
「基準をクリアしているのであれば、昇級試験を受けるのに問題はない」
大水支部長は次の試験の日程を教えてくれた。
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